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2:僕にはこんな幼なじみが居たのか!

 入学式が終わり、始業式も終わり、放課後のこと。僕と藍河先輩は始業式の片付けを終えて、生徒会室にてゆっくりしていた。一応ゆっくりしていたんじゃないかな?



「桜庭君、ちゃんと攻撃を避けて」

「そのぉ……努力はしてますけれど、いきなり難易度ベリーハードは無理ですって……、僕はゲームをするときいつもイージーで始めてるんですよ?」

「でもこのモンスターは弱い方だぞ?」

「一撃ダメージ受ければゲームオーバーなのに、どこが弱いんですか……難易度高過ぎます」

「うーん、ゲーム修業でもするか?」

「嫌です、先輩一人でやった方が絶対いいですよ。わざわざ協力プレイしなくても先輩強いじゃないですか」

「私は君とゲームがしたいんだよ!」

「僕は一人でちまちまやってた方が楽しいです……」


 この時点で始業式終了から二時間が経っていた。


「ていうか、もう帰りません? 用もないのに生徒会室に長居するのはちょっと……」

「私は君ともっと一緒に居たいな」

「いや、そう言われましても」

「何かやることはないかな? トランプでもするか?」

「この前も二人で大富豪やって常に先輩が大富豪でしたよね…………あっ」


 僕は、この二人きりの状況を脱するアイディアを思い付き、手をポンと叩く。

 ちなみに、僕的にはこれ以上ゲームをするのが辛くて──藍河先輩と二人でやるというのが辛いのではなく、単純に最高難易度でぼろ負けし続けるのが辛いのである。


「新しい役員を探しましょう!」

「いや、私は二人きりの生徒会でいいと思ってるんだが……実際そこまで仕事はないし……二人だけで十分事足りてるし」

「僕がほしいんです。できれば先輩とは正反対な感じがいいですね」

「な、なに!」

「そうですねー……例えば──先輩はロングヘアだから、ショートヘアの後輩とかいいんじゃないんですか?」

「別に女子じゃなくてもいいだろ」

「僕は女子がいいです。そして、先輩はその女子と絡んでてくださいよ」

「嫌だー!」


 と、藍河先輩が不満そうな顔をして僕に飛び付いてきて、そのまま抱き締められた。

 プクー、と頬を膨らませる藍河先輩にときめかなかったと言えば嘘になるが、それでも僕の心は折れやしない。他の女子を絶対に生徒会に入れるんだ。


「先輩、離してください。胸が当たってます」

「当ててるんだよ、桜庭君のバーカ」

「貧相な胸ですね」

「でぎょゃ?!」


 なんとも不思議な声だな、ショックを隠しきれないような悲痛な声色だ。後説明しておくけど、これは手を離させる冗談であって、藍河先輩はかなり大きくて柔らかい胸をしているのである。


「冗談はよしてくれよ桜庭君……私が自殺してもいいのか……」

「嫌いと言われても大丈夫なくせに、胸が小さいと言われて自殺なんてしないでください」


 まあ、ともかく、


「探しに行きましょう! ショートボブで可愛い後輩の女子を!」

「本当は私と絡ませるのではなく、君がそんな子と一緒に居たいだけじゃないのか?!」

「そんなことどっちでもいいじゃないですか」

「よくない」

「何がよくないって言うんですか」

「君とその後輩が好き好き同士になって付き合い始めたらどうするんだって言ってるんだ!」

「ないない、ないですって」

「だけどな──」


 藍河先輩が言いかけたとき。

 ガラガラバンッ! と生徒会室の引き戸が勢いよく開けられた音がした。

 そして、


「桜庭先輩は居ますか!」

「ぐはっ!」


 可愛らしい声で『居ますか!』と聞いておいて、その直後にドアの近くに居た僕を、何者かが容赦なくタックルして押し倒したのであった。


「な、なんだいきなり」


 仰向けに押し倒された僕は、その上に乗りかかっている人物が誰なのかを確認する。


「!」


 ナント! 僕の体に馬乗りしているのは、赤茶の肩までしか伸びてない髪の、とても可愛らしい美少女ではないか! しかも桜庭先輩と言っていたところからすると、後輩というのは確定だ!

 なんたる偶然! もはや運命すら感じるぞ!


「ちーくん、久しぶり! 会えてよかった……一緒の高校に入学できてよかった…………大好きだよ……」


 と、後輩の女の子からいきなり告白された。しかもあだ名? だし、僕はどう反応すべきかわからない。

 ……うわっ、抱き付かれた。この状況で?


