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僕らの非日常ハーレム生徒会!!  作者: 猿野リョウ
非日常の終わりは日常の到来
65/73

65.学校に帰ってきた!

 丸くおさまった今回の件、一方で、丸くおさまったせいで起きた問題もあった。

 それは他者から見たら、かわいらしい些事ではあるけど。

 しかし僕は学生なのであって、学校では割と真面目な優等生で通ってる、生徒会長の付き人なのだ。そんな僕が寝坊をして遅刻なんてあってはならぬことだった。


「もうこんな時間だ! 繋さんがやってくる時間が遅いせいだ!」


 あの夜、時計が十二時の針を回った瞬間、僕らは対峙した。そして二時間ほどの時を経て、僕と繋さんの戦いは幕を閉じた。

 ただ幕を閉じても、その場で休むわけもいかず、僕は歩いて帰宅することを余儀なくされ、結果帰り着いてから布団に潜れたのは、なんと五時だった。

 夜更かししたせいで寝坊した僕だった。


「やばい、走っても間に合うかわからないぞ」


 これはもう、自分の責任でもあるけどね。

 繋さんとは長期戦になるかもと思って、もうめんどくさくて家事とか全部ほったらかしてきたのだ。だから帰宅後、夜な夜な眠気に抵抗しながら洗濯物を畳んだり、洗い物をしなければならなかった。


 僕はバターを塗ったトーストを口に咥え、カバンを持ち上げて玄関をバンと開けた。


「熱っ、トースト熱っ」


 トーストが地面に落ちた。


「アカン、僕の朝ご飯が......めっちゃ砂付いてる、どうするのこれ?」


 もう無茶苦茶。

 すると大パニックに陥りかけた僕に、一人の女性が話しかけてきた。


「サクラバくん、乗ってくかい?」

「あ、凛子さん!」


 なんだかとても高級そうなセダンから、セレブみたいに降りてきたのは凛子さんだった。真っ黒なボディの凄みに思わず息を呑んでしまう。かっこいい。




 ──遅刻気味だった僕は、こうして車で送迎してもらうことで難を逃れた。


「送迎感謝します凛子さん」

「これくらい大したことじゃないよ。ほれ、これ食べな」


 先ほどトーストを落とした僕が可哀想だったのだろう。凛子さんは片手で運転しながら、もう片方の腕で、運転席の隣のバッグに手を突っ込んだ。ガサガサと少し漁り、引っ張り出されたのは焼きそばパンだ。

 そして焼きそばパンは、僕にポイと放られた。


「あ、どもです」

「ここで食べちゃいな」

「ていうかすごいですね、こんな車持ってたなんて。これってあれですよねランボルギーニですよね」

「いやただのクラウン。安価な物と比べれば高級と言えなくもないけど、ただの普通車だよ」


 車をよく知らない僕は、もう黒っぽいセダンならなんでもランボルギーニ認定しがちであった。


「にしても急にすまないね。でもほら私としては、君の口から結果を聞きたくてね。君戦いが終わってから私のところ来てくれなかったし」

「すいません、とても疲れてまして......早く休みたかったんです」

「別に怒ってるわけじゃないさ。にしても、その様子を見るに、無事平和的解決にこぎつけたみたいだけど」

「なんとかできました。おかげさまで」


 おかげさまとは言うけど、結局戦う必要がなかった以上、凛子さんのおかげは九分九厘なかったかもしれない。


「私の名演技が冴えたと言うことだね」

「え?」

「あれ? 聞いてなかったの?」


 まさか凛子さんも知っていたのか? 繋さんのことを。


「実は、君が彼を殺そうと思えば殺すことができるように、手筈を整えた。それが私の役目だったのさ」


 僕のために色々と苦労してたんだ......。


「君の心の呪縛を解くには、殺せないから殺さないのではなくて、殺せても殺さない選択をさせる。それが大事だったのさ。つまり君自身がよく考えて出した答えが、正解じゃないといけなかったんだよ。他に選択肢がない中で、選んだものがたまたま正解だっただけじゃ、決して君の心は解放されないと思ったからね」

「......ありがとうございます。感謝してもしきれないくらいです」

「どういたしまして。それじゃあこの話はもう終わりにしよう。今回の件を乗り越えた私たちには、未来があるんだから」


 そうだ、残っていたわだかまりが無くなり、心に刺さったままだった楔は抜けて消えた。


「そうですね。やっと何もかもから解放された気がします」


 ずっと気にしていたことが、気にしなきゃいけなかったものがなくなる。それは精神衛生上とても良いことである。

 しばらくして学校の近くで車を停めてもらった。すると、


「これから頑張りなよ」


 と凛子さんは僕の肩を叩いた。

 ただてきとうに、激励の言葉を口にしただけなのかもしれないが、なんとなくその言葉は僕の中に沁みた。


 僕は礼をして車を降りた。


「学校なんてとても久しぶりな気がする」


 実際は二日空いただけ。ごく一般的な学生の休日、土曜日と日曜日の分だけ。それでも学校の行きたくないけど行きたいと思う空気は、とても懐かしく感じた。


「おーい! ちーーくーん!!」


 感じるには早すぎるノスタルジーを楽しんでいた最中、後ろから声が聞こえた。僕をちーくんと呼ぶのは一人しかいない。


「おはよう陽菜ちゃん」

「おはよう!」


 とびっきりの笑顔で挨拶されると僕も照れるなぁ。美少女の顔を直視できないです。


「なんだか今日は元気そうだね。元気っていうかテンション高い?」

「えー、そうだねー。朝からちーくんに会えたからかもね! もうこの勢いのまま抱きしめたい!」

「な!? こんな公衆の面前でそれは困るよ陽菜ちゃん。そういうのはせめて人のいない場所でやってもらいたい!」

「あなた達は朝からお盛んねぇ......」


 いきなり艶やかなボイスが差し込んできた。

 もちろん誰かはわかる。


「おはよう!」

「理世さん! おはようございます!」


 僕も陽菜ちゃんのテンションに合わせて、元気よく声を出した。


「ふふ、おはよう二人とも」


 こんななんでもない朝に、生徒会メンバーが三人も集まった。

 後は我らが生徒会長が来ればフルメンバーだ。

 そんな期待に沿うように、誰かが僕の肩を叩いた。

 期待に沿ってるんだから、誰かがなんて言わなくてたってわかるだろうけど──藍河先輩だ。

 僕は振り向き、そして始まりの挨拶を。



「おはようございます......藍河先輩!」


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