TASさんの召喚。
勇者が目を覚ますと、目の前には美しい女神がいました。
――その女神の名は、ラティシア。
異世界との門を司る、とても偉い神様です。
いつものように、地球から選ばれし勇者へと――。
「あ――」
と女神が何かを話し出す前に、勇者は転生の儀を勝手に発動させました。
自身の名前を転生陣に刻み、能力の魔石を選んで嵌め込むと転生の儀は終了するのです。
眩い光とともに、地球からの勇者は女神をスルーして異世界へと旅立っていきました。
後に残された女神様は、あっけにとられてぽかんとしていました。
まだ、何の説明もしていなかったのです。
いつも通りに「あなたはこれから、勇者として異世界へと召喚されます。」と言うつもりでした。
その世界がどんな世界で、あなたはどうしてここにいて、これから何の能力を選べるのか。
あなたの名前をそこに刻むことや、魔石の使い方など。
それら全ての説明をすっ飛ばした者は初めてでした。
それどころか、どうやればこの儀が終わるのかさえも知っているようで――。
「・・・な、え?え?い、いまのなに?何者・・・?」
女神様は狼狽え、せめて転生陣へと刻まれた名前だけでも確認しました。
その者の名前は、TAS。
一応、ちゃんと名前だけは刻んでくれていたようです。
能力の選択も、目にも止まらないスピードで勝手に選んでいきました。
一体何の能力を選んだのかさえも、女神ラティシアには分かりませんでした。
目にも止まらない速さで魔石をとっかえひっかえ嵌め込んでいたような気がします。
まるで、ルーレットで能力を決めようとでもしているように見えました。
いつもなら選ばれなかった魔石が残るのですが、何故か見当たりません。
「召喚される前から、召喚されることが分かっていて。
尚且つ、何をすれば儀が終わるのかを知っているなんて……。」
元の世界へと戻った勇者は何人かいます。
だから、転生の儀の方法が伝わっている可能性はあります。
でも、それにしたってあんなに急いでいくのは何故なのか。
時間の流れが違う?と、女神ラティシアは首をかしげてから。
考え込むより、とりあえず勇者の行動を追うことにしました。