32:藍河先輩と陽菜ちゃんの決闘
非日常より日常を書いてる方が楽しい件
ぶっちゃけ二人の居場所まで行くのは簡単だ。
移動するなかで邪魔になる奴は、みんなサイコキネシスで壁に顔面を打ち付けられて瀕死状態にさせられ、邪魔にならない奴はただ無視して進むだけ。
監視カメラもないし守りが甘すぎる。
ガバガバな防御網だった。
「まあ李星人はそこまで経済力や技術力のある種族でもないし、だからこそ藍ちゃんのような優秀な人材を求めているのよ。李星人の経済力と技術力を底上げしてくれるような優秀な人材を仲間に変えるため。藍ちゃんを李星人に造り変えようとする選択は間違ってはいないと思うわ」
「…………」
「だってそうでしょう? こう言うのはあなたも嫌だと思うけれど、あの子は同じ人間から見ても異質な存在なはずよ。今通っている学校みたいに何かと自分と比較されてしまうような、自分と比較してしまうような環境に居れば嫌でも分かるはず。平凡な木っ端市民である自分達に対して、彼女はあまりにも持っているものが違いすぎる。天才を超越した天才を李星人に変えることができるなら、そのときあの李達は宇宙でもトップクラスの存在になり得るでしょうね」
藍河先輩は天才だ。
藍河先輩はどの分野においても天才だ。
どんな分野においてもすぐに頂点をかっさらう……天才だ。
そんな異常な藍河先輩だから。
異常に巻き込まれる。
藍河先輩は人間の枠には、天才という枠には収まりきらない化物だから。
だからなんだ。
僕はここに居る。
「だから僕が居るんです」
僕が藍河先輩と居る理由は。
「藍河先輩を普通で居続けさせるため」
だってそうじゃないか。
藍河先輩は、藍河先輩は……、どんな扱いをされてもひたすらに、ただ僕を好きでいてくれる一人の女の子じゃないか。
人を好きになる普通の女の子なんだよ。
「──そのためにも、今藍河先輩に降りかかっている『異常』を払い除けてあげなきゃいけない」
藍河先輩は異質なんかじゃない。
普通に喜んだり怒ったり哀しんだり楽しんだり、喜怒哀楽のある普通の人間なんだ。
けど、今回の出来事で藍河先輩が李星人に成り果ててしまえば、彼女は本当に普通じゃなくなる。
極めて異質な────ただの化物になってしまう。
そうなってしまえばもう彼女は二度と普通に生きられない。
今回こそ普通じゃなくなるんだ。
だからそれだけはやらせちゃいけない。
絶対に李星人を仕留めて、彼女の感染を食い止めなければならない。
僕は放課後の生徒会室で、常に自分らしく在る普通の生徒会長と他愛のない普通の会話をすることが好きだ。
二人が監禁されている部屋に着いた。
ホログラムで見るより実際に見た方が分かる鉄壁の扉がそこにあった。
「こりゃ無理ですね。さっきみたいな暗証番号入力デバイスも付属しちゃってるし、また凛子さんからハッキングの説明が来るのを待つしか……」
「そうだけど、凛子におんぶにだっこになるのもいい気分じゃないでしょ?」
そう言うと理世さんはギンギラギンの鋼鉄の扉に近付き、ロック解除のデバイスに何かを取り付ける。
「それってなんです?」
「これよ」
手のひらに置いて僕に見せてくれたそれはホログラムマップ創造の機能を持つサイコロだった。
「何も全体図を見るだけがF-204の力じゃないわ」
扉の至るところに、特に端や壁と繋ぐための金具には重点的に設置され、それどこに隠していたの? と質問したくなるぐらいの量を取り付けていた。
凝視すると胸の谷間とか、太もも辺りに巻いたケースから取り出している様子で、チラチラと見えかけるパンツや谷間の更なる真髄に僕は興奮卒倒寸前。
なんとかポーカーフェイスを保っているから、そんな感情が漏れることはないだろうが。
「ねぇ、胸と太ももの辺りをじろじろと見るのはやめてくれるかしら。そんなニヤついた顔で視姦されるのは正直不快よ」
全然ポーカーフェイスじゃなかった。
いやらしい気持ちが駄々もれな上に不快とまで言われた。
「…………」
ショック受けるな、これ。
僕は照明のついた天井をずっと見上げることにした。照明の明かりが僕の心には眩しすぎるのでやっぱり視線を戻した。
「ところでそのサイコロには他にどんな機能があるんですか? 高圧水流でドアをぶったぎるとか?」
「小型の爆弾よ」
「そう……なんですか。て言うかそれって中の人を傷付けたりしませんよね?」
爆発させる行程として必要なのかサイコロをクリクリといじる理世さん。
「威力はかなり低いから今あるだけでも足りないくらいよ」
今あるだけって……もう五十個くらいくっつけてない?
