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僕らの非日常ハーレム生徒会!!  作者: 猿野リョウ
非日常編『もももも』
28/73

28:突入

 僕達は、我らが私立平凡高校の一階にのれんを掲げる古風な食堂の地下食糧貯蔵庫(そんなところが実際にあるのかは別として)に向かっていた。

 食堂に入ってから奥に進むとなかなか立派な厨房があり、ホログラムマップによるとその更なる奥に、李星人の聖域──サンクチュアリが存在すると示されてある。


「どうやって厨房の奥に入れてもらいます?」

「それよねぇ、物理的な暴力で強行突破するって言うのもいいんだけど、後の学園生活に大きく響くのよねぇ」

「物理的な暴力全然よくない!」

「あっちの方向でも……いいのよぉ?」

「も、揉ませてくれるんですか……?」

「何を言ってるのかよく分からないわ」

「理世さんのおっぱいを揉ませてくれるんですかぁ!!」

「そういうことを言ってるんじゃないわよ!」


 食堂にいるコック姿のおじさんや掃除のおばさんにじろじろ見られているのが分かるんだけど……声を抑えるべきだった。


「全く……。でも同情するわ、藍ちゃんのあのいやらしい体をいつも隣で見てるから欲求不満になっているのね」

「藍河先輩じゃなくて理世さんのいやらしい体のせいで欲求不満なんですけどね」

「え?」

「ん? だから僕は理世さんの体に欲情してると言いますかね……」

「引くわ、私ちょっと引くわ。やっぱり本気で引くわ」

「ごめんなさい嘘ですッッ!!」


 理世さんの足元にスーパー滑り込み土下座スライディングを決行した。


「ぬぐぁっ!」


 足元に潜り込んで顔を上げようとした瞬間蹴り上げられた。

 思わず食堂の床にべったりと仰向けに倒れてしまう。なんか頭にべったりとしたものが付いた! 生ゴミ!? 誰かの食べかす!? (きった)な!


「そうやって謝るふりしてスカートの中を見ようとしても無駄よ」


 それ勘違い! 割と本気(マジ)に勘違いだよ!

 冗談抜きにスカートの中を見ようとはしていない、見たいとは思ったけど! そのまま脱がせたいとは思ったけれども!


「待って理世さん、超超超超勘違いですよ、勘違いキックしないでくださいよ! サッカーのキックオフで小学生が相手陣地にボールを思いっきり蹴り込むときみたいな勢いでキックしないでくださいよ!」


 だってそんなやり方リスクが高いですもん。


「仮に理世さんのパンツを見るとしたらもっと違う方法をとりますよ、僕は!」

「ふぅん、例えばどんな?」


 僕は床を指差す。


「床! ピカピカですよね!」

「ええ、そうね。掃除のおばさんが一生懸命に働いてくれたおかげよねぇ。それで床に何かあるの?」

「その何かがあるんですよこの床には、掃除のおばさんが懸命に()いて()いてくれた結果。それに見合うだけの価値が、力がこの床にはある」

「つまりなんなのかしら」


 僕はバッ、と素早くしゃがみこみ床を凝視することにより、そこに秘められた力を行使する。

 今の僕は、見ていろ! と言わんばかりの凄まじいオーラを発していることだろう。


「理世さん、今日のパンツは紫ですね──いや黒かもしれないな。と言うかその間の色かな? 可愛いと言うかなんというか似合いますね、そそりますね。どちらにせよ大人っぽくて(て言うか理世さんは大人だった)僕は好きですよ!」


 エロくて好きですよ!


「こ、この変態!」

「ぐはっ!」


 またもや理世さんに蹴り上げられ、さっきと同じ過ちを繰り返すように、先刻と同様のノックバックモーションで倒れてしまう。


「いたたた……。いやぁー、それにしても理世さんみたいな何事にも動じなさそうなクールエロ美女が、顔を若干赤らめ焦っちゃった表情を浮かべるなんてレアですね。蹴りも含めてその顔を魅せてもらってありがとうございます!」

「誰がクールエロ美女よ。別に私は顔を赤くなんてしてないし、焦ったりもしてないわ。後、蹴られたことに礼なんて変態じゃない」


 そうやってそっぽを向く理世さんに萌える!

 年上クール美女最高っっ!


