盛り上がってるトコ悪いけど、オレただの人間ですから!
「きゃははっ!!
そんな所にいないで、サトシもこっちおいでよ~!
楽しいよ~! 」
楽しそうにオレに話しかけてくる少女の名前はヒメコ。彼女は今、とある生き物とじゃれ合っている。
「いや、オレは遠慮しとくわ… 」
「え~~!
ヒメコつまんな~い!
相変わらずノリ悪いよ~、サトシ~ 」
「いやいや!
オレ、ただの人間ですから! 」
ちょっと拗ねた顔をオレに見せ、ヒメコは両手をブンブン回して火の玉を連発している。ヒメコは魔法使いなのだ。
「グォオオオオオ!!! 」
という断末魔を残し、とある生物は丸焦げになってしまった。ちなみに、とある生物というのは、体長数メートルはあるドラゴンだ。
「きゃはは!
ヒメコの勝ち~!!
サトシもやれば良かったのに、火の玉合戦! 」
「だから、オレはただの人間だっつーの!
火の玉なんて出せるかよ! 」
「ねぇ、プリン!
ドラちゃん死んじゃったから、生き返らせて~! 」
ヒメコがそう話しかけたのは、プリンという名の謎の生物だ。餅のような丸い胴体に、短い足が4本生えている。まぁ、一言で言うと奇妙なブタだ。ちなみにドラちゃんと言うのは、ヒメコが倒したドラゴンの事である。
「やだ、めんどくさいし、もう疲れた。 」
このヒメコに反抗的な態度を取っているブタは、見た目が奇妙なだけでなく、喋ったり、不思議な力を使うことができる不可思議ブタだ。
「あ、そう言うことヒメコに言っちゃうんだ~!
じゃ、今日の晩ごはんは焼きプリンだね~! 」
そう言うとヒメコは両手に火の玉を出し、ブタに狙いを定めた。
「ウソです!
やります!
是非やらせて下さい、ヒメコさん! 」
プリンは慌てて、不思議な力を使い丸焦げになったドラゴンを蘇らせた。
「グォオオオオオ!!! 」
復活したドラゴンは、ヒメコを見るや否や一目散に逃げ出してしまった。
「ドラちゃ~ん!
待ってよ~!
火の玉合戦して遊ぼうよ~! 」
実はこのやり取り、5回目なのだ。ドラゴンを丸焦げにしては復活させ、丸焦げにしては復活させ、丸焦げ…
口から炎を出してオレたちを襲ってきたドラゴンを見たヒメコは、雪合戦ならぬ火の玉合戦という遊びを思いついたのである。
「ドラちゃんと仲良くなって、もっといっぱい遊びたかったのに~ 」
「それはそうと… 、ヒメコ。
もう夕方だし、そろそろ家に帰らないか? 」
「そうだね~ 。
じゃ、サトシのテレポート魔法で家に帰ろ! 」
「だから何回言えばわかるの!
魔法なんて使えないっつーの! 」
オレがヒメコにそう訴えると、小さな声で奇妙なブタが喋った。
「ちっ、本当に使えない男だな… 」
「おまえ、マジでヒメコに焼きプリンにしてもらうぞ、コラ! 」
そんな感じの会話を交わしながらオレたちは地味に徒歩で帰宅。ヒメコの家に着いた。家と言っても、お城なのだが。
ヒメコはこの国のお姫様なのだ。そして、オレはヒメコとこの奇妙なブタと一緒に暮らしている。ちなみに、この奇妙なブタはヒメコの家畜だ。
「家畜じゃなくてペットだ、この役立たずバカ男。」
「てめぇ、何勝手に人の心読んでんだよ、晩飯にするぞ、コラ! 」
そもそも、この奇妙なブタのせいで、オレはこの異世界に来てしまったのだ。
オレはこの間まで、ちょっと口の悪い普通の高校生だった。ある日、通学していると道の前方で餅のような大きくて奇妙な物体が動いていた。
(なんだありゃ? )
オレはその奇妙な物体が気になり後をつけてみた。
「クシュッ!! 」
(え? 何? クシャミ? )
その奇妙な物体はクシャミをするとオレの方を振り返った。
(なんだ、この奇妙な不可思議なブタは!! )
驚きの余りにオレはフリーズしてしまった。謎の物体は奇妙なブタだったのだ。オレと目があったが、しばらくすると何事も無かったかのように、また前を向いて動き出した。
(なんだったんだ… )
再び、オレは奇妙なブタの後をつけた。しばらくすると突然立ち止まった。
「クシュッ!! 」
(またかよ… )
その奇妙なブタはクシャミをするとオレの方を振り返った。また目と目が合ったのでオレも立ち止まった。しばらくすると、またまた何事も無かったかのように、また前を向いて動き出した。
(なんなんだよ… )
またまた、オレは奇妙なブタの後をつけてみることにした。しばらくするとまた突然立ち止まった。
「クシュッ!! 」
「ったく!
何なんだよ、おまえは! 」
オレは奇妙なブタがこっちを振り返る前に蹴りを入れていた。
「君は誰? 」
「ブタが喋った!!
てか、こっちの方こそおまえが何者か聞きたいわ!