サイコロだらけの扉のシュールさに思わず苦笑してしまう。
「少しだけ離れて」
僕は言われた通りに移動する。
「どーん」
と、心の準備をする前に理世さんが起爆させたみたいで、かけ声の直後に爆竹が弾けるような音が何回も何十回も連続して広がった。
「ああああああ! あああああああ! 耳が痛いです!」
キーンってなってる!
「耳を塞がないからよぉ……」
「まさかあんな間髪入れず速攻で爆発させるなんて思いませんて」
「そんなことよりほら、開いたわよ」
「あ、本当だ」
うまい具合に一部を吹き飛ばされた扉は、ドミノ倒しの最後の一枚のようにバタンと倒れた。
そこからの部屋の光景。
「うおおおおおおおお!」
「くぅぅぅぅうううう!」
一つのテーブルを挟んで、藍河先輩と陽菜ちゃんが腕相撲をしていた。
「はあっ!」
「にゃあ!」
可愛い悲鳴を上げて陽菜ちゃんが敗北した。
「ぬああああ! 拳が痛いいいいいい!」
「これで私の364勝だな。ちなみにお前は0勝だが今どんな気持ちだ?」
「も、もう一回! あんたみたいな怠慢生徒会長に負けるか!」
「もうその罵倒も聞き飽きた! それにもう一回やったところで私の勝利は絶対に揺るがん」
「次は絶対勝つもん! あんたのその生意気な減らず口を私の勝利で塞いでやる!」
「生意気な減らず口たたいてるのはお前なんだけどな」
「な、なんですと!」
プンプンと怒り出す陽菜ちゃん。
「いいわ、腕相撲はやめにする。今からやるのはリアルファイトよ、身体と精神を存分に使って互いの誇りを賭けた決闘よ!」
「待て待て、プライドを賭けるもなにも今現在誇りをズタズタにされてるのはお前だけだから」
「私のプライドをこれ以上無茶苦茶に切り裂くのはやめてよ!!」
「……………………えい」
怒りと悲しみのこもった涙目の陽菜ちゃんの心からの叫びは全く効果を持たなかったようで、藍河先輩がお茶目な笑顔で足払いをかける。重心とか技術とか関係ない力任せの足払いだが、油断していたせいか「ひゃあっ」と僅かな悲鳴を漏らしてお尻からスッ転ぶ陽菜ちゃん。
「おやおや夕崎くん、無様に尻餅ついているようだけれど何かありましたかぁ? 誇りがズタズタにされるようなリアルファイトがありましたかぁ?」
「う、うぅ……うにゅぅぅ……」
陽菜ちゃんの可愛い顔が憤怒と羞恥で真っ赤に染まり、わなわなと震え出す。だんだんと泣きそうになって歪んでいく表情。
これが誇りを、プライドを、自分の自尊心を破壊された者の末路である。
「……夕崎」
さすがに罪悪感が生まれたのか藍河先輩は陽菜ちゃんの傍に寄って、彼女の肩に優しく手を置いた。
「す、すまなかった…………わ、私が悪か……ぶはっ! あっはっはっはっははははははははははははははははははは! ほ、本当にふふふごめっあひはははははははははは!」
大笑いしてた。
ぶわっと目頭に涙を溜めて今にも零れそうになるのを見て、そろそろ可哀想になってきたので、僕は扉の壊れた牢獄に足を踏み入れた。
「あ、あの、二人ともー」
「はははははは──んん? やあやあ桜庭君じゃないか。いつからここに?」
「爆発音したんだから気付いて! 扉ぶっ壊れたんだから気付いて!」
「こいつとの戦いに夢中で全然気が付か────」
僕と藍河先輩の間に差し込んでくる影、陽菜ちゃんが涙を流しながらぎゅっと抱きついてきた。
「うえええええん、ちぃぃくううん! 馬鹿生徒会長がぁぁ! あほ藍河先輩がいじめてくるうううう!」
「ええ? ええっと」
その瞬間を、止めにも入らずずっと傍観していただけに何を言えばいいか分からない。
「こら! 桜庭君に抱きつくなぁ!」
「うるさぁい! この馬鹿ぁ!」
陽菜ちゃんを僕から引き剥がそうとする藍河先輩。
それに抵抗する陽菜ちゃん。
ともかく、二人を牢獄から出すことに成功した。