「ちなみに美女に蹴られたんだから、御礼を言っておくべきかと思っただけです。僕は変態じゃありません」

「急にそんな真顔で言われても困るわよぉ……」


 ……確かに困る。仮定として、僕が蹴り飛ばした美少女が「ありがとうございます!」と満面の笑みを浮かべて感謝の言葉を叫んだとして……、確かに困る。

 正直、そんな状況になったらその女の子にどんな反応をすればいいのか、どういった対処をすればいいのか分からない。

 もっと蹴ったらいいんですかいな?


「ちなみにどんな小細工で私のスカートの中を覗いたのかしら?」

「そんな怖い顔をしないでくださいよ理世さん。すばやさ下がっちゃいます、鈍足になっちゃいます」


 理世さんの整ったお顔が紅潮してきてる……怒りの方面で。

 血管が浮き出そうな雰囲気だ。


「ぶっちゃけスカートの中が見えちゃうのは掃除のおばさんのせいですね。おばさんがあまりにピカピカに掃除しちゃうものだから、鏡みたいになっちゃってるんですよ。上等な掃除屋を雇った学校側の責任とも言えます」


 とは言え、いくらなんでも丸見えというわけではないのだ。

 だって普通の鏡の如く、くっきりとそのままのありのままの肢体(したい)を映すというのなら、とっくの昔に学校側が対策しているしているだろうし、僕以外にもパンツの見方を体得しているふしだらな(やから)だって出てきて、盗撮騒ぎにだって発展しかねない。いや、僕はふしだらなんかじゃない。

 とにかく、見えるのはあくまで色程度で「あれ、これってもしかしてパンツなのか? 色は……多分黒?」という風な曖昧な感じになっちゃうのだ。しかも目を凝らしてよく見ないと分からない。


「実際のところ、理世さんが僕を蹴るときにおおっぴらに足を振り上げるもんだから見えちゃうというか……ねぇ?」

「…………!」


 理世さんが悔しそうに表情を歪めて僕をキッと睨む。そこまできつくて鋭い睨みではないけど。


「仕方ないわね。今回は許してあげるわ、ただし次はないから」

「えっ、終わりなんですか」

「何が不満なの? もっと蹴られたいの? 本物のドM変態野郎ね」

「そうは言ってないです!」

「じゃあ何よ、早く言いなさい」

「僕の妄想──じゃなくて、想像──いや、予定じゃ理世さんが『仕方ないわね。今回は許してあげるわ、ただし次はないから……、そしてその次が来ないように私がいいことしてあげるカッコハート』的な台詞を吐いて、僕とあんなことやこんなことをするはずだったんです!」

「……だったら、本当にそうしてあげましょうかねぇ!」

「ホントですか!? やった!」


 喜びもつかの間、いまだに仰向けの僕の腹部にヒップドロップをかます要領で、ぴょんと跳ねた理世さんの表情は優しさに満ちた柔和な笑顔だったけれど、さきほどとは違って本当に血管が浮き出ている。

 ドスン、と彼女が僕のお腹にヒップドロップついでに跨がった。


「ぐおっ……お腹が……」


 お腹から伝わる理世さんのお尻の柔らかさ! ヒャッホー!!


「…………」

「ご、ごめんなさい理世さん、怒らないで」


 理世さんがもぞもぞと動く。

 横っ腹から伝わる理世さんの太ももの柔らかさ! キャッホー!!


「別に怒ってなんていないわよぉ?」


 そう言って段々と顔を近付けてくる。

 距離のカウントが小さくなる度に、僕は改めて思う。理世さんは可愛いと──美しいと思う。

 (つや)のあって鮮やかに光るその柔らかそうな唇に今すぐ口付けしたいくらいだ。て言うかキスされるがために存在するような唇だ。


「ねぇ……あなたがそこまで求めるのなら……私はいいのよ? あなたの希望を、願望を、切望を、欲望を受け止めてあげても……」


 耳元で囁かれた。

 理世さんの吐息が耳にかかって、興奮が高まるようだった。


 もしも、彼女が本当に僕の希望を、願望を、切望を、エロスに(あふ)(ほとばし)る欲望を受け止めてくれるというのなら、僕のエロスに輝き煌めく欲求を受け止めてくれるというのなら。


