能力、鉄の心臓
ディック、リース、ジョイン、カフィーアが次の地へ向かい、レッズとバーキンスは居残りとなった。
「傷が癒えるまではこれだ」
レッズは二冊の本をバーキンスの前に置いた。一冊は日焼けし、表紙が掠れていた。もう一冊は丁寧に紙を束ねただけの本というよりは書類に近いものだった。バーキンスは日焼けした方を手に取ってみたが理解できなかった。そもそも文字が読めなかった。
「これは何?」
「見ての通り小説だ。私の好きな純文学のな」
「そうじゃなくて。この文字読めないよ」
「もう一冊を見ろ」
「この雑な方?」
「確かに本とは言えないが、その価値は…。いや、子供に話しても分からんか」
もう片方を開くとそこには読める文字と読めない文字があった。
「それは私が天使語を人語に翻訳した、云わば辞書だ」
「翻訳?辞書?」
「翻訳とは違う言葉を知ってる言葉に直すこと。辞書はそれらが載っている本のことだ」
「えぇ。これ見ながら本を読むの?言えば分かるのに」
「文句を言うな。覚えておいて損は無い。やれ」
この世界では天使、人間、悪魔の順で個体数が多い。そのため、天使語を理解していると得られる情報量が多くなる。人語の理解もまだ拙いが、それは会話で補える。
「全て頭に叩き込め」
「全部なんか無理だよ」
「時間はたくさんある。無理ではない」
「でも…」
「話すのは時間の無駄だ。黙って文字を追え」
「…」
「分かったか?」
「…はい」
第一に土台を作る。知っていることは強みだ。様々なことに対応できるし、応用も効く。分からないものに出会っても考えて行動することができる。
レッズはそうなれるように、バーキンスの性格から整えていこうと考えていた。
◇◇◇◇◇
目的地に到着したディック達は違和感を抱いた。
これまでは人間のいた場所が攻撃対象であったのに、今は天使の町が襲われている。
「悪魔のオレらは少しやりづれぇぞ」
リースはカフィーアと目を合わせた。
「逆に考えよーぜ。ディっちゃんと俺ちゃんは動きやすいってことだしさ」
ジョインは緊張を解そうとディックに寄り掛かった。何かを感じたディックか先走らないように。
「やることはいつもと変わらない。戦う気の無い奴は攻撃するな。あとは死ぬな。これもいつも通りだ。んじゃ、いくぜ!!」
「おう!」
「あいよ!」
「は~い」
四人が始動し、各方向へ散開した。
この時、ディックは最も被害がある居住区へ向かった。途中で敵に見付からないように物陰を走り続けた。
最悪だ。結構走ったけど、生きてる奴が誰もいねぇ。転がってる死体の傷も様々で酷すぎる。頭のおかしいやつが何人か、ってところか。これ以上好き勝手はさせねぇぜ。
「…見っけた」
赤黒い衣装を纏った一人の悪魔を見付け、正面に立はだかった。
「一人、なわけないか。まずはお前をブッ飛ばす。他の奴は後で……」
「くっくくく…。君はぁ、これを何人かで殺ったって言いたいんだろぉ?」
うわ、何だこいつ。やべぇ奴に当たっちまったな。
「ま、まぁ、そうだな」
「残念でしたぁぁ!!これ全部、このロディ様が殺ったんだよぉぉ!!」
「!!」
「君も殺してやるからさぁぁ!!」
能力、血溜の杯。
ロディが能力を発動するとディックの周囲に赤黒い巨大な杭が出現した。
「これは…やばそう、だ!」
「逃がすかよぉ!!」
杭を避けたディックは一度距離を取った。
何だあの能力は?いきなり現れて攻撃してきたってことは、何かを作って操る能力か?それとも隠してたのか?考えてもめんどくせぇな。次の攻撃で距離詰めてぶん殴る。それでいい。
「…うおわっ!」
構え直している途中で背中に何かがぶつかった。ディックが首を後ろに向けると赤黒い巨大な金槌だけがそこにはあった。飛ばされた方向には赤黒い細身の太刀を持つロディがいた。
身の危険を感じたディックは両腕で頭と顔を覆い、体を丸めた。
しかし、地面から突出した針にディックは貫かれた。
「良い反応だけどよぉ、この能力の前じゃ!絶対にぃ!!無理!だ!」
ロディの能力は流出した血液を操る。そのため、多くの天使が殺されたこの場ではいくらでも血液が手に入る。
「今、この場では無敵のロディ様に勝ってるわけねぇんだよぉ!!!」
ロディは串刺しになったディックから漏れる血液を操った。
「まだ死んでねぇよなぁ?どうやって死にたい?切る?潰す?全部だ!全部に決めた!!」
武器を可能な限り作り出し、ディックに向けた。最大限の苦痛を与えて殺す。そう思った。
「…馬鹿じゃねぇの?」
「!?」
「誰かを殺したい、っていうわがままに関係ねぇ奴を巻き込むんじゃねぇよ」
能力、鉄の心臓。
「それに、無敵っていうのは」
ディックが能力を発動すると体の傷が消え、刺さっていた針が砕けた。そして、自由になった身で近付いていた武器を一撃で全て殴り壊した。
「オレのことを言うんだよ」