「ち、ちょっと待って。お願い、待って、考えさせて、なんなのこの状況」


 藍河先輩がいきなりの出来事に混乱する。僕も混乱する。


「君は……だ、誰なの?」


 僕は思いきって訊いてみる。だって、知らない奴にいきなり告白されても困るってもんだ。それがいくら可愛い後輩だとしても。


「え……ちーくん……私のこと覚えてないの……?」


 そんなぁ……──と落ち込む女の子の瞳に涙が溜まっていくのがわかった。


「な、泣かないで! 冗談だよ、冗談だから! ほら君ってあれだろ? あの────」


 僕は高速で頭を回転させる。

 なんだ……僕を今までの人生の中で『ちーくん』と呼ぶ人間は居たか? 居たとしてどんな人だった? 思い出せ、思い出すんだ。

 『ちーくん』なんて子供が考えそうなニックネームだ。恐らく幼い頃の友達が付けたニックネームを、昔から今の今まで使っているって感じだろう。


 もしかすると、この女の子は僕の幼馴染みか、年下の!

 待て、だとすると、記憶にあるかもしれない……確か……そう。思い出した!


 年下の女の子の割には僕とよく遊んでいた女子だ。僕が中学一年生で、彼女が小学六年生の頃に、親の都合で引っ越しをすることになって、遠くへ行ったはずの────、


「──夕崎陽菜(ゆうさきひな)、陽菜ちゃんだろ?」


 夕崎陽菜──北海道に行ったとか聞いたが……。


「ほら、あれだ。僕は記憶力がないし、陽菜ちゃんは確か北海道に引っ越したじゃん。いきなりすぎてわからなかったんだ」

「ちーくん、引っ越したのは北海道じゃなくて沖縄だよ」

「わお……」


 真反対じゃねーか!

 見せる顔がない!


「ジョークだよ、アメリカンジョーク」


 言い訳にアメリカンジョークだと言ってみるが、これが効果をなしたのかは知らないし、アメリカンジョークがなんなのかも知らない。


「ジョークでもなんでもいい! とにかくちーくんが私のこと覚えててくれただけでも……嬉しいよ?」


 顔を傾げてニコッと明るい笑顔をくれる陽菜ちゃん。こんな子を泣かすわけにはいかないよな。


「陽菜ちゃん、ごめんな。僕が馬鹿なせいで──君に悲しい思いをさせちゃって……なんて謝ったらいいか」

「ちーくんが謝らなくてもいいんだよ! だって何年も会ってなかったんだし、忘れてても仕方ないよ! だから、今からまた昔みたいに思い出を作っていこ?」


 昔の僕はこの子に何をしたのだろうか。何をしたらここまで好かれるのだろうか。

 と、ここで生徒会会長が牙を剥いた。


「待てぇぇぇい!」


 僕と陽菜ちゃんは、頭にハテナが浮かぶ。


「何で二人でラブコメみたいなこと始めようとしてんだよ! 生徒会室でそんなことしようとするなよ! 仮にしていいとしたら生徒会役員の私と桜庭君だけだ! それに桜庭君を一番好きで愛しているのは私だし、桜庭君に馬乗りして抱きしめていいのは私だけだああああああああああああ!」


 生徒会会長ともあろう藍河先輩が、叫んだ。初めてここまで荒れるのを見たんだけど……。


「よく分かんないですけど、私だってちーくんを愛する気持ちは負けません!」


 陽菜ちゃんが立ち上がって、藍河先輩に対抗する。


「な、なんだと! 私の方が桜庭君のことを大好きなんだぞ! お前の百万倍は大好きなんだぞ! お前の出る幕はない!」

「確か……藍河先輩でしたよね、生徒会長の。──生徒を愛して学校を愛するはずの会長が、そんな言い方ひどいです!」

「ふはは、知るか、そんなもの! 私は桜庭君が好きになってくれるなら、この学校を爆破したっていいぞ!」

「私だってその程度の覚悟持ってます!」

「むしろ、この程度の覚悟は、桜庭君を愛する者ならデフォルトで持っていないといけないものなんだよ、馬鹿め!」


 マジで? 学校を爆破する覚悟を持ってないといけないのかよ? 僕を好きになる奴って相当な変人だよね、そんな覚悟普通持たないよ!


「ムカッ! にしても藍河先輩ってこうして接してみると分かりますけど、実は性格悪いですよね。そんなんじゃ桜庭君に嫌われるんじゃないんですか?」

「な、なななななに! そんなはずないだろう! それにこれは、桜庭君を悪の雌豚から守るために、仕方なく口を悪くしているんだよ!」

「わ、私が雌豚だって言うんですか!」

「そうだ、お前は雌豚だ! あはははははは!」

「だったら藍河先輩は雌豚奴隷だ!」

「なにぃ! この野郎!」

「やるって言うなら胸貸してやりますけど?!」

「ハッ、ない胸でどうしろって?」

「なっ! こ、これでもDカップあるんですよ!? て言うか、先輩のおっぱいがでかすぎるだけでしょ、この無駄乳!」

「無駄ぁ……!? お前は足りない乳だろうが! 貧乳め!」


 D…………。Dって貧乳ではないだろう。藍河先輩の胸がでかいだけだよな。


 というか、そんなことより、この人たち初対面なのに、なんでこんなに喧嘩できるわけ?