 僕は……。


「り、理世さん……僕……」

「女を待たせるものじゃないわよ……」


 目を(つむ)る彼女を見て、僕も目を閉じ……そして抱き締め──なかった。


 抱き締めようとした、目を閉じようともした。

 だが自身の眼球に入り込む像を遮断しようとする直前、人影が差し込んでいたのだ。

 僕は思わずビクリと身を震わせて蛍光灯と影の位置から考えうる、付近の人間の場所を算出し、そちらへ目を向けた。


 そこに居たのは顔を真っ赤にしてあちこちに目を泳がせつつも、しっかりと僕らのことを見ている、真っ暗で真っ黒の深淵の闇みたいなダークネスな黒髪が目立つ、大人しそうな女の子だった。

 平凡高校の制服を着ているのでうちの学生だろう。

 その小さい身体に、控えめなショートカット、可愛らしい童顔、小動物のような雰囲気から見て、恐らくは後輩だろう。


「はわわわわわわわ……」


 なんだか大人の階段を登りそうな僕達のそんなシーンが気になって見てみようとしたけど、やっぱり恥ずかしくなってきたのでやめようと思ったけど、それでもそんな行為に興味があるといった感じの、頬の赤らめ方だった。


「あ、あ、あの、私は、その」


 て言うか、よく見たら知り合いの女の子だった。

 僕が彼女を見つめると、頭から蒸気を噴き出しそうなほどに顔を赤くした。


「え、えっと、エッチなことに興味があるってわけじゃなくて、た、ただこんなところで何してるのかなって、わ、私も将来こんなことするのかなって思ったわけじゃなくて、あの、あの、ご、ごめんなさぁぁぁぁあい!!」

「待って瑠璃ちゃん!」


 オリンピックの短距離走で五大会連続金メダル獲得するような選手でも不可能で不可解極まりない、超速のロケットスタートで彼女はこの場から姿を消した。


 理世さんも目を開けてこの状況に説明がほしいという顔をする。

 僕たちは一旦立ち上がる。


「あの子は?」

「あれは……後輩の女の子で、最上瑠璃(もがみるり)って子です。ちなみに藍河先輩の妹なんです。名字は色々あって違いますがちゃんとした妹ですよ」

「え、本当に?」


 半信半疑の表情を浮かべた。


「ええ、本当です」

「あの子もやっぱりすごい才能の持ち主だったりするのかしら」

「それはないです、瑠璃ちゃんは頭も普通だし、運動神経は悪いです」

「そっか……なんだか悪いものを見せちゃったわね……あの子には」

「ええ……そうですね。……続きやります?」

「やるわけないじゃない、そもそもあんなの冗談なんだから本気にしないで」


 本気じゃなかったのか!

 僕はもう思いっきりキスしようとしたよ?!


「それにこんなところで何やってんのって話じゃない」


 確かにそうだ。

 お前ら食堂で何やってんだよって話になる。


「本来の目的……忘れちゃいないでしょうね」


 本来の目的。

 僕らのやるべきこと。

 それは、消えた藍河先輩と陽菜ちゃんを見つけ、一刻も早く薬を飲ませること。


「忘れてませんよ。目先の餌に食い付くような人間じゃありませんよ、この僕は」

「信用ならないわねぇ……」


 思わず苦笑いの理世さん。


「ところでどうやった厨房を抜けます?」

「こうするのよ」


 唐突に雰囲気が変わった。

 理世さんの纏う性質(オーラ)が、以前より色っぽくて以前より魅惑的で……ぶっちゃけ、すっごくエロいものに。


「エロいだとかなんとか変な妄想はやめてほしいわね、あまりにエロエロ言ってるとゲシュタルト崩壊起こすわよ、エロの意味が分からなくなるわよ。…………まあ、ともかく、これがサイコキネシス以外の私の超能力、『性質変換(オーラチェンジ)』よ」


 正直無駄な能力だと思った。

 彼女は厨房の方へと向かい、なんの躊躇もなく厨房へ踏み込む。

 それを見た一人の小太りコックおじさんが、


「こら、ここは入っちゃいけないぞ。お仕置きが必要だな」


 と言う。それに続き、大太りコックおじさんと中太りコックおじさんが理世さんの周りに集まり、彼女をずりずりと引っ張って厨房の更なる奥へと引きずり込んだ。

 ドアの奥へと引っ張って連れていかれる際の、理世さんの僕に向けたウィンクは忘れられない。


「て言うか、お仕置きって何する気だ」


 ……厨房には誰もいない…………今なら奥に進める。

 けれど、そういうことは関係なしに。


「あのおっさんども理世さんに何するつもりだあああああああああ!!!」


 僕は全力疾走。

 理世さんが超心配だ!


 こうして僕は食堂の奥深くに進むことに成功したのであった。



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