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4:休みの日はデート??

 四月十二日。

 午前九時。


「はっ!」


 目が覚めたら朝じゃないか!

 毎週土曜日の朝六時からやってる『最強戦隊さいきょうじゃー』を見れなかった!


「くそ! 録画予約しておけばよかった……」


 さいきょうじゃーの勇姿を見たかったなー……。子供向けと銘打っておきながら、あのハードな世界観と残虐シーンやストーリー展開は瞠目せしモノがあるというのに。


「しかたない。寝よ」

「いや、起きてよ」


 僕が言うと、誰かも何か言った。

 誰だ。


「ん?」


 うわっ、誰かが布団ごしに僕の上に乗っかかってる。

 それは、誰もが美少女認定するであろう、一つ年下の──、


「──陽菜ちゃんか。どうして、今からデートに行く感丸出しのプリティーな服装で僕の部屋に居るんだい?」

「今日はちーくんとデートでもしようかと思ったから」

「ふーん、そっか。じゃあ僕は顔を洗ってくるから部屋で待ってて」

「分かった! 静かに大人しく慎ましく待たせていただきます!」


 陽菜ちゃんを布団の上からポイっとのけてから、部屋を出る。

 その際、横目に……閉めていたはずの、鍵も閉めていたはずの窓が開いていたのを見た。

 どうやって開けたんだ……ピッキングされるような穴なんてないし、そんなこそ泥ピッキングができるような鍵の形状じゃないし。


「ふぅ、僕は陽菜ちゃんに家の場所は教えてないのに、もしかして偽者なのか? とりあえず着替えて家から離れよう……あの人は新手の泥棒かもしれないからなー。殺されなければ、何を持ってかれたっていいさ」


 多分、ターゲットの知り合いに偽装して擬装して、油断させてから物を盗るというやり口だろう。

 一分以内に顔を洗い、着替え、身支度を済ませた僕はさっさと家から退出した。

 目的地もなく黙々と歩くことにして──それを散歩と言うのだが、とにかく十分ほど歩いた頃。

 前方より見知った顔が……、


「おっ、桜庭君じゃないか。おはよう」


 チャーミングな私服に身を包んでいる藍河先輩が手を振る。


「藍河先輩おはようです。お元気そうで」


 僕もペコリと頭を下げて朝の挨拶!


「いやー、グッドタイミングだな。ちょうど桜庭君に会いに行こうと思っていたんだ、家に行く手間が省けたよ」

「あー、それならグッドタイミングですね。ちょうど会えてよかったです」

「なんだ君も私に会いたかったのか。全く照れるじゃない」


 藍河先輩が鼻を擦る。


「照れないでくださいよ。別に会いたかったというわけじゃありませんし」

「じゃあ、なんだ? 他に用事でもあったのか?」


 口を尖らせてそう言った藍河先輩。表情などから考えると、不機嫌メーターが上昇しているみたい!


「なんか今、僕の家って空き巣狙いにやられちゃってるみたいで。もし、先輩が家に行ってたら泥棒に酷いことされるかもしれないから……本当によかったです」

「自分の家に泥棒が入っているというのになんでそんなに冷静なんだ?」

「命さえあれば十分ですから」

「そうだな……もし食いぶちがなくなれば私の家に来てくれたら養うこともできるしな」

「いいですね、それ」

「えっ、本当か! それじゃあ桜庭君、今からでも私の家に来るといい! 私、一人暮らしだからなんだってできるぞ! 君の好きなことをなんだってだ!」

「冗談です」

「なっ、なに! 乙女の心をもてあそぶとは、許されぬぞ桜庭君!」


 僕は挨拶のときとは違うニュアンスでペコリと頭を下げる。


「無言の謝罪はよせ!」

「ごめんなさい、そんな期待に満ち溢れた顔をされるとは思わなくて」


 さて、どうしよう。

 こうやって面と面を合わせてしまったら、藍河先輩からは逃げられそうにない。


「まあ暇だったしいいか」

「何がいいかだ!」

「藍河先輩」

「なんだ!」

「暇なんで昨日言ってたデートでもしましょう」


 藍河先輩の不機嫌そうな顔がみるみるうちにニコニコと。

 藍河先輩の不機嫌そうな仕草がみるみるうちにぴょんぴょんと。

 藍河先輩の不機嫌そうな態度がみるみるうちに()くなっていった。


「いいぞ!」


 にまにまとしていて、すごく……嬉しそうだった。


「全く君という人は……、照れ隠しも度が過ぎると勘違いされるぞ? 昨日の時点でデートしたいと最初から言っておいてくれた方がよかったんだがな」

「勘違いしないでくださいよ、あくまで先輩の言葉を借りただけです! 正確に言えばデートではなく、生徒会のメンバーとの親睦を深めるためのレクリエーションみたいなものですから!」


