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51:スーパーテーブルテニス

      ★★★


「どうしてこうなったんですかね」

「まあまあ、たまにはこういうのもいいじゃないの」


 僕の名前は桜庭! 唐突だけど卓球対決することになったよ!

 こうなったいきさつを簡潔に話すと、藍河先輩と陽菜ちゃんと合流してこれから何をしようかと相談したら、近くのスポーツコーナーなら卓球やダーツ、ボウリングなどできると店員さんに聞いたのでこうなった。

 なんで卓球になったかというと皆の力を活かしやすいからだ。


 貸し出されていた卓球ウェアを着込んだ僕らは、卓球台を挟んで視線を交わす。


「にしても桜庭君。どうして急に自由になったんだ? とんでもなく重要な用事があるので、今日はお供できないと連絡してきたのに」


 そんなこと一文字も送ってないのだが、一体どこの誰が偽装メールを送ったというのだ。


「ちょっとしたすれ違いと勘違いが生んだ奇跡とでも言いますかねぇ。一言では説明しきれない謎の現象が起きたんですよ」

「ふぅん。詳しく聞く気はあるがそれはまたの機会にしよう。今日は一緒にあの二人を倒すぞ! ダブルスだからな! ダブルス!」

「なんでもうチーム決まってるんですか……。ちゃんと公平にチームを分けましょうよ」

「そうよ! ちーくんと組むのはこの私よ!」


 と、いつものように喧嘩腰な語気の陽菜ちゃん。


「そりゃありえんよ夕崎。まじでありえない」

「先輩とちーくんが組む方がもっとありえないから」

「は?」

「なにか?」

「さくらん、私と組むことにしましょう」

「そうですね、そうしましょうか」

「「はぁぁぁぁぁあ!!!???」」


 勝手に決めるな!!──と耳に突き刺さる怒号。さっきまで勝手に決めようとしてたのはあなた達だからね!?


「どうでもいいからやりましょうよ、卓球。僕って案外得意なんですよこれ」

「お、おう、そうだな。随分とやる気があるようだが好きなのか? 卓球」

「けっこう好きですね、好きが故に強いですよ」

「ほう、自分で言うほどか。それならばもし桜庭君が負けたら、桜庭君は私と恋仲になるというのはどうだ?」

「いいですよ、別に」

「そ、そんなに自信があるのか君は。ちょっと怖くなってきたわ」

「て言うかなんで平然とそんな約束取り付けようとしてんのよ! このバカ! ちーくんもなんでオーケーしちゃうわけ?!」

「じゃあ陽菜ちゃんとも恋仲になるというのはどうだろうか」


 どんな約束をしようとも関係ない。

 この二人が僕に勝てる可能性は万が一にもない。

 なのでどんなにアホらしい契約を交わしても僕にデメリットは一つもない。


「みんな、始めましょうか」


 理世さんの一言が皆の心を引き締める。

 心地よい緊張感が身体を支配する。


「さあ位置に付いてください」


「おい夕崎、足引っ張るなよー」

「こっちの台詞よ、取らないでくれる?」


 ちょうどこの卓球コーナー。僕達しか人が居ないようだった。

 これなら心置きなく戦える。


「ちょっといいかな?」

「ん?」

「なに? ちーくん」

「超次元ルールの適用を提案したいんだけど」


 理世さんが一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに平静に、そしてかすかに笑った。


「桜庭君、なんなんだそのルールは?」

「超次元ルールの掟は三つだけです。一つは何でもあり。二つは地面に落ちなければ何度でも打ち直しあり。三つはノーバウンドで返球あり。」

「なんかよく分からんがおもしろそうだな。とりあえずやってみよう」

「私もそれでいいよ、ちーくん。とりあえずやってみるで」


 不適な笑みを浮かべる理世さんが「それじゃあ11ポイント先取でやりましょうか」と呟く。


 僕達は卓球台を挟んで向き合う。


「じゃあサーブは私からで行かせてもらうぞ。よっ」


 藍河先輩の声と共にサーブが放たれる。

 自陣でワンバンさせて敵陣に打ち込まなければならないサーブは、超次元ルールの適用された卓球ではチャンスボールとなる。


 僕は藍河先輩のサービスボールをてきとうに打ち上げる。


「おっ、何してるんだ桜庭君無茶苦茶すぎるぞ。これで私達のポイントだな」


 確かに打ち上げられたピンポン球は角度的にも敵陣に落ちることはないだろう。

 だが次の瞬間、へらへらしている藍河先輩と陽菜ちゃんの間をオレンジの閃光が貫いた。不意を突かれた二人は全く反応できずにそれを見送ってしまう。


 何故球は敵陣へと方向を変えたのか、それは宙を舞う球を理世さんがスマッシュの要領で打ったからだ。


「へ?」

「いやいやこれはおかしいよ?」

「夕崎の言う通りだぞ、これは反則だろう。二度打ちなんて──」

「──これは超次元ルールですよ、藍河先輩」


 今の僕はとんでもなく腐った笑顔だっただろう。


「なるほど……地面に落ちなければ何度でも打ち直しあり……か」

「そ、そんなことありなの?!」

「それが超次元ルールなのさ」

「そんなぁ……」

「ほら藍河先輩、早く次打ってください」

「くっ……」


 またもやチャンスボー……サーブが僕らの陣へとやって来る。


「これが超次元ルールの真髄ですよ!」


 僕はもう一度打ち上げる。

 何度でも打ち直せるという超次元ルールが適用されている場合、一旦打ち上げて体勢を整えるのはセオリーだ。


「行くわよ、さくらん!」

「はい!」


 理世さんが本気で打った球は、僕に向かって唸りを上げる。


「ち、ちーくん、何をするつもりなの?!」


 そして僕はその球をダイレクトで相手陣地へ打ち込む。

 これは二人分のパワーが合わさり、二倍のスピードで襲いかかる驚異の必殺技。


「「ダブルブースト!!」」


 僕と理世さんが叫ぶ。

 二倍のスピードボール。いや二乗のスピードボールは、決して油断していなかった二人の間をいとも容易く通り抜けた。


「くそ、速すぎる」

「だ、駄目。目で追えない……」


 絶望する二人に僕は仁王立ちして言った。


「この勝負もらった!」

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