9:封印の書を手に入れる
待ちなさい! 封印の書の在処を教えないと後悔することになるわよ!
そんな紫お姉さんの台詞を聞き流し、僕達は階段を急いで下りる。
「藍河先輩、とにかく学校から離れましょう」
「ああ、そうだな。できるなら桜庭君の知り合いの骨董品屋とやらに封印の書を返してもらおう、そしててきとうなところに放っておけばあいつが勝手に拾ってくれるだろうし、この件は一件落着だ」
「いやいや、そんなうまくいきますかね?」
「とは言え、一番簡単で確実なのがこれだ。君はあのおばさんになぶられたくないんだろー?」
「はい……」
「じゃあ、これしかないさ。私だって桜庭君がいじめられるのは見たくない。私が君をいじめるのは別としてな」
「別にしないでください!」
とにかくここを出て封印の書を回収しないと!
すぐに下駄箱に到着。
するとそこには見覚えのある後ろ姿。
「あっ、陽菜ちゃん」
僕が無意識に名前を呼んでしまうと、クルッと愛らしくこちらを振り向き、
「あっ、ちーくん!」
と、ニコニコと笑顔を向けてくれた。
「桜庭君、今はこいつと話している場合じゃない、行くぞ。後お前、生徒会室に行くなよ!」
「ああ、私は今日用事があるので、心配されなくても行きませんよ──って、二人でどこに行く気! 駆け落ちなんて私は許さないよ、ちーくん!」
ニコニコ笑顔が鬼の形相に変化した。
言い訳をしてる暇もないので、僕は上靴とスニーカーを履き替えながら「ごめんね!」と一言だけ言って、藍河先輩と共に学校を後にした。
こらー!! 駆け落ちなんてしたら、世の果てまででも絶対に追いかけてお仕置きしてやるんだからー!!
なんて陽菜ちゃんの声が後方から小さく聞こえた。
それから数十分後。
僕達はようやく骨董品屋の前までやって来た。
「ここです、先輩」
「……いかにもって感じだな」
「じゃっ、入りましょうか」
眼前の古い店のドアを引くと取り付けられた鈴が鳴る、藍河先輩の腕を掴み、少々暗い店内にささっと引っ張りこむ。
「さ、桜庭君……」
「? なんですか?」
「こ、こんな暗いところに連れ込むなんて、少し大胆過ぎないかな?」
頬を赤く染めて恥じらう藍河先輩。
ちょっと待って!
「そっち方面の意味は全く含まれてありませんから!」
「じゃあ、なんで私の腕を掴んで強引に店内に連れ込んだんだ」
「だって、あの紫お姉さんが追ってきてたら大変じゃないですか! 見られる前にさっさと店に入った方がいいと思ったんですよ!」
「まあまあ、そう恥ずかしがるなよ。私は嬉しいぞ、桜庭君」
「駄目だこれ」
藍河先輩と話していると店の奥からのんびりしたような、凛としているような、二つの特徴が合わさったような声が聞こえてくる。
「んー、なんだ珍しく客が来たと思えば桜庭ジュニアかー。今日はなんの用だーい?」
「ど、どうも凛子さん」
「む、どうも、私は桜庭君の妻の──」
「──妻でもなんでもありませんから凛子さん! だから気にしないで!」
ちなみに凛子さんはこの骨董品屋を一人で切り盛りしている──て言うか、切り盛りも何も客が全く来ないので別に一人でも大丈夫というだけなのだが、とにかく一人でこの店を経営している働き者のおばさんだ。
「なんか色々失礼なことを思われた気がするが」
「いえいえ、そんなことないですよ!」
「私はまだ二十代中盤戦に突入したばかりだから、桜庭ジュニアだって容赦なく守備範囲にぶちこめるんだぞー」
「そんなこと私がさせない」
「あはは、ファイティングポーズなんかしちゃって血気盛んな嫁だねー。大丈夫大丈夫、守備範囲にぶちこめるってだけで食っちゃおうなんて全く考えてないから」
「とりあえず藍河先輩は下がっててくださいよ」
僕は藍河先輩を店の端へと追いやり、凛子さんのところに戻る。
凛子さんはニヤニヤしながら、
「そんで彼女さんとわざわざ何しにきたんだい?」
と言った。
弁明しても無駄なんだろうなー、と思ったので彼女ということは否定せずに本題へ入る。
「あの古い本を返品してもらおうかと思いまして」
「あー、あれかー。いいよ持ってきな」
「本当ですか!」
よかったー、誰かに買い取られたりはしてなかったみたいだ。
さっさと封印の書をてきとうな場所に配置して、何事もなかったかのような平凡な生活を送るとしよう。
「私が買い取った時の十倍の値段よろしく」
「は……?」
「千円が十倍になると?」
「え……?」
「一万円よろしく」
「んん……?」
「よろしく」
「う、うっそーん……」
そんな馬鹿な……。お、お小遣い全損しちゃう……。
これからは深夜ではなく、朝方とか夕方とかに更新したいと思います。
次回の更新予定は10/28の夕方頃です