 僕には不思議すぎてたまらないんだが。

 陽菜ちゃんも年上に対してガンガン物言うよな。


 それから数十分に渡り言い合いを続ける二人だった。


 後、Dを貧乳だなんて、本物の貧乳に失礼です。



「──あのさ、仲良くしようよ? ね? ほら、藍河先輩もせっかくの後輩だし、陽菜ちゃんも相手は生徒会長なんだし────」


「桜庭君は黙ってろ!」「ちーくんは黙ってて!」


 この喧嘩を止めるために放つなだめの言葉を、二人の息の合ったコンビネーションによって封殺されるのであった。

 僕は怒られるようなことはしてないのに……。


「よく聞け、この生徒会室は私と桜庭君の愛の巣だ。ぽっと出新入生が入ってもいい場所ではない!」

「ぽっと出って! 始まったばかりなんだから、藍河先輩だってぽっと出みたいなもんじゃないですか!」

「とにかく! 生徒会でもない奴がぬけぬけと入っていい場所ではないんだ。出ていくがいい!」

「くっ……」

「どうだ、反論はないだろう? 生徒会じゃないお前は出て行かねばならないのだ、ふははははは」


 藍河先輩……ヤバイよ……。これじゃあ後輩をいじめる先輩じゃん。悪の組織のリーダーみたいな笑い方してるし……。


「それなら……」


 陽菜ちゃんがキリッとした、真面目な顔つきになった。


「私が生徒会役員なら文句はないんですね?」


「「え?」」


 僕と藍河先輩は同時に、気の抜けた声を上げる。


「決めました、私生徒会役員になります! ちーくんをこの乳だけしか取り柄のない生徒会長から守るために!」


 乳だけしか取り柄のないって……確かに、藍河先輩の胸はこの僕でさえ瞠目すべきほどの、張りと(つや)と形だが。それは言いすぎなような……。


「おい、勝手に決めるな! 私は反対だ! いいか、校則に(のっと)って言わせてもらうと、生徒会の半数の許可がないと、生徒会には所属するのは無理なんだ!」


「ということは、ちーくんの許可が下りればいいんでしょ! ちーくん! 私に生徒会に所属するための許可をください!」

「え……どうしよう」


 僕が迷っていると、『許可なんてするな!』なんて野次が飛んでくるが気にせずに思案する。

 うーん、確かに陽菜ちゃんが入ってくれると嬉しい……黙ってたけど女の子は大好きだしな……。でも喧嘩が多発するのはちょっと……。


「やっぱり、無理かな……」

「ち、ちーくん!?」


 すまない……喧嘩を見るのはあまり好きじゃないんだよな。不快な気分になるし……。まあ、可愛い女の子が喧嘩しているとなると、それは可愛げのある、華のある喧嘩に見えるのかもしれないけど。


「残念だったな、夕崎陽菜! 私の勝ちだ!」


 勝ち誇るように椅子の上に上がり、陽菜ちゃんを見下ろす藍河先輩。大人気ない。

 だからといって、許可を出すわけでもないが。


「ごめん、陽菜ちゃん、先輩が大人気なくて。それでも、僕からは許可をすることはできな──」

「──ちーくんのためならなんでもするよ!」


 ん、なんでもする?

 今、なんでもするって言った?


「桜庭君! 早まるな!」


 藍河先輩の勝ち誇っていた顔が一瞬にして崩れ、必死の形相へと変貌する。

 だけど、僕は陽菜ちゃんの言葉の続きを聞きたいんだ! いくら冷静沈着クールイケメンを装っていても、僕はれっきとした男だ! なんでもする、なんてロマンのある言動を見逃すわけがないじゃないか!



「なんでもするって……つまり」

「ち、ちーくん、女の子に言わせないでよ……」

「ごめん、陽菜ちゃん。それでも君の口から聞きたい」

「し、仕方ないなぁ……一回だけだよ……?」


 陽菜ちゃんが何度も何度も深呼吸をしているが、恐らく緊張をほぐすためだろう。

 少しの時が経って、ついにそのときがきた。




「──そうだね……えーと……それじゃあ……わ、私の胸を……ちーくんに……さ、触らせてあげる!」

「生徒会へようこそ、陽菜ちゃん。歓迎するよ」


「うあああああああああああああああああああああ!!」


 藍河先輩の悲鳴が聞こえた。

 僕はどんな風に触ってあげようか。どんな風に揉んであげようか。よぉく考えるのであった。

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