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僕らの非日常ハーレム生徒会!!  作者: 猿野リョウ
非日常編『もももも』
25/73

25:李

ま、またせたでありんす……

にしても脳内でつくったプロットから斜め45度ずれてしまう。何事も想定通りには行きませぬ。

 一分一秒でも早く、そのために僕達は走り出した。

 学校を離れ、綺麗な夕焼け空の見える誰もいない住宅街を駆け抜ける。


「誰も……いない……?」


 急に足を止めた理世さんがふと呟いた。

 僕と藍河先輩もそれにつられて立ち止まる。


「どうしたんですか?」

「何かおかしいような気が……するわね」

「こんなところで立ち往生してる場合じゃないんですよ? 一体何が変なんですか?」

「通行人がいないことがおかしいのよ。いつもなら少なくても二、三人は見かけるものだし、時刻も五時前だから下校中の学生がもっといてもなんら不思議じゃない」

「そんなことだってたまにはあるでしょう、ほら早く行きましょう! 目的地は理世さんにしか分からないから案内してもらわないと」


 僕が理世さんを急かすと、ちょっと待てと言わんばかりに藍河先輩が同意を唱えた。


「いや、だが確かにおかしいと言えばおかしい気がする。どうにも嫌な予感がするな」

「先輩まで……」


 だがあの藍河先輩がおかしいと思い、嫌な予感がすると言うほどなのでもしかすると本当に何かが起きていたりするのかもしれない。

 直後、輝く銀色が一直線の軌跡を見せて藍河先輩の頭部へと突き刺さった。


「藍河先輩!」

「藍ちゃん!」


 僕と理世さんが同時に声を上げる。


「ふむ、あの程度止まって見える」


 藍河先輩の(ひたい)に突き刺さった?

 否! そんなことはなかった。

 否! そんなことはそもそもあり得ない。

 あの藍河先輩は不意討ち程度にやられるような人間じゃないのだ。

 そんなの一番……僕が知ってたことだろう。


「貴様は何者だ」


 先輩は飛んできた物の正体らしい銀のフォークをピンと弾いた。

 先輩の見据える先に居た人物とは、人物じゃなくて。


「フフフ、やはり君は我々の仲間にしなければならない素材だ」


 李星人だ。

 しかも、豪華で豪奢で豪勢なとにかく派手で小国の王様みたいな格好をしていて、他の李星人と違って頭部である桃に目と鼻と口がついていた。

 デフォルメされたイケメンみたいな顔のパーツである、気持ち悪い。


「あの李星人喋れるんだ……」

「桜庭君、油断するなよ」

「その通りよ、喋ることのできる李星人は元の素材が良かったということにほかならないわ。スペックがいい李星人ならそこらの人間よりよっぽど──」


 藍河先輩が目にもとまらぬ速さで李星人の(ふところ)に飛び込み、果肉の詰まったぷりぷりの白身を拳で打ち抜いたのは、文字通り一瞬のことだった。


「グハッ!」


 イケメン李星人の口から血──ではなくて果汁が吐き出され、そのまま地面にバタリと倒れ込んだ。


「……心配いらなかったわね」

「当然です」


 自分のことのように誇らしくなってくる。

 藍河先輩は倒れた李星人相手にマウントポジションをとった。


「おい起きろ。目を覚ませ、変態桃野郎」


 ベシベシと李星人に強烈な往復ビンタをする先輩。


「う、いたいいたいいたい。なんだ君は、やめろ!」

「うるさい」

「ぎゃあ」


 神速のパンチがまたもや李星人の顔面に炸裂した。


「喋れるなら話が早いな」

「な、何が目的だ?」

「お前らのトップはどこだ?」

「…………」

「…………」

「答えろ」

「さ、さぁー、わかりませんなー……」


 どうしようもなく、フォローのしようもなく、疑いようもなく、超絶棒読みだった。


「桜庭君……あれを」

「あ、はい」


 何を持ってきてほしいのかは藍河先輩の目線で分かった。僕はすぐに落ちているフォークを拾って先輩の元へ届けた。


「ありがとう」

「な、な、な、な、何をするつもりだぁ!?」


 あまりの恐怖に李星人の声が上擦っている。

 間もなくしてザクッと果物にフォークが刺さった音と悲鳴が上がった。


「ぎやあああああああ! 食べる気か!? 食べる気なのか!? このボクを!」

「これ以上ぶっ刺されたくないならさっさと答えろ」

「へん、答えるわけがない──いだあああああああいいいい!!?」

「グサグサやられ続けたいのか、このドMめ」

「わ、分かった! 分かったからもうやめてくれぇ……」


 案外すぐに折れた。

 だがその直後だった、どこからともなく大量の李星人が現れたのだった。僕達はあっという間に囲まれてしまう。


「ももも、も!」

「ももも、もも!」

「もももももももももも……」

「ももももっ!」


「くっ、こいつらいつの間に……」

「フハハハ、残念だったな!」

「黙れ!」

「いだっ!」


 イケメン李星人の頭にまた穴があいた。


「ちっ、仕方がない! 二人とも先に行け!」

「えっ、何を言ってるんですか藍河先輩! 陽菜ちゃんまで置いてきたっていうのに先輩まで置いてけませんよ!」

「これが最善だ! どちらにせよ、誰かがこの李星人を止めなきゃならない。そうしなければ次の被害が出たっておかしくない」


 陽菜ちゃん以外にも感染する人々が……。


「二人は夕崎陽菜の感染を食い止める方法を探せ! 安心しろ、こいつらの狙いは私だけだ。足止めにはうってつけだし、それに──」


 藍河先輩から禍々しい殺気が()れだしていた。


「──この私がこんな奴等に遅れをとるはずがないだろう」


 おっしゃるとおりだ。

 藍河先輩がこんな気持ち悪い奴等に負けるはずがない。先輩なら必ず李星人の殲滅に成功するだろうと確信が持てる。


「分かったなら早く行くんだ。私も李星人をぶっ倒したらすぐに追い付くから」

「……任せました!」

「……それじゃあ私からも頼むわ」


 これは見捨てるわけじゃない。

 戦略的な役割分担だ。

 むしろ、僕達が居たら藍河先輩の邪魔になるかもしれないし、そういう意味では見捨てるとは全く逆になるだろう。

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