それに、さっきから何度も目合ってるじゃねぇかよ! 」
「あ、今動いた。 」
「だから何だよ! 」
「あなたは私たちの世界を魔王の手から救ってくれる勇者様ですね! 」
「は? 突然すぎて意味がわからん。
あ~、まだ寝ぼけてんだな、オレ。
そろそろ学校行かなきゃ遅刻するわ。」
「勇者様、どうか私たちの世界を救ってください! 」
奇妙なブタがそう言うとオレの視界が白くなった。しばらくすると白い靄が消えて、周りを見渡すとオレは王宮のような場所にいた。
「おお! 伝説の勇者!
ずっとそなたを待っていたぞ。
どうかこの世界を魔王の手から救ってくれ。 」
王様の様なじーさんは唐突にオレにそう言った。その傍らには、さっきの奇妙なブタもいる。何がどうなってんだ? 夢か?
「状況が理解できていないようですね。
あなたは人間界から召喚された伝説の勇者なのです。」
奇妙なブタがざっくりと説明してきた。
「いやいや、オレただの普通の人間だし。」
「あなたなら、この鞘に入った剣が抜けるはずです。
これは伝説の勇者にしか抜くことができない剣なのです。
さぁ、抜いてみて下さい! 」
奇妙なブタはそう言うとオレにその鞘に入った剣を渡してきた。にしても、いちいち強引だな、このブタ。
「堅っ!!
全然抜ける気がしないんですけど。 」
「どういう事じゃ、プリン!! 」
王様であろうじーさんはブタに憤りを感じているようだ。
「いや、私にもどういう事かわかりません!
オババ様が異世界の地図が映ってる水晶に鼻くそを飛ばして、
その地で、達磨さんが転んだ をして私に負けた方が伝説の勇者だと言っておりました。」
「プリンよ、オババの言った事を真に受けたのか? 」
「はい… 」
「お~い、ヒメコ~ぉおお!
今日の晩御飯決まったよぉおお! 」
「嫌ぁああーーーーーーーーーー!!! 」
それがオレとこの奇妙なブタとの出会いだったのだ。
異世界からの召喚というのは結構なエネルギーが必要らしく滅多にできない事らしい。というわけで、本当の勇者が現れるまでオレとプリンで魔王を何とかしろと言われたのである。
不可思議ブタとただの人間にそんな無茶ぶりされても、そんな事できるはずも無く、オレはブタと一緒に暇な日々を過ごしていた。
そんな暇そうにしているオレたちに目をつけたのがヒメコである。この国の姫にして、最強の魔法使いだ。
ヒメコはいつも独りぼっちだ。まだ子供なので悪気はないのだが、その強力な力もあって結果的にやることがえげつない。この国では、歩く厄災と呼ばれている。
「ねぇ~、そこの人~! 」
ヒメコはオレたちに話かけてきた。ヒメコの声を聞いたプリンはガクブル状態だ。
「君の横にいるのはヒメコのプリンだよね?
お父さんに取り上げられてたんだけど、なんで君と一緒にいるの~?
それに、もう大きくなってきてるみたいだし、そろそろ食べていい? 」
「いや、ダメだろ。」
「きゃはは!
それって、オレと勝負して勝ったらこいつを食わせてやる! ってパターンのやつだよね~!
いいよ~!
じゃ、勝負はじめよっ! 」
「いやいやいやいやいやっ!
オレ、ただの人間ですから!
そんなに食べたけりゃ差し上げます! 」
「薄情者ぉおおおお!! 」
「おまえに情なんてないわ!
さっさと食われろ! 」
「君、おもしろいね~!
名前、なんて言うの~! 」
「サトシだ。」
「じゃ、サトシはヒメコの旦那さんになる? 」
「なんでそうなる? 」
「だって、プリンと一緒にいるから。」
「は?? 」
「プリンはヒメコの子供であり、ペットであり、家畜であり、非常食なんだよ~!
だから一緒にプリンを大きな子に育てて、ヒメコとサトシ二人で一緒に食べるの~! 」
「嫌ぁああーーーーーーーーーー!!! 」
そんなわけで、オレのいた世界では100%手を出したら犯罪となる幼い少女、しかも歩く厄災と言われているヒメコとオレは強引に婚約させられた。
非常食兼家畜、今のところペット扱いのプリンを連れて日課である散歩をしていた時、ドラゴンと出くわしたのだ。この散歩コース、何故か週替わりで出て来る魔物が変わるのだ。ちなみにオレは何度か魔物に殺されていて、プリンに蘇らされている。
「今日はドラちゃんだったね~!
楽しかった~! 」
「それにしても、日に日に魔物のランクが上がってきている気がするんだよなぁ… 。
これってそろそろ魔王を倒さないとヤバいパターンのやつなんじゃないか? 」
「え~!!
ダメだよ~! 」
「なんで? 」
「だって、ヒメコのために描いてくれてるから~! 」
「は?? 」
「だからね、マオちゃんはヒメコが退屈しないようにドラちゃんとかを描いてくれるの!
マオちゃんの書いた絵は飛び出してきて本物になるんだよ~! 」
「ヒメコさん??
