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神隠し

異世界物を描きたいなと思って考えていたら、

戦国武将を送ろうぜってなってしまいました。

出来る限り、異世界(基本的によくあるファンタジー世界)の描写とかを

多くし、その上で、異世界に誘われた様々な武将達を描ければ良いなと

思っております。


百万の軍勢を差配させたいと言わしめた男が

異世界にてどの様な事をしていくのか。

頑張って描きたいと思ってます。

(妄想だけは逞しく展開中)

 慶長9年9月15日。



 美濃 関ヶ原



 一つの大戦の決着が着こうとしていた。


 一角を占める大軍が槍を逆に向けると、今まで対峙していた敵に合力するかの如く、味方であった部隊の横腹を狙って山から駆け下りてきたのだ。

 しかし、それを察していたのか、少数の兵が前に出ると鉄砲を斉射。出鼻を挫いた相手に長柄槍を突き入れ、三度、四度と押し返す。その奮戦は戦場全体を見渡しても他に類を見ない程の鮮やかさであった。後一押しすれば、潰走させる事は無理でも、暫くは軍勢の立て直しに時間を費やさせる事が出来る。その一押しに力添えをしようとしてか、裏切りに備えた与力衆の四部隊が槍の穂先を揃えて迫ってくる。



 だが、彼らが槍を突き立てたのは味方の軍勢だった。



 正確には『元』味方のだ。開戦から戦い続けていた与力衆の二部隊は、この裏切りに力を得た敵の部隊の猛攻の前に力尽き、壊滅。

 裏切りに備えていた与力衆は裏切りに続いて攻め立ててくる。そして、押し返していた大軍も、再度押し出して来ており、呑み込まれるのも時間の問題だった。



「戸田殿も、平塚殿も先に逝ったか。ここまで戦えたのはお二方のお陰だ。有難いことだ。」


 鮮やかな戦い振りを見せていた部隊の後方に、数人が担いで運ぶ輿があった。そこに白の経帷子に白の頭巾を着込んだ男がいた。具足は身につけてはいない。ただ唯一、面頬と喉輪だけをつけてはいたが、戦場という場所では何もつけていないに等しい姿だ。

「息子二人も落とし、更には小早川に始まる内応勢、そして内府公にも私の最後の戦いぶりを見せる事が出来た。これ以上を望むは望外よ。後は、この醜い首を晒さない事だけだ。」

 男はそう言うと、視線を自軍に迫ってくる敵勢のいるという方へ向けた。その瞳は半ば濁り、光は感じていようが姿は見えていないようだった。

 この男の名は大谷吉継。百万の軍勢を差配させてみたいと時の天下人に言わしめた男である。しかし、何の因果か病により身体の自由が利かず、瞳は朧気にしか見えていなかった。

 その様な状態でありながらも、長年の側近達を目の代わりとして使い、寡兵でもって大軍を数度と押し返し続けた。しかし、それも最後の時が迫ってきていた。

「皆、済まぬが腹を切る時間を稼いで欲しい。私の最後の頼みとなるが、どうか聞いて貰いたい。」

 そう口にすると、自分の輿を取り巻く家臣達に頭を下げた。

 その姿を目にした家臣達は、数人ずつ、自らの名を口にして駆けて行く。ある者は大声で。また、ある者は言葉尻を震わせながら。彼ら着込んだ甲冑が鳴らす音が少しずつ遠ざかって行った。

 その音を、耳を澄ましながら聞いて吉継は、自らの最期の後始末をしてくれるであろう男に声をかけた。

「さて、五助。私の首だが……何者の手にも渡らぬようにしてくれ。済まぬが、宜しく頼む。」

「……はっ!」

 その返事を聞くと経帷子の前をはだけ、輿に載せていた太刀と脇差しに手を延ばした。そして、脇差しの方を手探りで掴むと抜き放つ。その時、ふと頭を過ったのが、太閤殿下より形見分けとして拝領した国行の事であった。何卒、良き相手の元に渡らん事を。

 そう思い、いざ腹に脇差しを突き立てようとした時、ふと何者かが彼を見つめている事に気づいた。自分に視線を送る相手の居る方向に顔を動かすと、木彫の面で顔を覆った修験者が目に入った。

「……そなた、何者だ。何故、そなたの姿を捉える事が出来るのだ。」

 彼は自分でも驚くほど、冷静に質問をしていた。周りは戦で煩い程の音が出ている筈なのに、何事も起こってないかの如く静かだった。

「我は愛宕権現様の使者じゃ。愛宕権現様の気まぐれにより……大谷刑部少輔吉継。我がソナタを異なる世へ誘う役を拝命した。」

 彼は修験者……声の高さから女であろう……の言った言葉を、思い返しながら考えた。愛宕権現はそのままの意味であろう。何故、愛宕権現が関わるのかについては、越前へ赴く際と、その後、関ヶ原にて陣城を築く為に戻って来た際にお参りをした事があった。その関連であろうか。

「……私は病に蝕まれる身であり、そして、戦に破れ、今にも腹を切るという所にあります。」

「戦の事なら案ずるな。今、我とソナタの二人以外の時を止めておる。故にソナタが腹を切る必要はない。病については……我は権現様より何も言われてはおらぬ。ただ、誘えとじゃ。」

 修験者は彼へ近づくようにゆっくりと、歩みを進めながら答える。一歩、一歩しっかりと伝えるように。そして、彼の目の前に立ち、一言、告げた。

「ソナタは如何する?」

 そのままの意味だろうと、彼は理解した。生きて、異なる世へ赴くか。それとも、この場で腹を切り、死ぬか。相手の言い分だと、この戦をどうこうは出来ないだろう。彼を勝たせる為にここに来た訳ではない事は、明確だ。


ならば……。


 彼は脇差しの鞘を再度掴み、そこに刃を納めた。そして、彼女に対し、深々と礼をする。その行為で彼女も理解をした。気まぐれを受入れた事を。それに合わせて、彼女が順々に印を切り始める。そして、続くように呪いを唱えていく。


 最後に気合いを込めた叫びが響くと、彼の視界が霞み、意識は暗転した。



「吉継様?」

 湯浅五助は目の前に起こった事を信じられずにいた。目の前の輿には彼の敬愛する主君が座り、腹を切ろうとしていたはずだったのだ。

 だが、現実には主君の姿も、主君が持っていた太刀等も消えていた。


 そう、神隠しにあった様に。 


 その場で何が起こったのかは、戦の喧騒を他所に、ひらりひらりと宙を舞う揚羽蝶のみが知っている。



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