16:一件落着
★★★
四月十四日。午後六時過ぎ。
生徒会室にて。
そこらの雑貨屋で購入したガムテープを使い、ぐるぐる巻きにした陽菜ちゃんと紫お姉さんを、藍河先輩が正座させて、なんでこんな非日常に巻き込まれてしまったのかを問い詰めているところだった。
「──つまりはだ。自称宇宙機関のババアは、ダンボールハウスを壊すなんて冗談だと思ってちょっと席を外して、いざ帰ってみたら本当に壊されていた挙げ句保管していた封印の書を盗られていたので、敵のエージェントかと思った。自称秘密機関のクソガキは、生徒会長の彼氏が悪の組織が狙っている書物を持っていたから、その彼氏が悪の組織の手先だと早とちりした──で、いいんだな?」
「悪いわよぉ……。私は自称じゃなくて宇宙機関だし、ババアでもないわよ、人間で言ったら二十代くらいなのよぉ?」
「そ、そうよ! 私だって本当の秘密機関だし、クソガキでもないっての! それにちーくんがなんで先輩の彼氏になってるのよ! 私の彼氏だよ!」
いや、陽菜ちゃんの彼氏でもないわ!
「あぁん? 仮に彼氏だとして、その彼氏を殺そうとしてたやつにそんな資格あるのか、おい?」
「いたいいたいいたい、蹴らないで先輩。ほんとごめんなさい、許してください、おっしゃるとおりでございます。ちーくんにふさわしいのは当然藍河様です…………」
「ふん、分かればいいんだよ」
と、藍河先輩は陽菜ちゃんをゲシゲシと蹴っていた足を引いた。
「なわけねーだろ、アホ会長────って、痛い痛い! ほんっとに痛いからやめてぇええ! すごい小さい声で言ったのになんで聞こえいたいたいたいたいたいたたたたたいたああああああい! ちーくん助けてええ!」
「手出し無用だ桜庭君! 今のはこいつが悪い」
「そうですね。……ごめんね陽菜ちゃん、今のはさすがに庇いきれないや」
「そ、そんなぁああいたぁぁぁぁ!」
藍河先輩と陽菜ちゃんがたわむれていることだし、僕は紫お姉さんこと須川理世と話すとしよう。
「須川……理世さん」
「リリスでいいわよ」
「……それじゃリリスさん」
「はい、なんでしょうか?」
「これを」
「……あらぁ、封印の書……譲ってくれるの?」
「はい、そうです」
こんなもの僕が持ってても仕方ないし、また変な人たちに追われたりしても困るしね。
「僕には必要のない物ですから」
「ふふ、ありがとう。これで銀河の平和が守られるわぁ」
「銀河ですか……、もしこれを放っておいたらどうなるんですか?」
宇宙全体の危機って言うぐらいだし、すんごい規模の爆発でも起こるのかな?
「そうねぇ……簡単に言うと、宇宙を簡単に破壊してしまうような力を持った究極生命体が造られてしまう。って感じね」
「究極……生命体?」
「そう、私も詳しくは知らないけど、とにかくやばいのよ。それを悪の組織の手に渡したりなんかしたら……想像しただけで恐ろしくなるわ。きっと悪巧みに使うに違いない」
「……まあ、僕にはよく分かりませんが、リリスさんに渡しておけば特にそれといった心配もしなくてすみますよね」
「そういうことね」
僕はリリスさんの巻いたガムテープをバリバリと剥がし、解放してあげた後に、封印の書を手渡した。
藍河先輩が陽菜ちゃんの相手をやめて僕らの方を向く。
「二度と桜庭君のクラスに来るなよ」
「それは無理難題よねぇ。入学してしまった以上はしばらくはこの学校に通わなくちゃ」
「なっ!」
「悪いわね、でも安心してぇ? 別にあなたの夫を寝取ろうなんて微塵も考えてないから」
魅惑的な表情を浮かべるリリスさん。
妖艶な肢体も相まって寝取られるまでもなく、あなたの虜になりそうです。
「って、僕は藍河先輩の夫じゃないですからね!? そこを訂正させてください!」
「訂正しなくてもいいぞ須川理世。桜庭君は恥ずかしがってるだけだから」
「んなわけない!」
「ふふふ、それじゃあ私はもう行くわ。また明日、学校で会いましょう」
須川理世ことリリスさんは、封印の書を持って生徒会室を後にした。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 封印の書を私によこしなさいよぉー! 機関での評価下がっちゃうから、お願いーー!」
陽菜ちゃんの必死の叫びはリリスさんに届くことはなく、彼女は戻ってこなかった。
「そ、そんな……私これじゃランク下がっちゃう……」
どうやら陽菜ちゃんの所属している組織での評価が下がってしまうようだ。
なんとも不憫な子だ。
まあ、なにもともあれ、今回の騒動は一件落着だ。
明日からは日常に戻れることを期待しよう。
書いてて思うけど、陽菜ちゃんの性格というか立ち位置というか、色々不安定な気がする。




