一人の英雄
今は亡き小国、モータルス。そこでバーキンスは生まれ、滅亡する様を見届けた。
天使と悪魔の連合軍に奇襲を受け、瞬く間に滅んだ国と歴史に残っているが事実は少し異なる。
私が覚えているのは左腕の激痛と小さな血溜で踞っていたということだ。突然の衝撃で家が崩れ、その下敷きになりやっとの思いで這い出た先は地獄絵図そのものだった。数々の能力跡と息絶えた人の姿が今も強烈に焼き付いている。
「…しょう……ちくしょう…!!何で俺達がこんな……!」
おそらく皆死んだであろう。そう思うと沸き上がる怒りも引き下がり、生きることを諦めようとした。
天使は魔力を、悪魔は魂を察知し、瀕死の私の元へ近付いて来た。
殺される……殺される!!
くそっ!何で!足、動けよ!!行かなきゃ死ぬ…逃げなきゃ死ぬ!!
頭で死を受け入れても、本能が生きたいと激しく訴える。なら、それに従うだけだ!!
すると、力強い足音が聞こえてきた。一歩一歩確かな足取りで、背後から近付いてくる。何故かは分からないが、その音に恐怖はなかった。
「そこのガキんちょ。もう安心していいぜ」
目の前に立った天使は振り返り、にっと歯を見せた。不覚にも敵であるはずなのに、その姿に安堵し格好良いと思ってしまった。
「てめぇら!!こんな子供にも手出すってんならオレが相手になってやる!!」
その言葉は心の底から発せられているとすぐに分かった。怒りの表情で迫って来た天使と悪魔を一撃で殴り倒したからだ。
その様を逃げることも忘れて眺めていた。絶対に勝てない敵を打ち倒したその姿を一生忘れることはないだろう。そいつの名は、
「オレはディック・シュタルバード」
それは、バーキンスが九歳と四ヶ月の時の出会いであった。
◇◇◇◇◇
「で、どうするんだあのガキ?」
「どうもこうも親も知り合いもいないなら仕方ねぇ。オレが面倒見る」
「自分勝手なのは以前からだが、こればっかりはどうしようもできませんよ」
「別にいいだろ。普通にしてれば多分大丈夫」
「見たところまだ子供だろう。食事は?教育は?成長したらどうしますか?」
「その通りだ。それにオレはガキが嫌いだ」
「なぁ頼むよ。リースは運動、レッズは勉強」
「お前は?」
「オレの背中を見てばいい」
「おい。ふざけてっと殺すぞ」
「それには私も同感だ」
「二人とも殺せないくせに何言ってんの」
「殺す…!?」
そこでバーキンスは目覚めた。
「おぉ!」
「オレはゴメンだ。勝手にやってろ」
そう言うとリースは立ち上がり、空へ飛んでいった。
「今空を飛んでったでけぇ猫の悪魔がリース・ウォンステッド。で、隣にいる片眼鏡がレッズ・スポード。で、オレが…」
「…ディック・シュタルバード。何で俺を…うぅっ!」
「大人しく寝てろ。いくらルディーが完璧に縫ったとしても骨は折れてるわ血は無いわで死にそうなんだからよ」
「答えてよ!!」
「…そう怒んなよ。オレはただ天使、悪魔、人間が笑える世界を作りたいんだ」
「そんなの無理だ…だって、俺だってこんな目にあってるんだからさ!無理だね!」
「まぁ、そう言われたらそうなんだけど…」
「ディック。こんな子供に論破されるな。…お前の名前は?」
「バーキンス」
「いいかバーキンス。こいつは馬鹿で、いい加減で、自分勝手だ」
「おい」
「だが、こいつは本気だ。そして、その夢を見てるのは私も同じだ。お前がそれを否定したいなら本気で来い。何もできないお前が何を言うのも勝手だが、責任を持てよ」
「……」
「ガキんちょ相手にムキになんなよ。でも、そういうことだ。オレは大マジだし、それができる。見たろ?カッコ良く敵をぶっ飛ばしたところ」
「…よく覚えてない」
「はぁ?嘘吐くな!」
「嘘じゃねぇよ!」
「嬉し涙流してたくせに!!」
「泣いてねぇよ!」
「泣いてました~!ついでに小便も漏らしてました~!」
「ディック…」
「漏らしてねぇよ!このやろ……っ!!」
「わははっ!傷のこと忘れんなバーカ!分かったかガキんちょ!今のお前は何にもできねぇんだから寝とけ」
「…っくしょう……!」
「あ、おねしょすんなよ」
「もう止めろ」
「…しねぇよ…!くそっ!」
ガキはお前だろ!あのクソ天使が!
バーキンスは深い傷のせいで、再び眠った。本人は気付いていなかったが、この時すでに何の理由もなくディック達を少しだけ信用していた。
しかし、自分の命を助けてくれたのは天使が何をしたいのか。バーキンスにはさっぱり分からなかった。




