45:兄妹と姉妹!
ちこっとだけ非日常編
生徒会室に飛び込んできた女の子。
真っ暗で真っ黒でダークネスな黒髪、小さくて可愛らしい童顔と小さくて可愛らしい胸、彼女は藍河先輩の妹君。最上瑠璃ちゃんだ。
様々な家庭事情により、姉妹と言うには辻褄の合わないファミリーネームを持ってはいるけど、血の繋がったれっきとした姉妹なのである。
そんな瑠璃ちゃんが一体なんの用だろうか?
「えーと瑠璃ちゃん? そんなに慌てて一体全体何があったんだい?」
理世さんは瑠璃ちゃんと一度面識が……ぶっちゃけすれ違っただけのようなものだけど、それでも顔を合わせたことがあるわけで、二方は互いに会釈を浮かべたりペコリとお辞儀したり。
もちろん陽菜ちゃんとも。
二人とも知り合いなの? と言いたげな顔だが、彼女と同じ一年生である陽菜ちゃんの方こそ、知り合いじゃないの? と問いたくなるものだ。
「じ、実は今からおうちに帰ろうと思って、昇降口に行って下駄箱を開けたらこんな紙が入ってたんです……」
瑠璃ちゃんから大変なことになった原因であろう紙を受け取る。
告白か何かされたのだろうか?
ハガキサイズの紙に書かれた内容を読んでみた。
「会長はボクが拐った。君達生徒会の長を返してほしくば桜庭君一人で下記の場所へ来るといい」
拐った? 返してほしくば? 一人で下記の場所へ来い?
「「な、なんだってええええええええ!!」」
驚愕!
驚きのあまり、陽菜ちゃんとかぶった。
「どうして藍ちゃんが?」
「まさか……とは思うけれど」
「もしかしてあいつらが?」
あいつら──李星人が?
瑠璃ちゃんが慌てふためく。
「ど、どうしたらいいんですかぁ桜庭先輩……。は、早くお姉ちゃんを助けないと」
「僕もさっさと助けたいけど……警察に連絡とかは無理そうだよね」
紙には機械的な雰囲気を感じさせる筆記体で、「余計なものも引き連れてきたら会長の命の保証はない」。とも書かれてあるのだ。
「何か案はあります?」
「私と陽菜ちゃんならバレずに近付けるかもしれないわ。あくまで、かもしれないってだけなんだけれど」
理世さんが一つ提案するけど、かもしれないではそう簡単に実行には移せない。
「仕方がない。相手が何者なのかは分からないけど、まずは要求を呑むしかないね。僕が一人でこれに書いてる所に行けばいいだけだし簡単な条件だ」
「で、でも。もう少し何か考えてからでも」
「心配ないよ瑠璃ちゃん、ちょっと心当たりはあるんだ。藍河先輩を長く待たせるわけにもいかないしね」
機械的な雰囲気を感じさせる筆跡。
機械的な雰囲気を感じるように偽装されたような筆跡。
僕には心当たりがある。
「え、えーと瑠璃ちゃん?」
と、陽菜ちゃんがしどろもどろに探り探りのように話しかけた。
「は、はい」
「大丈夫だよ、あの先輩は案外すごい人だから。拐われたって自分でどうにかして帰ってくるってくらいなんだから」
まあ……今のところ帰ってきてないけど。
「それにちーくんが助けに行くんだよ。助からなかったとしたら、それはもうドッキリサプライズとかじゃないとありえないよ」
優しい口調でそう言う。いつも以上に穏やかな風で、けどみんなに元気をくれる弾むような声だった。
「うん、ありがとう……。えと……その」
「ああ、私は夕崎陽菜って言うの、よろしくね!」
人との友情の欠片が生まれ出すのはいつだって分からない。
二人がこれからいい友達になることを僕は望もう。
「ところであなた大丈夫なのかしら?」
「僕ですか?」
「それ以外に居る?」
「居ませんね」
苦笑する僕を、理世さんは怪訝な顔でジーッと見てきた。
「心当たりがあるって言ってたけれど、本当なの?」
「ええ、この機械的な雰囲気をひしひしと感じさせる、そう感じるように擬態させられた文字は、見覚えがあります」
「機械的な雰囲気ねぇ……。そもそも筆跡をかくすだけでいいのにわざわざこんな……ある意味特徴的な字を書くなんて。何を言いたいのかしら」
「これにどんな意図があるのか深く読み込む必要はありません」
そもそも、藍河先輩を単独で誘拐できる人間なんてそうそう居ないし。だからといって団体様に狙われる理由もない。
李星人なら多分、指定した場所に来いなんて買いた紙くずを残しはしない。
なんとなく分かった。
藍河先輩を誘拐した犯人。
「──まっ、とりあえず行ってきます」
誘拐犯は恐らくは藍河先輩の──。
僕はスッと手を振って生徒会室を後にした。




