33:劇的で刺激的な展開
二人を見つけて凛子さんから託された錠剤を飲ませた後、僕らは奴等に見つからないようにしてアジトから脱出することに成功した。簡単だった。
そして生徒会室に戻った僕達はそれぞれ椅子に腰掛けダラダラしていた。
凛子さんから薬品の準備が完了したと連絡が来るのを待っているのだ。
「これで終わりなんですかね?」
ふとそんなことを思い声に出す。
だってあまりにも拍子抜けの結末だし、結局ほとんど苦労することなく二人を助け出せたし、まだ何か……これから超展開が待っていたりはしないのだろうか?
まあ、そんなものは来てくれない方がこちらとしては嬉しいんだけどね。
いや、でも確かにこれから迫り来る強敵によってあの三人が倒され、ピンチになったところで僕が超能力に覚醒めてその強敵を破るというのは捨てがたい展開ではあるが、まず覚醒することがないのでそんなシナリオになったら僕死んじゃう。
「…………終わりなんじゃないか?」
藍河先輩が言う。
「漫画やアニメじゃあるまいし、ドラマや映画じゃあるまいし。私達が生きているのは現実だぞ、現実」
って言ってもその現実に宇宙人とか超能力者とか魔法使いが介入してきているんですが。
「君が期待するような劇的で刺激的な燃える展開にはなりはしないよ」
「べ、別に期待なんてしてないんだからね!」
「桜庭君が刺激的な私に萌える展開にはなり得るがな」
「そりゃ一番あり得ないです」
マジであり得ない。藍河先輩に萌えるとかマジないわー。
「でも会長の言う通りだよちーくん」
藍河先輩の呼び方と、藍河先輩との話し方がタメ口なのか敬語なのか安定しないブレッブレな陽菜ちゃんが口を開いた。
「私は秘密機関魔法連邦に所属してて今まで何十回も戦闘任務に駆り出されたことがあるんだけど、一度としてドラマティックな戦争なんてなかった。観衆がエキサイトして喜んじゃうような創作的なストーリーにはならなかったよ。やっぱりフィクションとノンフィクションはとてつもない差があるんだなって思わされるよ、うん。……だからきっとちーくんの期待しているような感じにはならないと私は思うなー、今回の事件では」
「だから僕は別に期待なんてしてないからね」
すると、今度は理世さんも口を開く。
「宇宙機関銀河連邦に所属する私もそんな劇的な戦争に巡りあったことなんて一度もないわねぇ。やっぱり本物と作り物は違うってことなのよね。あなたも期待通りの展開じゃなくてガッカリしてると思うけれどそのうち慣れると思うわぁ。がんばって」
「いや、僕は、別に、期待なんて、してないです」
この人たちなんなの?
協力して僕を厨二病患者として扱いたいの??
僕を笑い者にしたいの???
と、ここで僕の携帯がブルブルと震えだした。どうやらメールの着信だ。
送信してきた相手は凛子さんで、李星人のウイルスを殺す薬剤ができたので取りに来てとのことだった。
それを皆に伝え、
「じゃあ僕が取りに行ってきますね」
そう言って生徒会室を出ようとする。
「桜庭君、一人で大丈夫か? 私も付いていこうか?」
「それは私の役目だね!」
「お前はいい、須川理世とオセロでもしてろ、貸してやるから」
「アンタが決めることじゃないじゃん!」
このままだと揉み合いが始まりそうだし、いやいやおっぱいの揉み合いじゃないからね? ──なので、
「一人で大丈夫ですよ、お土産にコンビニジュースでも買ってきますよ」
そんな風に告げて一人で凛子さんの元に向かうことにした。
一人で行ったら何か面白そうなドラマティック展開に巻き込まれるかも。
と、厨二思想を持って。
まだ李星人による襲撃を受ける可能性もないわけじゃなかったのに。
愚かにも単独で外へ出た。
そんな可能性に思い至らなかったのは生徒会のメンバー全員で、皆はこのあとにまだ非現実的な展開があるとは到底思えなかったのだろう。




