7:ちょっと無理ありすぎぃ!?
この話くらいから書き溜めた分がなくなったので一話一話の量が少なくなっておりますがご了承ください
四月十四日。
午前八時二十八分。
朝っぱらから自宅前で待ち構えていた藍河先輩に追随されながらも、なんとか振り切り逃げ切った先には陽菜ちゃんが居て、これまた追いかけ回され──朝の七時に家を出て七時半には学校に到着予定だったというのに、結局学校に着いたのは遅刻ギリギリの八時二十八分なのであった。
いや、あの二人を相手にして遅刻まで残り二分残せただけでも十分な戦果だろう。
「つっ……かれた……」
僕は息を切らしながら自分のクラスの教室へと入り、席へと着く。
「今日もずいぶん疲れてるな? 朝からあの生徒会長に追われてたのかよ?」
隣の席の男が話しかけてくる。友達。僕の数少ない友達の一人。
「追っ手が途中でチェンジするハプニングにも見舞われたよ」
「マジで!? 何それ、他の女の子に追われたりしたってことか?!」
「うん、そんな感じ」
「カーッ……桜庭はいいなぁ……羨ましい……、女の子に追っかけてもらえるなんて。俺だって可愛い女の子に追っかけられてそのまま抱き合ってキスして駆け落ちしてーよ」
「柏木はそんなのだから敬遠されるんだよ」
せっかくイケメンなのに。
「関係ねーだろ!」
「いや、だって、柏木って……顔と性格が合ってないじゃん」
見た目は誰にでも優しい穏やかでおっとりした美少年という成りをして、中身は女の子大好きなド変態と……。せめて、見た目がもっと方向性の違うイケメンだったらよかったんだろうけど。
それでもこいつに告白するやつは月一で出てくるんだよな、変態な性格なのに不思議。
「とりあえず言葉遣いから変えてみたらいいと思う」
「……例えばどんなだよ」
「例えばねぇ……、柏木の朝の挨拶って『うぃっす』とか『おっす』とか色黒体育会系っぽいからさ、もっと爽やかイケメンっぽくするんだよ」
柏木が席を立ち、コホン、と咳払い。
「やあ、おはよう。今日もみんなで協力し合って頑張ろう!」
と、少女漫画に出てきそうな爽やかなアイドルみたいなオーラを醸し出して言って見せてくれた。
「おおー」「カッコいいー」「白馬の王子様ー!」「あ、あれ、柏木ってこんなにカッコよかったけ……」「気取った優男ー」
なんかクラス中からの拍手喝采を浴びせられた柏木だった。
やっぱり、こっちの方がしっくりくる。
少女漫画で主人公を取り合う男の、俺様タイプによく負けてそうな優男タイプみたいな感じが一番しっくりくる。
「ありがとう。みんな、ありがとう。けど、俺はこんなしゃべり方は嫌だ」
柏木が再び腰を下ろすと同時に学校チャイムがキーンコーンカーンコーンと鳴り響いた。
すぐに担任の烏山先生が教室に入ってきて、「朝のホームルームを始めるわよー」と眠そうな声で言う。若いのによく頑張る先生で、きっと昨日も夜遅くまで頑張っていたのだろう。
「ここで皆にいいお知らせよ」
烏山先生が人差し指を立てて皆に知らせることとはなんだろうか?
クラス中がざわざわとなって、隣の柏木が僕に話しかけてくる。
「いい知らせってなんだと思う?」
「担任変更とか?」
「馬鹿! どこがいい知らせだ! 烏山先生の可愛さをお前は分からんのか!」
「生徒と教師が恋人になるのは不可能でしょ、あんなのフィクションでしかあり得ないでしょ」
「禁断の関係だからこそ燃えるんだろうが!」
「え、もしかして、烏山先生の恋人になりたいと思ってるの?」
「できるならな」
「……うっそーん」
「禁断の関係ってのはそれほど魅力的なんだよ」
「柏木って妹居たよね? それも禁断の関係のターゲット範囲内に入るの? だとしたら僕は君が怖い」
「それはあり得ねえな。禁断の関係と言えど、あんなツンデレ野郎に興味はねぇ、お前にくれてやるよ」
「あのアイドル顔負けのレベルを持つ妹をくれるって言うのかい?!」
「ああ、今度正式に紹介してやるよ。お見合いみたいなセッティングしてな」
僕達以外にも、話している生徒皆がその会話をヒートアップさせていく。だが、なんとか烏山先生がそれを抑え、場を静かにさせた。
「やっと静かになったわね……。それじゃあ言うけど、いい知らせって言うのわね。…………実は今日からこのクラスに転入してくる子が居ます!」
「嘘だろ!」「そんなことがありえるというのか!?」「美少女だな? 美少女転校生だよな!?」「美少年に決まってるでしょうが!」「なんだとー!」「なによー!」
転校生が美少年なのか美少女なのかを談義しているグループがあるけど、美少年でも美少女でもなかったときが非常に悲惨で非情な結末になることは明々白々である。
「はいはい、皆静かにしてねー。……それじゃ、入っておいでー」
ガラッ! と、勢いよく開いたドアから現れるのは美少年か、美少女か、もしくはそのどちらでもない両性類だったりするのか、果たして、教室に舞い降りるは天使か悪魔か。
今、それが分かる!
現れたのは────、あの紫お姉さんだった。
教室内の空気が固まっているのが分かった。
それは、魅惑的な魅力溢れるプロポーションを持つ紫お姉さんが制服を着ることによって生まれる、絶倫たる『着衣エロス』のせい。彼女の裸を見たからこそ分かる。真っ裸より服を着た方がエロく感じる。
男子は愚か、女子すら見惚れされるそれは……もう……言葉にできない感動であった。
「須川理世よ、みんなこれからよろしくねぇ?」
一つだけ言いたかった。
あなたどう見ても二十代のお姉さんですよね?
まるでコスプレをしてるようで……。
制服って無理がありすぎぃ!!