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B MAIN  作者: 半半人
幼き日の憧憬
112/173

勝敗

 はぁ、はぁ。一回目のダッシュで魔力を使いすぎた。メルを振り切れる速さが出せない。ペース配分を考えとけばよかった…。


 宛もなく闇雲に走っていた二人はあの湖へ続く崖に辿り着いた。逃げ場はもうない。


「いや、チャンスか」


 小細工できないならこっちの方がやりやすい。一か八かだ!


 じりじりと距離を詰めるメルトリープに全神経を集中させた。反応が遅れないよう全身に軽く力を込めた。


 来たら避ける…来たら避ける…。そこからは一瞬。ミスはするなよ…。


 頭の中で最善の行動を反復する。勝利へのイメージを確かなものにするために。



 長い沈黙の末、メルトリープが半歩前に出た。反射的にバーキンスも半歩下がり構え直す。その僅かな間に距離を詰められた。手を伸ばす動作に合わせ、さらに後ろに下がった。瞬発力はメルトリープの方が上であるため、受け身を取っているバーキンスの隙は次第に大きくなっていた。一動する度に少しの遅れが積み重なり決定的な隙が生じた。


 来る…!


 バーキンスが危機を察知し、姿勢を低くし標的となる体の面積を小さくした。そこをすかさず攻められるが、紙一重で回避する。が、メルトリープも姿勢を低くし地を這う足払いを放った。当たる、そう思ったバーキンスは瞬時に二つの切り返しを考える。上に飛ぶか、横に飛ぶか。後ろは崖のためこの二択しかない。上に飛べば次の動作が遅れる。横に低く飛び着地した瞬間。


 残りの魔力と力を込めて真正面に跳躍した。


「使うなぁ!」

「!!」


 バーキンスは後ろに下がるメルトリープの腰にしがみついた。


 能力、クリティカル・アウト!


 咄嗟の出来事で反射的に能力を発動したメルトリープ。これで終わったかのように思えた。だが、体当たりの威力は殺せず二人もろとも崖から湖に落ちた。羽を広げるがバーキンスの重量もあり飛ぶことも宙に留まることもできなかった。

 入水し二人は混乱した。着水の衝撃で胸を強打したバーキンスは大きく息を吐いてしまった。バーキンスを振りほどこうとするも動きを封じてしまったためしがみついた状態のままいくらを力を込めてもびくともしなかった。苦しいと感じる頃には意識が遠退き、バーキンスは気を失った。残されたメルトリープも必死に抵抗するが何もできず水底へ沈んでいった。


「馬鹿ガキ二人。世話が焼けるぜ」


 終始状況を見ていたディックが二人の窮地に急いで駆けつけ、メルトリープの手を引き陸へと引き上げた。


「起きろこら」

「ぶふっ!」


 怪力でメルトリープからバーキンスを引き剥がし、腹を軽く踏みつけて飲み込んだ水を吐き出させた。


「この勝負、お前の勝ちだな。なのに、何でそんな面してんだ?」

「……」


 ディックはにやにやと笑った。結果はバーキンスの自爆。予想通りメルトリープの勝利した。バーキンスは色々と策を練ったがメルトリープに効くことはなかった。


 だが、完全に後手に回っていた本人はそうは思えなかった。


「こいつもこいつなりに頑張ってる、ってことだ。ちょっとは認めてやれよ」

「…」

「じゃ、後は頼むわ」

「ディック」

「ん?」


 バーキンスが本気で勝負を挑んでいることは分かってはいた。だが、最後の「使うな」は勝敗よりも私のことを気遣っての一言だったのかもしれない。あの一瞬でバーキンスが何を優先させたかったのかは分からないが、その実力は十分に伝わった。


「そい…バーキンスを連れてって。しばらく…一人になりたいから……」

「素直じゃないねぇ」

「うるさい!」


 時間を掛ければなんとかなるだろう。ディックはそう思った。


◇◇◇◇◇


「…俺は……負けた?」

「あぁ」


 目覚めたバーキンスは最後の記憶を辿っていった。


「お前にしてはよくやったと思うぞ。と、言ってほしいのか?」

「やっぱバレてたか」

「当たり前だ」


 レッズだけは気付いていた。初めからバーキンスは勝ち目の無い勝負を挑んでいたことに。そして、バーキンスも分かっていた。


「わざわざ移動の度にこちらに視線を向け、向かう先を伝えてきたのも分かった。最後は機転を効かせた特攻だったが、それに似た策をすでに考えていたのだろう。負けを覚悟でな」


 メルトリープに認めさせながらも、そのプライドを傷付けないようにしようとバーキンスは考えた。そして、今回の結果になった。


「まぁ、色々と成長は見られた。出した課題も見事に達成したしな」

「あ、そうだった」

「なんだ。忘れていたのか。その話はまた明日にでもしよう。今日はもう休め」

「うん」

「それと、先程の実戦でお前のことが分析できた。これからは学習内容をより実践的、実用的なものに変えるからな」

「やった!」

「全く。その貪欲さは私も見習うべきか…」


 時間を掛けながらもバーキンスはまた一歩成長したのであった。

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