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B MAIN  作者: 半半人
幼き日の憧憬
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能力、残像


 何かディックの向かった方が騒がしくなったな。アタリか?


「どこを見てるの?」


 リースは首に迫る太刀を躱した。


「攻撃する時いちいち言わなくていいんだぜ」

「…余裕のつもり?」

「そう言ってんだよ」


 リースは助けを求める天使を無視し、戦闘に集中した。


 ここで悪さする奴等は全員殴り殺した。後は太刀を携えた女の天使だけだ。他の奴は手応え無かったが、こいつはなかなか。


「強え奴は好きだぜ」


 リースは攻撃を受けながら話続けた。


「名前は?」

「…サイリス」

「そうか。で、何で戦ってんだ?」

「貴方が言う通り強いから」

「は?」

「私が強いから。戦わなきゃいけないから…。それに、死ぬ奴が悪い。弱いのが悪なの」

「その考えはよく分かる。けどよ、てめぇが殺した責任を誰かのせいにするのはおかしいんじゃねぇか?」

「否定するの?貴方も仲間を殺したくせに」

「そうだ。オレが、オレの意思に従って殺したんだ」

「…」

「お前は誰かに言われて仕方なく戦ってる、って顔してるがそんな適当な理由なら止めた方がいい」

「止めない。これからも私は変わらない」

「自分のために戦えねぇ奴は嫌いだ」


 リースはサイリスの一太刀を掴まえた。


「強いは自由だ。何でもできる。だからって弱い奴から自由を奪うのは違うんじゃねぇか?」

「弱い奴が悪い。それだけ」

「そうか。それじゃあ」


 リースは刀ごとサイリスを引き寄せ、強烈な前蹴りを食らわせた。


「立てよ。お前が言うように弱い奴が悪なら、オレがお前を殺しても文句はねぇよな」

「…まるで悪者の台詞みたい。貴方は弱い者を助ける正義の味方じゃないの?」

「はぁ?勘違いしてんじゃねぇ。オレは弱い奴を助けに来たんじゃねぇ。悪りぃ奴を殺しに来たんだ」


 能力、残像。


 能力、銀姫の鉄刀。


 二人が能力を発動し、攻撃の間隔を縮めた。繰り出す技の速度が増し、数を増やし、一撃一撃に力を込める。互いの力量がはっきりと分かった時、先にリースが動いた。


 ゆったりと歩くとそのすぐ後ろに陽炎の様なものが立ち上がった。それは次第にはっきりと見えるようになり、最後はリースの軌跡そのものがその場に残った。サイリスはその動きから先を読み、リースの胴を切り払った。


「取った…!」

「集中、切れてんぞ」

「!」


 背後に立たれたことにサイリスが驚き、横に跳んだ。手応えはあった。目の前で半身が離れているのに…。背後にいるのに、目の前に残っている……?


「今に分かる。殺される奴の気持ちが」


 全く反応できていないサイリスの顔に拳が叩き込まれた。その威力は凄まじく、拳の突き出された方向へ数十メートル吹き飛んだ。瓦礫にぶつかり、その勢いが消えるとすぐにリースの元へ跳躍した。リースは機動力を生かした攻撃を躱わし、再び能力で影を残した。


「ふぅ…ふぅ…!」

「良い表情だ。顔を殴られるのは初めてか?」

「煩い」

「その感触忘れんな。お前が弱い証拠なんだから」

「煩い!!」


 サイリスは渾身の連撃を繰り出した。間合いに入るもの全て切り刻む、絶対両断の太刀。今まで防がれたことのない、最強最速の技だった。


 しかし。


 サイリス繰り出した連撃は全て受け止められた。


 リースが連続で繰り出した拳とその影が無数の連撃となりサイリスの連撃を相殺した。


 そして、威力で、数で、速さで上回った拳の数々はサイリスに浴びせられた。


「影はその場に残る。本体と全く同じ影がな」


 リースの能力は分身に似ているが少し違う。全身の影を残せば、そこに実体が存在する。触れもするし、体温も感じる。攻撃の拳を影として残せば、それが持つ衝撃も実体として存在する。詳しいことはレッズが理解しているため、リースは特に説明することは無かった。


「…負けない……私が負けるはずがない!!」

「タフだな。でも、次で終わりだ」


 リースが再び影を残し、サイリスに近付いた。サイリスは刀を前に構え、攻撃を誘った後の迎撃に備えた。


 派手な打ち合いから一転し、互いに一撃でけりをつけることを望んだ。


 オレは自分の強さを信じている。そして、それが確かなものであることを証明し続けるためにも、オレは負けるわけにはいかない。勝者は肯定され、敗者は否定されることを知っているから。少し力がある程度の小娘を調子に乗らせるほどオレは優しくはねぇ。


 私は強さについて考えたことは無かった。実力があり、刃向かう奴なんて一人もいなかった。対峙した者も敵として見ていなかった。だが、この相手は…。リースは凄いと思った。初めて対等以上に戦える()に出会い、何と言い表せばいいか分からなかった。だが、これだけは確かだ。


 この場に立っていた者が勝者だと。


 リースは振り上げた拳に、サイリスは抜き放った一刀に力を込めた。


 影を残しながら進む拳が到達する前に、刀がリースを捉えた。だが、これは影だと分かっていたため、その奥に踏み出し突きを放った。


 一撃を交わしあった僅かな間、数秒にも満たないこの時を二人は忘れることはなかった。


◇◇◇◇◇


「…はっ……!」



 顔面の激痛で目覚めたリースは急いで立ち上がった。


 私は戦っていた。相手は?勝ったの?


 鼻の骨が折れ、鼻血を垂らしながら周囲を見回した。そして、遠くに小さくリースが見えた。


 思い出した。あの一歩がなければ…。いや、そこまでリースは考えていたのだろう。


 影に気付き本体を攻撃しに来ると分かっていたリースは、サイリスの顔の高さに拳の影を残していた。それも強烈な。


 初めての敗北。初めての痛み。それでも何故かサイリスは思った。


 漠然とした強さの在り方と強者との駆け引きの面白さを。


 そして、強者だけを求めるようになってしまうのは後の話である。



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