表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/73

begins 2-02.人物照会

 次の日、両親より早く起きた僕は、せっせと準備を始めていた。

 使えそうなものはバッグにパンパンになるまで詰め込んだ。

 玄関に持っていこうと持ち上げた時、あまりに重くて、最低限の持ち物にするべきだと理解した。

 小さなバッグに変えて、持ち物を入れ直す。

 準備を終えて腹ごしらえだ。こんがり焼きあがったトーストにバターを塗って、どんどん口の中に押し込んだ。

 外はサクサク、中はふわふわで美味しい。パン屋で買った食パンは最高だな!

 朝の準備を終え、僕は静かに玄関の扉を開き、待ち合わせの場所へと向かった。


 待ち合わせの自販機公園に到着した。

 相変わらず色とりどり沢山の自販機が並んでいる。どんな飲料も買える選り取り見取りだ。


「チヨ、遅い!」


 腕時計を見てみるとまだ五時前だ。


「待ち合わせは五時でしょ。ゆららちゃんが早すぎるんだよ」


 ゆららちゃんは昨日とは違い、おしゃれなんて無視した動きやすそうな服装をしていた。ランニングウェアなので、これなら外を動き回っていても怪しまれにくいと思われる。

 一方、僕はジーンズにパーカーである。ゆららちゃんよりは、おしゃれ方面にほんの僅かに偏っているが、ジーンズはだいぶ着古したもので、かなり柔らかくなっているから動きやすい。パーカーは……別のにしても良かったかもしれない。


「にしてもランニングウェア似合うね」

「あはは、朝一にジョギングすることあるし、様にはなってるかも」

「そうなんだ、休みだけじゃなくて学校ある日もやったりするの?」

「当然やってるよ、体は資本だからさ」

「すごいなぁ〜、僕なんか早起き苦手だからそんなことできないよ」

「やろうと思えばできるって。今日だって早起きして来れたじゃん!」

「一応ね……」


 五時の到着に間に合わせるために、余裕を持って三時にアラームをセットしたけど、布団からなかなか出られず、何度も何度も二度寝しそうになってたけどね。結局、布団から飛び出せたのは四時になる直前だったと言う……。


「それじゃあ行きましょうか」

「ついに黒服探しだ」


 ゆららちゃんは沢山の自販機がある中で最初から決めてたようで、青の自販機に一直線に歩き出した。


「飲み物奢ったげる。こんなのに付き合ってくれてるお礼ってことで!」


 ゆららちゃんはお茶を一本買い、ウエストポーチのボトルホルダーに収納した。


「なんでもいいよ、どれがいい?」

「僕はいいよ」

「ふーん、本当に?」

「うん、本当に」

「そっか」



 僕らは公園を後にした。

 ゆららちゃんはズンズン先に進んでいく。しばらく歩いた後、彼女にこう尋ねた。


「黒服に当てはあるの?」


 まるで目的地の位置を完全に理解しているかのように歩くから気になった。そんなことは聞いていなかったし。


「ない」

「ない!?」

「当たり前でしょ」

「じゃあ今はどこに向かってるの?」

「どこにも向かってないわ。強いて言うなら黒服の居そうな場所ね」

「ってことは総当たり的な……?」

「だからこんな朝っぱらから始めたんだよ」

「そっかぁ……」


 しらみ潰しに町をとにかく歩き回るって、そんな無策な。

 あっ、そうだ!


「ねえ、ゆららちゃん、藍河家が引っ越してきた豪邸の住所は分からない?」

「知ってるわよ」

「! じゃあ、そこに行けばいいんじゃないのかな!」

「実はこの前行ったよ。ハズレだったけど」


 とんでもない爆弾発言だったが、ハズレと言うことは危険はなかったということだろうか?