 だったら陽菜ちゃんも呼べよ、という話である。


「このツンデレめ」


 藍河先輩が肘でつついてくる。


「僕は生粋のヤンデレですよ」

「否定じゃなくて別方向に押してきた?!」

「好きな人のためなら殺したし殺されたりもできます」

「おっそろしいな、それ。正直なところ、今までツンデレかと思ってたよ、すまなかったな」


 うんうんと頷きながら、僕の肩をぽんぽんと叩く藍河先輩。


「でも私は、そんな君も大好きだぞ!」


「そうですか、僕は先輩のことが大嫌いですけどね」


 僕を斜め上に目線を逸らす。

 子供扱いというか、まるで赤ん坊をあやすかのような先輩の口調にイライラしてきた。こうやってたらツンデレに見えるかな? やっぱり目線を戻しておこう。


「あと一つ言っておきますけど、ヤンデレとか嘘ですから。ツンデレでもないですから」

「あははは、分かってるよ。分かってる分かってる、あははははははは」

「…………」


 とりあえずデート……じゃなくてレクリエーションを始めようか。

 僕が帰る頃にはあの泥棒さんも消えてくれていたらいいけれど。



      ★★★


 二時間後。


「お昼ご飯でも頂こうか。ウエストポーチの中身を見せてくれ、桜庭君」

「ポーチの中にはガムくらいしか入ってませんよ。それにまだギリギリ午前ですよ」

「私は最近腹が減って減って減りまくっているのだ。起床ごはん、朝ごはん、おやつ、昼ごはん、おやつ、夕ごはん、晩ごはん、夜ごはん、寝る前ごはんとたくさん食べなければ死んでしまう」

「多すぎです! 女としてどうかと思います!」

「気にするな……桜庭君に変に思われなければどうでもいい」


 その僕が女としてどうかと思う、と言っているんだけど……。


「それに太りはしないよ、摂取した栄養の大半が胸に行くからな」

「揉ませてもらっていいですか」

「どうぞどうぞ! いくらでも揉んでくれ!」

「ジョークです!」

「女の子にそんな冗談を飛ばすとは……最近の桜庭君はどうかしてるよ……」


 え、どうかしてるだって?


「僕もそろそろ藍河先輩との付き合い方を考えないといけないかな……と思って。ボケのリハーサルですよ……、けどジョーク本に書いてたギャグだったんですが……いまいちウケが悪いですね……。藍河先輩だからというのもあるとは思いますが」

「私が相手なのは関係ない。て言うか、君はどんなジョーク本を読んでるんだよ……。そもそも桜庭君は私の彼氏だったけ?」

「そういう意味の付き合いじゃないですから!」

「そうだった、夫だった……。結婚していたことを忘れていたなんて、私のバカ!」

「違いますから! 友達としてですから!」

「全くツンデレめ」

「…………」


 もういいや、そういうことにしておこう……。めんどくさいから……。


「今からどうします? レクリエーションなんだし陽菜ちゃんも呼びに行きますか?」

「いや、それはいい。私は君と二人でレクリエーションを実行したい」

「早くも生徒会の絆にヒビが入りそうですね。陽菜ちゃんが可哀想です」

「そもそもあいつとの絆なんてないだろう」

「そういうこと言うのやめましょうよ……近くに居たらどうするんですか。居ませんけど」


 ふと、後ろを向くと……陽菜ちゃんが居た。

 息を僅かに切らし、膝に手をつき、暗い表情で。


「はぁはぁ……、ちーくん……なんで……このアホ先輩と一緒に居るの? 私とデートするって言ったのに」

「……いや、言ってないと思うけど」


 そんな約束はしてない。

 僕にデートのお誘いをくれたのは藍河先輩とあの泥棒だけだ。

 陽菜ちゃんとはそんな話は一度もしてないはず。


「したよ! 絶対にした! するって言ったもん! あれからずっと待ってたんだよ!」


 なんなんだ、話が全く理解できない!


「分かったよ陽菜ちゃん、今から三人でデートをしよう。それで万事解決だね!」

「全然解決してないよ! 私はちーくんと二人っきりのデートをしたいの!」

「ごめん、それは無理だよ。だって藍河先輩が居るし」

「でも先に約束したのは私だよ!」

「お前の主張などどうでもいい、さっさと帰れ雌豚」


 藍河先輩が会話に入ってくる。


「誰が雌豚よ! この変態おっぱい野郎! 雌豚というワードに固執するな!」


 ムキー、とムキになって言い返す陽菜ちゃん。僕と話すときと違って口調が激しい。


「おやおや、私並みのたわわでムフフでセクシーな体を持ち得ないからといって見苦しいなぁ? そんな貧相極まりない肢体じゃ、桜庭君を誘惑することは不可能に決まってるさ」


 ふはははははははは、と笑う藍河先輩。また、どっかの悪役魔王みたいな笑い方になってる。

 全教科満点パーフェクトな頭脳明晰な藍河先輩だけど、陽菜ちゃんが貧相極まりない肢体というのは間違っているので、訂正することにした。


「先輩先輩、藍河先輩。それは間違いなんです」

「何がだ?」

「僕、昨日の放課後に藍河先輩が帰った後、陽菜ちゃんの胸を揉ませてもらったんですが、全然貧相極まりないなんてことはなくて、すごく柔らかくて気持ちよかったです」

「なんで揉ませてもらってんだ君は! 何があったらそんなイベントが起きるんだ!」

「ほら、生徒会に入るときの約束ですよ」


 実は冗談ではない約束。


「ちょっとちーくん、人前でそんなこと言われるのは恥ずかしいよ……。もしかしてもっとシタイ?」


 指と指を合わせて、顔を赤らめながら言う陽菜ちゃん。


「許さぬぞ! まずは桜庭君! 私以外の人間にうつつを抜かしたことを罰してやる!」

「待って、藍河先輩!」

「待つか!」


 藍河先輩がボクシングの構えをとる。文武両道たる所以、先輩には格闘技もお手のものだ。


「ボディ! ボディ! ワンツー、ストレート! 左フック! アッパーカットォォォ!」

「物理的ーーーー!!!」


 意識が遠のいてく……。

 さようなら……僕の青春……。

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