鉄の意思
エウィンの能力により、メルトリープの能力だけが暴発した。それにより広範囲に“何かを封じる”効果を持つ空間が生まれ、その中にディック達はいた。メルトリープが能力を抑えようとする間にエウィンは領主を連れて逃げ出していた。バーキンスには耐性があったがディック達には無かった。そのため、第一に動きが封じられた。
「…メル……嘘だろ…」
「バーキンス!お前は逃げろ!動けるだろう!」
「…目の前で…死んだ……?」
「くそっ!能力も使えなくなってきた!レッズ、どうすればいい!?」
「どうも何も打つ手なしだ!私たちは最善を尽くした。だが、それでも勝てなかった。それだけだ」
「でも、まだあいつがいる!あいつに託す!」
「あぁ、分かってる。バーキンス!ディックの元へ行け!」
「…そっか、行かなきゃ」
バーキンスはディックへゆっくり歩み寄った。
「バーキンス。お前は聞いてるな。能力について」
「うん」
「なら、後は任せた。いいか、お前の人生の主役はお前だ。好きに生きろ。カフィーア!!」
ディックはバーキンスの胸に拳をぶつけた。そこに様々な思いを込めて、強い意思をバーキンスに託した。
ディックに呼ばれたカフィーアはバーキンスに能力を使った。
「まだ動けるこいつを範囲外に逃がしてくれ」
「分かったわ。でも、これが貴方からの最後の頼みになるなんて」
「死ぬ時は一緒だ。それで十分だろ」
バーキンスは幻覚に誘われ、ふらふらと歩き出した。
そして、ディック達は動きが完全に封じられ、能力も完全に使えなくなった。
「さすがに、封じられたら鉄の心臓も駄目か。バーキンスの幻覚はいつ解ける?」
「おそらく一時間後。ほとんど封じられてたから」
「そうか。はぁ、こんな所で負けるとは思わなかった。皆、悪いな」
「謝んなよ。オレらはこうなる覚悟でてめぇに着いてきたんだ。なら、謝るより先に言うことがあんだろ」
「そうだな。ははっ。改めて言う。皆、ありがとう。お前たちは最高だ」
「ふん、当たり前だ」
「ひぐっ、そ、そんなこと言うなよぉ…ぐすっ」
「泣くなジョイン。悔しいことは何もない。お前もよく頑張った」
「うわぁぁぁあぁん!」
「ったく」
「いいじゃない。大目に見てあげて」
メルトリープの能力が広がった範囲内の全てのものを封じ、その土地は消えてなくなった。正しくは綺麗な球体状に地面が抉れ、無くなっていたと言う。
そして、天元界と魔人界を騒がせたディック達の時代は幕を閉じた。
◇◇◇◇◇
ここは、どこだ?
見知らぬ場所で我に帰ったバーキンスは周囲を見渡した。
俺は何をしてた?全身が痛い。傷だらけだ…。
そこでバーキンスは自分の両の手を見た。そして、思い出し絶叫した。右の手首に残っていた手錠があの瞬間を甦らせた。
「あぁぁぁぁあああぁ!!!!」
目の前でメルトリープを死なせてしまった。絶対に守れと言われ、その手を掴んでいたにも関わらず。何もできなかった。そして、ディック達ももういない。その意味が分かると涙が出た。
俺はまだ、何も、返せていなかったのに…!せっかく拾ってもらった命を、仲間のために使おうと決めていたのに…!俺は、俺は……っ!!
そこで、気付いた。
「何だよ…何だよこれ!!」
指先の表皮から徐々に硬化していった。
「止まれ!何だよ!!」
それはまさにディックの能力であった。
「くそおぉぉっ!!」
無敵の肉体、不老不死、ありとあらゆる耐性を持つ。ディックの能力の一つ、無敵の肉体を意味する硬化をバーキンスは託された。
だが、無意識に発動する能力を抑えられなかった。他人のものであるそれは、発作のように突然現れたのだ。そこで、バーキンスは思い出した。
能力は三つの方法で人に移る。一つは強奪。殺した相手の能力が運良く手に入ることがある。一つは教授。能力についてを教わることで本当の半分程度の強さの能力を手に入れることができる。
一つは譲渡。全てを相手に渡し、自身は一切の能力が使えなくなる。
瀕死の悪魔が人間の友に能力を譲渡したという話をレッズは知っていた。
命を救った人間は何人もいた。そして、能力を避難させる候補としてバーキンスは育てられた。万が一の保険として、一人でも生きていけるように知恵と技術を叩き込んだ。唯一の失敗はそのことを忘れてしまうほど、ディック、リース、カフィーア、ジョインがバーキンスに愛情を注いでしまったことだった。そして、それはレッズにも少し当てはまった。最後の最後で全員分の全てを託すことができなかった。
結果としてバーキンスはディックの硬化の能力だけを譲渡され一人になった。
この時、バーキンスは誓った。バーキンスは一度死んだ。これからはアイゼンを名乗り、ディック達の意思を継ぐことを決意した。それからは必死に生き延びた。能力を体に馴染ませ、人間界、天元界、魔人界について学んだ。そして、今に至る。
◇◇◇◇◇
「…酔いが覚めた。柄にもなく長話をしたようだが気にしないでくれ」
そう言って席を外したアイゼンは一筋の涙を溢した。