ひょっとして、マオちゃんって魔王の事?? 」
「そうだよ~!
ちなみに、プリンはマオちゃんが最初に描いてくれた絵なんだよ~! 」
「ええーーーーーーーーーーー!!! 」
オレとプリンにとっては、驚愕の事実であった。
「にしても、マオちゃん… 。
画力の上達、半端ねぇ… 。
てか、ヒメコ!
魔王のこと知ってるのか? 」
「もちろん知ってるよ~!
あ、なんかマオちゃんの話してたら、ヒメコ久しぶりにマオちゃん家に遊びに行きたくなってきた~!
ねぇ、サトシとプリンも行こうよ~! 」
「いや、いきなり魔王に会いに行くとか無理だし。
それにオレ、ただの人間だし。」
「相変わらずノリが悪いなぁ~、サトシは~!
じゃ、プリン一緒に行こう~! 」
「やだ、魔王のトコとか、そんな危ない場所行くわけないし。」
「そっか~!
じゃあ、ヒメコ晩ごはんの準備するね~!
サトシ~、今日の晩ごはんは焼きプリンだよ~! 」
「ウソです!
行きます!
どこに行こうともお供します、ヒメコさん! 」
「プリンは行くって言ってるよ~!
サトシは本当に行かないの~? 」
「ちょっ… 、わかったよ… 、行けばいいんだろ… 」
「さすがヒメコの将来の旦那さま~! 」
そりゃ、両手に火の玉出されて聞かれりゃ選択肢はひとつしか残らない。
「って!
ここ隣にある古い城じゃねぇか! 」
そもそも城が二つ並んでるのは前々からおかしいと思ってたんだよな。オレたちの住んでいる城は立派で、隣の城はやけに古かったから、昔使ってた城の隣に新しいのを建て直したと思ってたんだが。
「マオちゃ~ん!
ヒメコだよ~! 」
ヒメコがそう叫ぶと城の扉が勝手に開いた。意外にも城内は立派だった。ヒメコは城の中を知っているようである部屋の前までくるとノックした。
「どうぞ~ 」
中から声が聞こえた。魔王が、どうぞ~ って… 。恐る恐る部屋の中に入るとコタツに入ったヒメコと同じ位の歳の少女がいた。コタツの上には色々な描きかけの絵が置かれていた。
「マオちゃん、久しぶり~! 」
「ヒメちゃん、マオの絵でちゃんと楽しんでくれてる?
退屈してない? 」
「うん、いつもありがと~!
マオちゃんのおかげで独りでも寂しくなかったよ~! 」
「ヒメちゃんに喜んでもらえると嬉しいよ。
ところで、そこの男の人は? 」
「サトシって言うの~!
ヒメコのフィアンセで、ただの人間なんだよ~! 」
「ヒメちゃん、いつの間に婚約したの!?
マオ、全然知らなかった。」
「国家最高機密ってやつだよ! 」
「ヒメちゃん、もう独りぼっちじゃないんだね。
マオ、安心したよ。
で、そこの丸いのは何? 」
「プリンだよ~ 。
マオちゃんがヒメコに最初にくれた絵だよ~! 」
「マオが最初にヒメちゃんにあげた絵?
あっ、思い出した!
まだ食べないで大事にしてくれてたんだ。」
「うん、せっかくマオちゃんがヒメコの誕生日にくれた絵だからね~! 」
「でも、その絵は特殊な力が入った筆で描いたものだから、マオとしてはヒメちゃんに早く食べてほしいな。」
「特殊な筆って何~? 」
「ヒメちゃんに何をあげれば喜んでくれるのか? 悩んでいたら、オババ様がくれたの。
これで食べ物の絵を描きなさいって。
きっとヒメちゃんが喜んでくれるからって。 」
「そうだったんだ~ 。
じゃ、今からヒメコとマオちゃん、サトシの3人で食べよ~! 」
「え、マオも食べていいの? 」
「もちろん!
いつもヒメコの為に絵を描いてくれてるからね~!
感謝の気持ちだよ~! 」
「本当にいいの?
マオ、すごく嬉しい! 」
「じゃ、いっただっきま~す! 」
ヒメコはそう言うとプリンに火の玉を放った。
「嫌ぁああーーーーーーーーーー!!! 」
さよなら、プリン。そしてご馳走様でした。意外においしかったです。オレたち3人はプリンを食した。食後、しばらくするとオレたちは眠ってしまったようだ。
目が覚めるとオレは元の世界の自分の部屋にいた。ただ、両隣にはヒメコとマオが一緒に寝ていたのだ。もう絶対に何かめんどくさい事が起きる気がした瞬間だった。
「やぁ、少年。
お主はヒメコの婚約者なのじゃから
そっちの世界でちゃんとヒメコの面倒を見るのじゃぞ。
あ! そうそう。
あとマオもヒメコと一緒にそっちの世界に行ってしまったみたいじゃから、よろしく! 」
オレの頭の中で知らないばーさんが話かけてきた。
「いやいや、絶対おかしいだろ!!
てか、もうそっとしておいてくれ~!
オレはただの人間だぁああああああああーー!!