勝負
「いやぁ、すいません。子供の喧嘩とはいえ、オレがちゃんと叱っときますので。はい、すいません。お前も頭下げんだよ」
懲らしめた子の親にディックと頭を下げに回った。俺は悪いことはしてないし、悪いのはあいつらだと思っていた。
「あのなぁ、こういう面倒なことはバレないようにやってくれ。オレは別にいいけど相手が許してくんないとややこしいことになんだよ」
「…ごめん」
「まぁ、お前が何かを思って行動したんなら何も言わねぇよ」
「うん。…何で笑ってるの?」
「ん?いや、ガキのくせにやりすぎって思っただけだ」
ディックは言うが、バーキンスにはそうは見えなかった。あれは、嬉しいときに顔に出てしまう類いの笑みであることには間違いなかった。
「じゃ、帰るわ。またな」
「おうよ。またな、ディック」
「バーキンス。また、戦いの話とか遊ぼうね」
「じゃあなホバック。いじめられるなよ」
夕方にはレッズ達と合流し、いつもと同じ生活に戻った。
「…でさ、バーキンスが能力を使ってるガキらを殴り倒したんだ」
「ほう」
「やるじゃねぇか」
ディックはすぐにリースとレッズに話した。
「誰かに似てきたんじゃねぇのか?」
「同感だ」
リースとレッズは微笑んだ。誰かのために戦えるようになったんだな、とバーキンスの成長を嬉しく思っていた。
「ま、オレの訓練のおかげだな」
「少し情緒的だが私の指導あってのことだろう」
「いやいや、一番はオレだって」
我の強い三人が主張を始めたらきりがかなかった。適当なところでジョインとカフィーアが止めに入った。
◇◇◇◇◇
「メル。話があるんだ」
話を切り出したのはバーキンスだった。
「俺はメルと友達になりたい。でも、人間だからって…」
「気持ち悪い。むしろこれが普通だと思うのだけれど」
「多分ね。だからって君に気を使うのはもううんざりだ」
「力の差が分かってないの?あんたに指図される筋合いはないわ」
「だから、はっきりさせよう」
日常でメルトリープに触れられないと分かった。そこでそうせざるをえない状況を作ろうとバーキンスは考えた。
「俺と勝負しよう」
「…本気で言ってる?」
「あぁ。互いに全力でやろう」
普通なら乗らない。嫌いな奴の誘いになんか聞きもしない。そこでバーキンスが考えられる最大の挑発をした。
単純な運動能力なら勝てるとでも思ってるの?生意気ね。
「いいわ。けど、能力を使ったら話にならないのでは?」
「やってみれは分かるだろ。場所はこの森で木が生えてない所まで」
「半径二キロぐらい、ってとこね」
「空は飛ばないでほしいんだ。逃げられたら困るからさ」
「逃げるわけないでしょ」
バーキンスはメルトリープの神経を逆撫でするような言葉遣いで巧みに誘導することに成功した。
「おいおいおい。何かおもしれぇことになってんじゃねぇか」
「あっちゃー。ありゃメルぶちギレだな」
「わざとだろう。あいつはこの半年、対象をしっかりと観察したんだ。油断はないだろう」
「うふふ。面白い展開ね。ね、ディック?」
「だな。あいつがどこまでやれんのか見守ってやるか」
ディック達は二人の様子から何かが起こると予想し陰から眺めていた。両方を応援するが、バーキンスがどのような立ち回りをするのか全員が期待した。
「もう少し開けた場所にしよう。そこで勝負だ」
バーキンスはそう言うと、森の中心にある木々の少ない場所へ移動した。
「ここね」
「あぁ。じゃあ、やろうか」
メルトリープが臨戦態勢に入り、バーキンスが構えた。
あれは…。
陰で見守る四人がリースを見た。その構えがリースのものと全く同じであったからだ。
しばらく睨み合い、先に動き出したのはメルトリープだった。バーキンスへ一歩近付いた。その瞬間、バーキンスは背中を見せて全力で逃走した。
「…え?」
全員が唖然とした。あれだけの挑発をし、場所を変えた本人がまさかの逃走。何を考えているのかさっぱり分からなかった。
「あ、オレの戦い方か」
一番に気付いたのはジョインであった。
「どういうことだ?」
「いや、何て言うか。オレが教えた戦う戦う詐欺」
ジョインは真っ向からの戦闘を好まない。そのため、相手の考えないような馬鹿なことをしたりして焦らす作戦を使い相手のミスを誘う。
圧倒的に力不足のバーキンスはそれが自分に合っているということで採用したのだった。
メルは追わずにはいられないはずだ。俺の作戦がどこまで通じるか、勝負だ!
「何か、罠っぽいけど。いいわ、乗ってあげる」
バーキンスの思惑通り、メルは後を追った。先に逃げたバーキンスは姿を眩まし、様子を伺っていた。
作戦その一。そろそろだ…!




