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B MAIN  作者: 半半人
三界大戦 前編
127/173

最後に


 ふぅと一息。飲み干したコーヒーカップを置き、一時だけ全てのことを忘れた。


「ゼンさん?」


 今この時だけはヴェルの声に癒しを感じた。


「アイゼン。お前、このためだけにここに寄ったのか?」

「多分、しばらくここに戻ることはできないからな。せめて死ぬ前にと思ってた」

「嘘を吐け」


 余韻に浸るアイゼンはホバックを無視した。


「ご馳走さま。代金は…いや、ツケで頼む」


 アイゼンは硬貨を出そうとして止めた。


「ゼンさんにはいつも多くもらってるからいいよ」

「次に来たときに払う。必ずな」

「?」


 ヴェルにはアイゼンの意図が分からなかった。


「行くぞホバック」


 そして、店を出た。


「どうだここの雰囲気は?」

「悪くない」

「後でお前にはここの環境にあった種を産み出してもらうが」

「全てが終わったら、か。いつになるか」

「私たちは三界大戦とその先のことを考えなければならない。そのためにもここは必要になる」

「護衛はいないのか?」

「抜かりはない。大丈夫だ」


 アイゼンはここを中心とした人間、天使、悪魔が共存する未来を思い描いた。そして、ディック達との約束を果たすために。


「次は魔人界に行く。ザックもピリアルトも無所属で領主の情報が少ないからな」

「知り合いでもいるのか?」

「あぁ。といっても進んで会いたいとは思わないが」


 一度殺されかけたことがあったからな。


◇◇◇◇◇


 アイゼンとホバックは数日かけ、魔人界の奥地のあばら屋を訪ねた。アイゼンは顔が知れているため隠れながらの移動に二人はくたびれてしまった。


「ここが目的地か…」

「気を付けろ。機嫌を損ねると私もどうなるか分からない」


 そう言うとアイゼンは軋むドアを開いた。その時ホバックは何とも言えない悪臭に顔をしかめた。


「うっ…!何だこれ…!?」

「…」


 アイゼンは歩を進め、車椅子に座る男に近付いた。


「…知ってるぞ……この魂…あの時の子供か。くっくっく…」

「あの時とは違う。お前もそうだろ、ロディ」


 悪臭の原因は腐った血の臭いだった。


「お前らがオレ様の両足と羽をちょん切るからよぉ…くっくっ。退屈しのぎには丁度良い。ちょっと遊んできな」

「遊んでいる暇はない」


 ディックが殺すことを反対したが、それでもロディの残酷な行いの償わせるためレッズが両足と羽を奪った。


「つれないねぇ…で、そっちは?」

「取引をしよう。お前の持っている情報と、その足だ」

「おい。能力で治せ、と」

「あぁ。だから連れて来た」

「先に言えよ」

「バーキンス…随分と勝手なんじゃねぇか?……奪ったもん返してやるから、情報を寄越せ…んな虫の良い話があるか…」

「だが…」

「言い訳や謝罪を聞きたいんじゃねぇんだよ…分かるかぁ?なぁ、おい?初めからお断りなんだよ…殺されたくなきゃさっさと帰れクソガキ…」

「こっちは譲歩してるつもりだ。それでも断るのか?」

「うるせぇな!てめぇ、何様の!つもりだっっ!!その顔を見ると思い出すんだよぉぉ…!!あいつとこの傷の痛みをよぉぁ!!」


 ロディは塞がっている足の傷を何度も引っ掻いた。肉が切れ、骨が断たれる感覚を思い出していた。


「アイゼン、止めとけ。これ以上は危険だ」

「…あぁ。突然押し掛けて悪かった。そして、もう二度とここへは来ない」


 互いに苦い過去があるためこれ以上の接触は堪えられなかった。

 再び軋むドアを開閉し外へ出た。時間を掛けてここまで来たが、目的を果たせなくて二人は肩を落とした。


「仕方ない。うまくいかないこともある。だが、ここまで来たんだ。出来る限りの情報を集めて帰ろう」

「そうだな…?」

「どうした?」

「誰か、近付いている…いや!近くにいる!」


 アイゼンとホバックは臨戦態勢に入った。目の前に現れた人物を注視した。だが、特に動きも無く殺意も感じられないことから能力を解いた。


「何だ?何か用か?」

「ボソボソ…」

「“私の名前はトゥティス。ロディさんからこれを預かっている”と言っている」


 トゥティスは古くなった本と新しい数枚の紙を手渡した。


「これは、魔人界の歴史と現在の勢力図だ。何故これを?」

「何で人間のお前が悪魔の文字を読めるんだ?」 

「ボソボソ…」

「何と言ってる?」

「“あの人は老け込んでしまった。今でもディックさんとの約束のためペンを走らせている。それから解放してあげて”」

「ディックを生きて連れて来いということか」


 トゥティスの頼みを聞き、アイゼンは情報を手に入れた。予定とは違う形だが目的を達成することができた。


「ありがとう。では、私たちはこれで」


「ボソ…」


 最後にトゥティスは謝罪の言葉を漏らした。だが、それは二人の耳には届いていなかった。



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