厳戦
天使は近距離に向いているため単体での力が強い。そのため数の多い悪魔と対等に戦うことができる。
「一撃で終わらせる気だったが、能力は本物みてぇだな。てめぇら、こいつには手出すなよっ!」
足に力を入れ、大きく吹き飛ばされるのを防いだが、
「どこまで持つかな?」
すぐに距離を詰められてしまった。連撃を避けつつ、打開策を考えていた。速く、重い一撃をもう一度食らえば立てなくなるかもしれない。
中、遠距離で攻めるのが最善だが、それをさせない機動力と立ち回りに翻弄されていた。
「ならば、こうしよう。私が勝ったら聞きたいことを全て話そう。負けた時は…」
ジェネックスの拳が顔面を捉えた。
「自分に命でもくれてやるよ」
だが、硬質化を集中させていたため最小限の被害に抑えることができた。
「その言葉忘れるなよ…!」
右腕に硬質化を集中させ、地面を思いきり殴り付けた。粉塵を巻き上げ、周囲の建物にも衝撃が届いた。 ジェネックスは空を飛び、その場から逃れた。それこそが私の狙いだった。
ジェネックスも私も近距離戦闘に特化している。そのため、一度距離を空けるとどちらかがそれを詰めなければならない。つまり、一方は移動・攻撃と二つの動作を。もう一方は反撃という形になる。ジェネックスは明らかな前者。総合的にはあちらが上だが、こちらが反撃にのみ集中すれば勝てる可能性はある。二度と来ない好機に備え、深く息を吸った。
時間と共に晴れていく煙を壁に、自分に有利な場所に移動した。おそらく、直ぐに見付かるだろう。その瞬間を見定めしっかりと対応出来れば…
負けはしない。
「…見つけたぁ!!」
ジェネックスはアイゼンを見付けると静かに距離を詰めた。気付かれる限界まで近付き、魔法による加速で背後からの奇襲を狙った。拳に魔法を集中させ、全力で攻撃を放った。
しかし、
「…ハインシスは何が有名か知ってるか?」
アイゼンはその全てを察知していた。
粉塵が消え、日の光が地面を照らした時。足元でいくつかの光線が目に入った。職人の繊細な研磨技術は石の断面を鏡のようにすることも可能であったのだ。
「白黒だが、しっかりと見える」
向き直し、ジェネックスの拳を正面から食らった。腹部に八割の力で硬質化を集中させても内部に大きな衝撃を与えた。だが、それも含めて想定内。残りの二割で硬質化させた右腕をジェネックスの首に巻き付けた。
「っ、がぁ!!」
「蹴りが来るか、顔面を狙うかのどちらかなら詰んでいたがな」
再び硬質化を全身に広げ、ジェネックスの意識を完全に落としにかかった。腕に力を込め、一気に圧迫した。
対するジェネックスは可能な手段を脳内で試してみた。羽ばたいならば…近すぎて羽が思うように動かない。そのうえ、二人を支えるには限界がある。何らかの攻撃…背後への攻撃は難しい。体の動きが制限されているのも最悪だ。足掻くことしかできない。
その中でジェネックスは唯一助かる方法を選択することはなかった。仲間を呼ぶという行為を、天使の長であるという意地が押さえ付けたのだ。だが、それが生み出した炎はジェネックスの体を覆い、アイゼンの身を包んだ。次第に上がる熱量が、硬質化を上回る威力に達したとき。くだらない固定概念を振り払い、ようやく一人の相手として向き合うことができた。アイゼンの意志、ジェネックスの意地。互いの揺るぎない思いが生死の間際通じあったかのようだった。
だからこそ、
「っらぁぁぁぁあぁ!!」
業火を纏うジェネックス。
「……っ!!」
静かに勝利の時を待つアイゼン。
進むことしか出来ない。例えそれが死に繋がるとしても。
そして、勝負の幕切れはいつも突然である。
炎の僅かな揺れに気付いたアイゼンは攻撃を止め、動き出した。ジェネックスを後ろに放り投げ、前から来る風に備えていた。両腕を硬化し、防御に集中した。その後間もなく、三本の矢がアイゼンを襲った。
「重いな…!」
矢が飛んできた方とは真逆、シナが待機している方に目を向けた。こちらの騒動に気付き、援護してくれたのだろう。それはありがたいのだが…
「…仕切り直しといくか?」
アイゼンは笑っていた。唯一の勝機を逃したのだから、当然だった。
だが。ジェネックスはじっとアイゼンを見ると、
「…やめだやめだ」
溜め息を吐き、戦闘を放棄した。
「まさか、そっちから引き下がってくれるとは思わなかったよ」
「ふざけんな。ただ、自分に興味がなくなっただけだ。オラ!何見てんだ!?帰るぞ!!」
待機している部下に撤退を命ずるジェネックスは終始真顔だった。
「勘違いすんなよ。今日はただ、早めに帰るだけだ。この勝敗はまた別の時に、な?」
「あぁ。私もその方がありがたい」
この場は引き分けという事で一応丸く収まった。
「帰る前に一つ聞きてぇ。ディックは自分が殺したのか?」
「いいや。今も生きているはずだ」
それを聞くとジェネックスは何も言わずに飛び立っていった。こうして、アイゼンの戦いは一段落したのだった。