「……大丈夫だったの?」

「心配してくれてありがとう。でも特に危険はなかったし、情報もなかった。周りに黒服の警備がなかった時点で、大事なものはなかったんだと思う」


 ふむ、守る必要のあるものがなければ、確かに守る必要はないけど……。


「だからこそ、あえて警備を置いてなかったとか?」


 そう思わせるために警備を置いてない可能性。


「それもないと思う」

「でも家に直接忍び込んだわけじゃないよね? 外から見ただけだよね?」

「入った。侵入した」

「えぇ……」


 ガチでやったのか……。

 ドン引きだった。


「中には数人のメイドと執事が居ただけ」


 昨日カフェで話した時、お屋敷に忍び込む手伝いをしてほしいと頼まれたが、本当にやらないといけなくなりそうだ。

 言葉にはしたが、実際にそんな犯罪を犯すことはないだろう、せいぜい中学生レベルの探偵ごっこだと、心の中でそう思っていた自分がいた。

 けれど違う。今回ばっかりは本当にやる。

 自然と肩に力が入った。

 大丈夫……見つからなきゃいい。それに僕たちまだ中学生だし、見つかってもなんとかなるでしょ……。

 必死に自分を鼓舞した。


「両親の部屋っぽい所は鍵が閉まってたからどうしようもなく帰ったよ」

「鍵か……自分の部屋の鍵は自分で持ってるだろうしね。ピッキングでもできたら別だけど」

「私もそれはできないから、そそくさ退散したわ。解錠技術を学んでおけばよかった」


 おそらく、ゆららちゃんは全力で挑んで、それでも何も得られなかった場合、潔く身を引くつもりだったのだろう。

 要するに自分の実力の範囲外には手を出さない。

 だから、鍵を無理矢理開けようとはしなかったんだろう。

 しかし、もしも手が届くのなら、偶然でも一歩踏み込むことができてしまえば、ゆららちゃんはきっと止まらない。


「そういえば藍河家の娘を見たわ」


 心臓の音が跳ねた。脈打つスピードが増したように感じた。

 瑠璃ちゃんとの関係を暗示するような出来事に直面すればするほど焦りが高まる。


「……いつ潜入捜査をしたの?」

「二日前よ」


 ということは……終業式の日だ。

 僕が瑠璃ちゃんと再会した日。

 明日から春休みだから本を十冊くらい借りてやるか、と図書館に訪れていたが、その裏でゆららちゃんは捜査を始めていた。

 しかしチャンスだった。僕が瑠璃ちゃんと会っていた時間帯と、彼女が瑠璃ちゃんを見た時間帯が被っていれば、藍河瑠璃と藍河家は繋がりなし、無縁の関係だ。


「その藍河の娘さんを見たのって何時頃?」

「何よ、そんなこと聞いて娘さん狙ってるの? 生活パターン覚えてストーカーするつもり?」

「ち、ち、ち、違うよ!!」

「ふーん…………三時頃だったよ」


 三時……微妙な時間帯だ。

 瑠璃ちゃんと再会して図書館を出た時、図書館の時計は二時四十分を過ぎていたけど、僕たちはそんなに長く話していたわけでもない。

 図書館と屋敷の距離によって答えは変わる。


「屋敷ってどこにあるの?」

「ここからそう遠くないよ」

「正確には? 例えば図書館から何分とか」

「図書館? まあ図書館からなら、歩いて十五分、二十分ってところなんじゃない?」


 真ん中をとって約十七分くらい。走れば十分以内に行けるか? ただ、これだと間に合うか間に合わないかギリギリで特定できない。

 待てよ、外見の特徴を照らし合わせればいい。あの時、瑠璃ちゃんはどんな服を着ていたっけ。駄目だ……思い出せない。

 久しぶりに会えたことに感極まってたせいで、服装を全く認知してなかった。服を着てたことは当然分かってたけど、肝心の内容が記憶にない……!

 いや、髪や身長なら覚えてる。

 瑠璃ちゃんの身長はおそらく160cm前後。髪は背中の中心辺りまで伸びていた。


「ゆららちゃん、その子って身長はどのくらいだった? 髪とかはどのくらい伸ばしてた?」

「聞きすぎでしょ……見たこともない女の子をどこまで気にしてんの」


 ゆららちゃんは呆れた表情を見せる。

 確かに、女の子紹介して!紹介して! とアホみたいにがっつきすぎな男子中学生のようだが、仕方ないのだ。本当に仕方ないのだ……。


「いいから教えてよ! 本当に大事なことなんだ」

「必死すぎる……」


 必死でもなんでもいいからお願いします!


「一応教えるけど、その子に変なことしようとしないでよね。犯罪は駄目」


 お前が言うな!

 不法侵入したら住居侵入罪で逮捕だ!

 ただ、僕も不法侵入することになるかもしれないから、そしたらもうおま言うが言えなくなるんだよね。

 もし言ったら、おま言うにおま言うが一生連鎖する。

 さてどうなるか、僕が見た藍河の娘とゆららちゃんが見た藍河の娘……同じ人物なのか、違う人物なのか。



 僕は身構え、次の句を待った。


「髪は短めで肩にギリ触れないくらいだったかな。身長もそんなに大きくはなかったよ、私よりちょっと大きいくらいかな」


 胸のつっかえが解消した。不安が取り除かれた。

 まずゆららちゃんの身長は145cm、とクラスの女子の会話から聞こえたことがある。この時点で身長には15cm以上の乖離が見られ、同一人物とはみなせない。

 更に髪も長さが違う。背中と肩じゃ全然変わってくる。

 同一人物の場合、時系列は僕と会ってから屋敷に戻った可能性しかないので、家に帰ってから髪を切った可能性もゼロではないが、限りなくゼロに近い。考えなくてもいい確率のはず。そもそも身長が違うのだから。


 思考をぶん回して、僕はひとまず安心した。

 すると突然、ゆららちゃんが呟いた。


「そういえばあの子変なアクセサリー付けてたな……」

「変なアクセサリー?」

「なんか銀色のギラギラしたごっつい腕輪を付けてた。重そうだったな」

「シルバー巻いてたってことか」


 明らかに記憶になく、絶対に付けてなかったと断言できるので、瑠璃ちゃんではないと確信を持てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