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48:宣戦布告

「単刀直入に言いますけど、藍河先輩はどこですか?」

「おやおや気が早いな。もう少し僕とのティータイムを楽しもうとは思わないのかい?」

「まったく思いません。一切合切」

「そうかい、まあいいけれど。僕も楽しくお茶会するために君をここに呼んだわけじゃないからね」


 そんなこと知ってる。

 楽しくお茶会するのに藍河先輩を誘拐する必要はないのだから。


「シリアスってのは間延びするとだれる」

「……?」


 繋さんは何を悟っているのか、よく分からないことを言い出す。


「コメディメインなものだと特にね」


 ニコッと笑顔を浮かべる繋さん。

 醜悪だ。醜い悪魔の笑みだ。誰がなんと言おうとも、あれは善意の欠片もない、気持ちの悪い顔だ。


「……なんのために藍河先輩を?」

「理由は簡単。普通に誘っても君は来ないだろう? 君、僕のこと嫌っているじゃないか。だからわざわざ手間かけて愛しの妹を(さら)ったのさ。心がズキズキ痛むよ」


 嘘をつくな、何が心が痛むだ。


「ちなみにあの子は君の家に置いてきてある」

「不法侵入ですか」

「人聞きの悪い。あの子のバッグに偶然にも合鍵が入っていたのでね。使わせてもらった」

「…………」


 藍河先輩……いつの間に合鍵なんか作ってたんですか……。

 ストーカーじゃあるまいし、いや、若干ストーカーっぽい気質あるけども。


「びっくりだよ本当に。その顔からして知らなかったようだけれど、桜庭君はうちの妹に愛されているんだね。羨ましいよ」

「羨ましいも何もないでしょう? あなたはそれ相応の行為を行ったんだ。藍河先輩に強要し強制させた。結果として妹から愛されることは二度となくなった。ただそれだけです」


 かつてこの男が藍河先輩に行ったことは許されることじゃない。

 非人道的で非道徳的な倫理に欠ける悪魔の所業。


「繋さんみたいな最低な人間、愛されるわけないじゃないですか。あなたには藍河先輩に関わる資格はない」

「んー……まあ、かもしれないねえ? けれど、関わる資格がないのは僕だけじゃなくて君もだろ? 桜庭君」


 繋さんはけらけらと不気味に笑う。

 背に不穏な影が見えた。


「僕の両親を、僕の妹達の両親を、慈悲なく殺害した君は僕と同じはずだろう?」


 重く重く重く重く重くのしかかる言葉。

 胸がきりきりと痛む。冗談なんかじゃなくて、心が痛む。


「僕は…………僕は……!」


 何を言えばいいのか分からないまま。

 言い返す台詞が見つからないまま。

 繋さんが口を開く。


「こうも好戦的だと長話するのが憚られるな」


 まあいいけれど──と、続ける。


「本題だけ言わせてもらおう。今日ここに君を呼んだ訳、それは宣戦布告だ」


 宣戦……布告……?


「僕らの夢……今や父と母が他界しているから、僕のと言った方がいいかな? その成就にはやはり君は邪魔すぎるんだよ」


 こいつの夢は、こいつの両親の夢は、藍河先輩と瑠璃ちゃんの肉親の夢は──、


「──あなた達の夢は狂ってる、だから邪魔をするんです」


 なんのための夢なのか。


「意味がわからないんですよ。藍河先輩や瑠璃ちゃんで人体実験を行って完璧な人間を創ろうなんて、史上で最も優秀な次世代の人類を造りあげようなんて。百歩譲ってその夢を肯定したとしても、どうして藍河先輩と瑠璃ちゃんがあんな酷い目に合わなきゃいけないんだ!」


 フラッシュバックする。

 僕が見た。あの姉妹に施された実験を。

 忌々しい悪夢、苦痛と恐怖しかない最悪の実験が脳裏に甦る。


「そんなこと君には関係ない。僕ら家族の問題だ」

「…………」

「そんな家族の問題に入り込もうとする不届きものはね? 排除させてもらうことにした」


 変わらない笑顔を浮かべる繋さん。


「近いうちに君を殺す。今週末、明日と明後日を飾る土曜日と日曜日は君にとって最後の休日だ。好きなだけ好きな風に僕の妹達といちゃつきでもするといい」


 それじゃあね──と、お金を置いて席を立った繋さんの後ろ姿を見て、僕は非常にあの人を殺したくなった。

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