15:三つ巴の戦闘(決着)
僕は懐から封印の書を取り出す。
「任せましたよ、藍河先輩。僕の命……あなたに託します」
「ああ、任されたぞ」
そして封印の書を胸に抱え、木箱の陰から飛び出した。
「やめてくれ、二人とも!」
「あなた……!?」
「ちーくん!?」
「これ以上な不毛な争いはよすんだ!」
陽菜ちゃんと紫お姉さん、双方の猛攻がピタリとやんだ。
……今気付いたけれど……どれくらい時間稼ぎすればいいのか聞いてない。数秒ならともかく……どの程度だ?
勢いよく飛び出したのはいいけれど、なんにも考えてないよ僕!
もうちょっと作戦練ってから行けばよかった!
かっこつけてあの場のノリで突っ込むんじゃなかった!
「あなた……なんのつもり? 分かってるでしょう、今のこの状況下で飛び込んでくるのは自殺行為なのよぉ? 私達が攻撃をやめたからよかったものの巻き込まれてもおかしくなかったわ。それに攻撃をやめたところで、私があなたを狙っていることには変わりはない。デメリットしかない真似をして……一体何を企んでいるのかしらねぇ?」
「……ちーくん……私……」
陽菜ちゃんが言いかけたところで、僕は隠すように抱え込んだ封印の書を頭上に掲げた。
「──これは譲る!」
と、僕は叫んだ。
陽菜ちゃんはポカーンとした顔を、紫お姉さんは怪訝な表情を浮かべる。
「だけど……その前に聞きたいことがある。……この封印の書って一体なんなんだ? なんで二人はこれを追い求めてる? 僕はそれを知りたい」
我ながらナイスアイデアだ!
これなら封印の書がなんなのかという疑問の答えを知りつつ、恐らく長ったらしくなるであろう封印の書についての説明のお陰で、時間稼ぎも完璧だ!
「組織のためよ……封印の書は放っておくと地球どころか宇宙全体を破壊しかねない。だからそれを手に入れて誰の手にも届かない、日の目を見ないようにしなきゃいけないのよぉ」
……。
……。
……。
……それだけ? いや、確かに地球とか宇宙が破壊とかびっくりだし、それをとめるために封印の書を手に入れようとしているというのは理解できるし……。
けれどもうちょっと封印の書にまつわる昔話とか、因縁とかの過去編があってもいいんじゃ。
「お、終わり?」
「終わりよ、それ以外に言うことはなしよ」
「もっとないんですかねぇ……、例えば封印の書には究極の魔法の使い方が記されているとか……」
「ないわ」
「さいですか……」
どうしよう……予定では……予測では……、予想では文字数換算で一万文字くらいの、聞いててだれるようなグダグダの説明になると思ってたのに……。
このままじゃ、宇宙が滅亡したり、地球が滅亡したりする前に僕の命が飛んじゃう。
…… そうだ、今は紫お姉さんが説明しただけだし、陽菜ちゃんの説明が終わってないじゃないか。
僕は陽菜ちゃんの方を向いてみる。
陽菜ちゃんは罪悪感のこもった顔を滲ませて、こちらをチラチラと見てくるだけだった。とても何かを言い出しそうな雰囲気ではない。
「…………」
「早く渡しなさい」
「……私からもお願い。ちーくんから罪を認めるのなら殺さなくてもよくなるかもしれないし……私はちーくんを殺したくないの……」
いや、知らんわ!
くっそぉ……なんでこんな生き死に関わるようなデスイベントに巻き込まれることになったんだよ僕は……。
「ごめんなさい……藍河先輩……」
「?」
「?」
二人ともがハテナを頭の上に浮かべる。
「早い者勝ちでどうぞおおおおおおおおおおおおお!!!」
僕は絶叫しながら封印の書を空へ向けて──廃工場の穴の空いた天井へ向けて放り投げた。
「くっ!」
「とらせはしないわよぉ!」
国語辞典ほどのサイズの書物が宙を舞う。
そして陽菜ちゃんと紫お姉さんが同時に跳躍した。
二人とも人間にはありえないようなジャンプ力で、少なくとも十メートルは跳んでいた。
双方の手が封印の書へ伸ばし、両方がそれを掴んだ瞬間──。
ガラッ、と屋根からかすかに音が響き、
「お、ま、た、せ」
屋根の穴から超人藍河先輩が飛び降りてきたのだった。
今このとき、三人の女性が空中で交差しようとしていて、藍河先輩は三人がクロスする瞬間。
スパン! と、陽菜ちゃんと紫お姉さんの首筋に手刀を放ち、二人の意識を深い眠りの渦へと突き落とした。
「うわわわわわ、やばいやばい」
ドスン、と気絶した二人が僕に向かってまっ逆さまに落ちてきて激突。
藍河先輩は階段の残り二段を飛び降りたときのように楽々着地した。
「いっててて……」
意識のない二人は、僕をクッションにしたお陰で無事そうだ。
「これで始末完了だな。さて桜庭君、こいつらを縛って生徒会室に連れてくぞ」
藍河先輩が仕事人に見えて怖い……。
とにかく、これで戦いが終わった?
ふぅ、と二人の下敷きになりながら僕は息をつくのだった




