先手、後手
メルトリープはひゅっと小さく風を切る音を拾った。何か来る、そう思い身を屈めた。すると頭上を石つぶてが通り過ぎた。
近付いても、触れられても能力で封じられるから遠くから攻撃する作戦かしら。まぁ、居場所が分かったから今向かってあげる。
メルトリープは足早に石が飛んできた方向へ進んだ。
完全に目の前に意識が向いたとき、真横からバーキンスが接近した。その速さ、タイミングは完璧にメルトリープを捉えていた。何もできないと察した瞬間、反射的に能力を発動した。
能力、クリティカル・アウト!
バーキンスの動きを止めた。はずだった。
「ふっ、ぐぐっ!」
「何で…動けるの…!?」
バーキンスは顔を真っ赤にしメルトリープの能力の寸前で立ち止まっていた。
「ふぅ。何回食らったと思ってんだ」
小さく舌打ちをするメルトリープに反し、茂みの奥で静かに五人が騒いだ。
バーキンスはメルトリープの視界から外れてすぐに細工をした。小さな木をしならせ即席の投石機を作り、身を潜めていたのだ。その後、絶好の瞬間で姿を現しメルトリープの能力を誘発し、能力が届くギリギリ手前で踏ん張って立ち止まったのだ。
「あと一回、だろ?」
バーキンスは知っていた。メルトリープの能力について。
能力、クリティカル・アウトは相手に触れて発動するものと、メルトリープを中心として範囲に発動するものがある。先程誘ったのは範囲発動の方で、短時間での使用回数が二回と決まっている。
作戦その二。仕掛けるぞ!
バーキンスはもう一度背を向けて走り出した。罠を仕掛けられては面倒だと分かったメルトリープはすぐに後を追った。単純な走力では天使であるメルトリープの方が上であった。だが、
間に合わない…?私より少し速い!?
この時のバーキンスはそれを上回っていた。
「あいつ。出来んならやれっての」
「どういうことリース?」
隠れていたリースが微笑んだ。つい最近の修行の風景を思い出していた。
「いいか。魔力を拳にグッと集めてぶん殴れば岩も壊せる。やってみろ」
「できるか!」
「じゃあ、オレがお前をぶん殴るから相殺しろ」
「無理だよ!!」
結局できなかったくせにここで使ってみせるとか。やるじゃねぇか。
距離をとり、再び姿を眩ませたバーキンスは一度息を整えた。そしてすぐにメルトリープを視界に入れ様子を伺った。
よし。罠との距離は近い。逃げながらの誘導は成功した。
バーキンスはこの森の中の地形を利用した作戦を考えていた。だが、先程のこともあるし、メルは警戒して追ってこないかもしれない。
少し待つか。
それに対し、メルトリープは。
ここまで後手に回っていることに怒っていた。単純な策に引っ掛かり、単純な走力でも遅れをとった。今も隠れて何か細工をしているかと思えば腹が立ってくる。
メルトリープは足を止めた。そして数秒静止し、能力を発動した。
能力、クリティカル・アウト。
バーキンスは一つだけ間違いを犯した。メルトリープの能力の範囲を完璧に捉えることができた。だが、慎重であるがゆえに魔力を練る時間を与えてしまった。
森全体が能力の範囲内となり、その場にいる全生物の動きが封じられた。
「考えたな。何もできないバーキンスを探すだけの簡単な状況を作り出した」
「オレらも動けなくなったけどな」
「気にすんな。オレは動けっから」
「敵に襲われたら面倒だ。ディックは私たちの守りを頼む」
広範囲にした分、拘束時間は短いと思うが。ここからバーキンスがどうするか気になるところだ。
さ、最悪だ…!メルの能力が届いた!?何でだ!?
メルトリープを待つ間暇だったので横になっていたところで動きが封じられてしまった。こうなってしまっては何もできない。
数分後、メルトリープがバーキンスの元へ辿り着いた。
「少し思い通りになって楽しかった?それもこれで終わりだけど」
「まじか…」
くっそ!動け、動けよ!
「かなり頭が来たけど、私が触れて息を封じれば…」
殺す気か!
ゆっくりとメルトリープの手が近付く。
動け!
能力に抗う術は無い。レッズはそう言ってたけど、それじゃ駄目なんだよ!!
「じゃあね」
はっ!
指先が動いた。足に力が入る…!
バーキンスは足に力と魔力を込めて横に跳躍した。
「な、何で!?」
「俺も知らないよ!!」
理由は分からないけど今は逃げるしかない!
「あれ?お前らより早く治ってら。どうなってんだ?」
三人を抱えながら飛ぶディックが戦況を眺めていた。
「おそらく耐性ができていたのだろう。あいつは私たちと違って何度も能力の餌食になっているからな。それが広範囲にしたことと相まって作用時間が短くなったのだろう」
「へぇ」
理由はなんであれ面白くなってきたのは確かだった。




