29:おじさん退治
奥に進むとそこは食材が保存されているだけの場所だった。部屋のそこかしこに積まれたダンボールからたくさんの食材がぴょこりと顔を覗かせる。
その奥で、
「きゃーたすけてー」
恐らく三人のおじさんによって衣服を乱されてしまった理世さんが棒読みで助けを求めていた。おじさんは僕に気付いていない。
こんな変態おじさんなんかサイコキネシスで一捻りでしょ。
「へっへっへ、この子可愛いですね二食さん」
「久しぶりにこんなに魅力的な女の子と戯れますよ、ねぇ三食さん」
「そうだな。つーかよぉ馬鹿かお前はこれは可愛いではなく美しいというのだ、一食よ」
コックおじさんの話を聞く限り、『この子可愛いですね──』なんて言ってる人が、小太りコックおじさんの一食。『戯れうんぬんかんぬん』の人が、中太りコックおじさんの二食。『可愛いではなく美しいうんぬんかんぬん』の人が、大太りおじさんの三食。多分三食が一番偉いのかな?
四十代もしくは五十代ほどの人生の先輩だろうけど、高校生を裏に連れ込んでやましいことをしようとするような奴等だから、さん付けなんてしないし、この先この人たちにメリットがあるようなことは死んでもやらない。
してやるもんか。
変態め、変態なんか消え去れ!
「……僕は…………変態なのだろうか?」
ふと気になった。
小声で自問自答する。
「もし僕が変態なら、とっくの昔に理世さんをこいつらみたいにどこかに連れ込んでるはずだよね」
僕は変態じゃない。
ところでどうしようか。
もう後ろから殴りかかってもいいんだけど問題になったら嫌だし、て言うかぶっちゃけ既に問題がおきてるんだけれども。このままじゃおじさん三人と理世さんが18禁のエログロティックスな瞬間を迎えてしまう。
あっ、よく考えたらこれ放っておいていいんじゃ。
「名案だ」
このまま助けずに放置することにより、理世さんはおじさん達に服を脱がされる。さすがに脱がされたらサイコキネシスを使ってでも抵抗するだろう。そうしたら万々歳なのだ。
「理世さんのセミヌードを拝める上に、サイコキネシスでおじさん達は全滅、女子高生を襲おうとしたことから社会的にも追放される。……バッチしだね」
まっ、理世さんの歳は高校生じゃないけど。
僕は彼女が脱がされるのを待つことにした。
「……たすけてー」
壁どんされてる理世さんが──僕をじーっと見ながら助けを求める、もちろん棒読み。おじさん達は僕に背中を向けているのでいまだに気付かない、だから。
僕は待つ。
「へっへっへ、嬢ちゃん助けなんか来ないぜえ。ここは関係者以外立ち入り禁止だからなあ、ぶひゃひゃひゃ」
「一食、台詞に中年のおっさんみたいアクセントつけるな。二十代の癖に」
一食って二十代だったのぉ!?
食堂で遠目から見たときは明らかに四十代のおっさんって感じだったのに!
「あなた二十代だったのねぇ…………意外」
『うわ……マジか』みたいな表情をする理世さんになんとも言えない気分になる。おじさんに気付かれたらいけないので元々なんとも言えないんだけど。
そういえば……よく考えたら──よく考えなくても、こんなことしている場合じゃないんだった。
僕達は急いで藍河先輩や陽菜ちゃんを助けに行かないと行けないのに。道草食ってる暇なんかない!
「こうしたら脱げるのか!」
「いや、こうだ!」
「馬鹿かお前らは!」
「…………」
慣れない手つきでなんとか理世さんの制服をおじさん三人組、本当に襲う気があるのか分からないレベルで脱げないので、彼女はどうしていいか分からないようだった。
そんなコントを見ながら僕はある作戦を思い付いた。
「あっ、そうだ」
理世さんの半裸を目に焼き付けさせつつ、一刻も早く二人を救助に移る方法。
僕はおじさん達の間に駆け込み割り込む。
脂ぎった汗まみれのコックおじさんに挟まれ、僕のやる気が下がった。
「な、なんだこいつは!」
「いつの間に! 気付かなかったぞ!」
「そんなに脱がせられないなら僕が脱がせてやるからこれで満足しろぉ!」
これで僕も満足する。
思いを込め、ありったけの想いを込め、僕は叫んだ。
驚愕する理世さんの脇に手を挿し込み、子供の服を脱がせるようにして上向きに力を込めた、彼女が上半身裸になるように、制服ごと、その下のシャツごと、さらにその下の肌着ごと、……ブラジャーごと、すっぽんぽんと脱衣させるため。
無理だった。
「うん……だよね」
まずブレザーのボタンから外せって話だよ。
なんでTシャツと同じような勢いで脱がそうとしてるんだ、あのおっさんどもは。
僕もじゃねーか!
「ふぅ……」
「「「…………」」」
「…………」
四人とも同様に黙っていたが、脳内で思考している内容は各々(おのおの)違うだろう。
「すいません……理世さん。早く助けに来れなくて」
「ずっと後ろで見てたじゃない。何してたのよ」
「作戦を練っていました」
「ふぅん……いやらしい目付きしてたのは私の勘違いかしらね」
「ありえない! 今にも襲われそうな女の子を変な目で見るなんて言語道断です!」
「て言うか、手を離してちょうだい。徐々に胸に寄ってきているのが非常に気になるわ」
残念、揉み損ねた。
僕は後ろを振り向き、視界におっさん達を捉える。
「がははははは! 貴様らもう生きては帰さんぞ!」
「こんなところ見られちまったらもうこの仕事やってけねぇからな!」
「今あったことはなかったことにさせてもらうぜえ!」
くっ! 女子高生を性的な意味で襲ったという事実を揉み消そうと言うのか! なんてひどいやつらだ!
「僕もお前らを許さないぞ! 張り倒してやる!」
僕達は本気のファイティングポーズをとる。
始まるのだ、生死を賭けた本気の勝負だ。
集中しろ……こっちには理世さんが居るんだ、数では負けてても戦力的には全然行ける!
「えい」
馬鹿にしたかのような声色だった。
理世さんのそんな掛け声が耳に入った瞬間、三人のおじさんが前触れなく、前兆もなく、ぷかぷかと浮く。
サイコキネシスだ。
おじさん達は唐突に起こった謎の現象に恐怖を抱いたのか、それぞれが甲高く悲鳴を上げた。
「ん?」
ぷかぷかと浮遊しているのは僕もだった。
「あれ、これはどうしてでしょうか?」
理世さんの冷たい笑顔が怖い。
ギュオンと変な音がして、おじさん達は壁に勢いよくぶつけられた。
「なんで僕まで!」
僕も仲良く一緒に壁にぶつけられた。
背中がタイキックを十発もらったみたいに激痛がする。
……ぼ、傍観しててごめんなさい。
……い、いやらしい目付きで見ててごめんなさい……。
……ぬ、脱がそうとしてごめんなさい…………。




