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不正は無かった。

 一閃、二閃。

 外に出た勇者は、迅速に敵である魔族の元へ近づき剣を振るいます。


 瞬く間に魔族は切り刻まれ、勇者の剣にその魔力を吸収されました。

 勇者の剣には、魔力を奪う力があるのです。


 そして、勇者はその奪った魔力で能力を発動させます。

 "竜の力"

 ……第一形態の竜人化です。

 勇者が選んだ能力を女神ラティシアは確認できませんでしたが、どうやら勇者が欲した能力は"竜の力"だったようです。


 まだ召喚されたての勇者では、数十秒間しか竜人に変身することは出来ません。

 変身が完了するまでの時間を考えれば、竜人の姿は10秒も保てないでしょう。

 魔力の最大容量が少なく、敵から吸収出来る魔力だけでは一瞬だけ竜人化出来ても維持が難しいのです。


 その一瞬でブレスを放ち、広範囲の敵を一層する為の能力でした。

 ブレスはとても強烈です。

 一度竜人化の力を使えば、目の前の雑魚くらいはその力で一掃出来るでしょう。


 勇者は、竜人化を完了させて。

 竜の力と翼で飛び上がり、大きく息を吸い込みました。


 そして、まず後ろの西ヨーリン砦の方に向けてブレスを放ちました。

 ――が、当たるかどうかギリギリの所でブレスは砦から外れていきました。

 そして竜は後ろ向きのまま空を飛んでいきます。


 勇者は、ブレスをジェット噴射のような推進力として使ったのです。

 更に後ろ向きで羽ばたくことで、翼を使って空を飛ぶ力をも全力で推進力として使いつつ。

 そのままブレスを下に向けて放ちました。

 一つの意味は、高度を保つ為に。

 もう一つは、もちろん敵の殲滅の為です。


 そして、通り過ぎた魔族の軍勢にブレスが当たりました。

 勇者の鎧には、倒した敵の魔力を集める力があります。

 剣で斬るより魔力吸収効率は悪いですが、鎧はその代わりに広範囲でブレスにも適用出来ます。

 この鎧の力は、敵を次々と倒せば倒すほどに大きな魔力を得やすくなります。

 先代勇者の中には、それを"コンボボーナス"と呼ぶ者がいたとか。


 そうして魔族の軍勢から吸収した魔力で竜人化を維持しつつ、更にブレスを放ちます。


 三発目、四発目。

 勇者がブレスを放つ度に魔族の軍勢はどんどん壊滅していきました。


 後ろ向きで飛んでいること、敵を1匹も漏らさずに殲滅する為かとても変態的な軌道を描いています。

 その姿は魔族から見れば異様なものでした。

 右に左に縦横無尽に飛びすさりながらも、正確無比なブレスの猛攻。

 一瞬で上を通り過ぎたと思えば後ろから撃たれて。

 方向転換の為に放ったらしきブレスでも、着弾点にはしっかりと魔族の部隊がいます。

 そして魔族からの魔法や弓による攻撃は全く当たりません。

 完全に見切られているかのように回避されてしまいます。


 たったの数十秒で、人狼やオークの獣人魔族軍はその殆どが姿を消しました。

 奥に控えるは、巨大フェンリル。この軍を率いる大ボスです。


 巨大フェンリルは勇者に殲滅されていった魔族達の仇を討とうと、怒りの咆哮をあげました。


 勇者は一瞬だけ、くるりと翻り勇者の剣を突きだしました。

 ……が、何故か一旦鞘に剣を戻し、またも剣を突き出しました。


 そして、勇者は超スピードのまま巨大フェンリルを突き抜けていきました。

 あっけなく、フェンリルはたったの一撃で倒されました。

 まだ咆哮をあげただけなのに。


 その最後の咆哮こそが、賢者の聞いた咆哮でした。


 勇者はレベルがガンガン上がったらしく、竜の姿も第二形態になりました。

 "飛竜"の形態です。

 何時の間にか、フェンリルから"闇の宝玉"という秘宝を手にしていました。


 その姿で、速度も落とさずに空の方へと急上昇します。

 またも後ろにブレスを放ちながら。


 わずかに残っていた魔族軍もそのブレスに巻き込まれ、魔族軍は文字通りに全滅しました。

 第二形態"飛竜"では一回り大きくなり、ブレスの威力が更に跳ね上がります。



 砦でその様子を遠くから見ていた見張りの兵士は、あっけにとられました。


 勇者のような人影は光のような速さで魔族の軍勢を殲滅し、あの巨大フェンリルをも一撃で倒し、砦に戻ってきさえもせずにそのまま空のかなたへと消えてしまったのです。

 歴代の勇者の誰よりも強いとしか思えない一方、人間かどうかさえもよく分かりません。


 斥候の魔族を剣で斬り捨ててからは、竜のような姿をした化け物になっていました。

 確かに過去には、ああして竜人の姿へ変身する勇者の話もあります。

 西ヨーリン砦に向けて放ったブレスも、ほんの少しズレていれば当たっていました。

 兵士にとっては、それは運が良かったようにしか思えません。


 兵士は震えていたことに気がつきました。

 今のは一体何だったのか。勇者召喚が成功したのか?あれは勇者なのか?

 生物かさえも、怪しい動きでした。

 目の前の脅威が一瞬で去ったことに安堵することさえ出来ず、よろよろと今見たことを報告しにいきました。

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