22:桃が好きなの
遅くなってすまないと思っている
ちっとばかしクレイジーでおかしな大人が念願かなって桃を頭に被ったということだろうか。
そして不審者として学校へやって来た。
「ももも、もも……ももも? もも……もも、もももも」
うん、絶対頭がおかしい人だ。
て言うか、三階にあるこの生徒会室の窓ガラスぶちやぶって登場だなんてどうやったんだ。
「藍河先輩……窓ガラスを新しく新調しなければいけませんね」
「全くだ……また生徒指導部に申請しておかなければならんとは。こんな短期間に二度もガラス割ってたらさすがに怒られそうだな、私の優等生としての信頼が失われそうだ」
この前の封印の書騒動で理世さんがガラスを椅子で割ったのが一度目のことだ。
「ふーん、優等生だなんて信じられない。生徒も教師もみーんな騙されてるみたいだよね」
と、陽菜ちゃん。
「お前こそちやほやされてるらしいじゃないか。聞いた話じゃおしとやかで皆に平等に優しく、後光が差し込む聖母マリアのようだと専らの噂だが……生徒会での行動や言動を鑑みるにみんな詐偽にあってる様子だな」
と、藍河先輩の反撃。
「は?」
「あ?」
定番の睨み合いで熱い火花が飛び散る、今はそんな場合じゃないんだけどなー。
「こらこら、今はそんな場合じゃないわよ。とりあえずみんなこっちに」
両陣営の頭をポコリと叩く理世さん。
叩かれた所を擦りながら藍河先輩は言う。
「分かっている、今はこの変な桃野郎をどうにかすべきなのはな。夕崎陽菜、お前ももう少し大人になれ」
「それアンタが言うんだ」
「興奮したら敬語が砕けるお前よりはよっぽど大人だ」
確かにそうだ。
そしてこれまた仲がいいのか悪いのか分からない、いつものいがみ合いが始まろうとしていた。
だがそれを止めたのは、登場してからあまり触れられていない桃のスーツ男(体格からみるに男だと思われる、声はかなり高い)の奇声だった。
「もももももももももももももも!!!!」
「な、なんだ」
めっちゃ足踏みしながらこっちに走ってきてる!
「なんだあれは、気持ち悪っ!」
「アンタ生徒会長なんだから私達を守ってよ! ほら行って」
「押すな! 来てるから、来てるから! おかしって習ったろ!」
「『お』して、『か』くじつに、『し』っかりと。だったかな?」
「『しっかりと確実に押して』じゃないわ! 犠牲前提の教育なんて最低だ!」
「二人とも、そんなこと言ってる場合じゃない!」
「桜庭君の言う通りだ! ってめっちゃ近くに来とるがな!」
桃の脅威が僕らに接触する直前。
バキョ!
と、骨が折れたっぽい音がした。
理世さんが生徒会室の椅子で桃男の頭をぶん殴ったのだ。
「みんな大丈夫?」
「まあ、なんとかお陰さまで」
「生徒会の新メンバーとしてはいい働きだ。こいつとは違ってな」
「そもそも生徒会の仕事なんて全然ないじゃない! 駄弁ってばっかりで働く以前の問題よ!」
ピクピク痙攣して床に倒れた桃男の頭(白桃)から果汁が溢れだしていた。
「……いいわね、聞きなさい」
椅子を投げ捨てた理世さんがゆっくりと口を開く。
「今回の敵、李星人について話すわ」




