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55:ラストバトルへ

「理世!! よもやここまでの技を扱うなどとは……!」

「くそ、魔法を使っても押し通せないなんて……」


 この卓球において絶対の藍河先輩、魔法の陽菜ちゃんを遥かに凌駕する理世さんのポテンシャルは、人の身では到底たどり着けるようなものではない。

 人の身ではたどり着けない高み。だがそれは決して、絶対にたどり着けないものなんかじゃない。事実、理世さんの神がかったプレイは未踏の境地へと踏み込んでいる。

 ……きっと、人間に越えられない壁なんてないんだ。

 人にはたどり着けないからこその高みじゃなくて、人がまだたどり着けてないからこそ、越えられない高みだと決めつけてるだけだ。


 ようするに、理世さんはあの二人の力を前にしながらも、諦めることなく自分の力を使いこなし、壁をぶち破った。

 あっという間に10-10。

 どんな打球もサイコキネシスで無理矢理アウトにする理世さんの究極奥義『ザ・ファントム』は、藍河先輩の絶対的なパワーも、陽菜ちゃんの爆炎も、どんな能力も真っ向からねじ伏せた。


「二人とも分かったかしら、どんなに強い打球もコートに入らなければ意味がないということを。……卓球に必要なのはラケットを吹き飛ばすほどのパワーでもなければ、速くてラケットを貫通する打球でもない。望むべきものは、どんなボールも自陣に触れさせない技術なのよ」


 まあその通りなのだろうけど、サイコキネシスは技術じゃない。


「理世……桜庭くん──ルールの変更を提案したい」


 ルールの提案……だと?


「それはちょっと──」

「──いいわ、言ってみなさい」

「ちょっ! 理世さん!?」


 それはやめておきましょうよ。と提案を否定するつもりが、理世さんに台詞を被せられた。


「デュース、このルールを今回のみ無効にしたい。二点差つくまで試合を続けるのではなく、次の一点を獲得したチームの勝ちにしたいんだが」

「分かったわ。それでいいわよ」


 元々そういう言葉がくると分かっていたかのように、元々そう言うつもりだったかのように即答した。


「えっ、えっ! なんでこんな簡単にルール改訂を認めちゃうんですか!」

「もちろん勝つためよ」

「いやそれだったらこのルール改訂はむしろ逆効果なんじゃ……」


 だって、デュースでの持久戦で有利なのは明らかにこっちだ。

 どんな打球もアウトにする絶対無敵の究極奥義『ザ・ファントム』を有する僕らに負けはない。どんなに数多く打ち込んだところで無意味だ。それならば、延長する試合に使うはずだったパワーとスタミナを、全て一球勝負に使い切る方があの二人には幾分勝ち目がある。


「そうねぇ、あなたの思ってる通りよ。あの二人が潜在能力や有り余る体力を欠片も残さず絞り尽くしたなら、『ザ・ファントム』の力を超えてコート内に打ち返せる可能性はゼロじゃない」

「じゃあなんで……」

「こちらも同じなの、持久戦なんてとてもやれる状況じゃないわ」

「え……」


 その時、理世さんの体から雫が落ちた。

 汗? まあ、あんな究極奥義を使ってたら汗のひとつやふたつくらいは──いや、汗のひとつやふたつなんてものじゃない。普通じゃあり得ないくらいの汗の量だ! でも、なんで!? 『ザ・ファントム』を使い、どのプレイでも一球──悪くても二球で仕留めていたはずだ。激しく動くことなんか全然なかったのに。


「……まさか理世さん」

「…………」

「打球の軌道をねじ曲げるのにかなりの負担を」

「ふぅ……そゆこと」


 二人の球をいとも容易く返した、僕にはそんな風に見えたからまだまだ余裕なんだと思っていた。でもそんなことはなかったのだ。藍河先輩と陽菜ちゃんの放つ打球はそんじょそこらの打球ではなく、決して片手間に返せるようなモノじゃない。


「……分かりました、一球勝負をやりましょう。作戦を今から考えますから」

「了解したわ」

「勝ちましょう。勝って祝杯でも上げることにしますよ」


 そして最後の戦いがついに始まる。

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