13:三つ巴の戦闘(開始寸前)
廃工場の中は思ったよりスカスカとしていて広々としていた。工具類やここで使用されていた原料(鉄っぽい何かだけれどなんなのだろうか?)、ガラスの破片などが散らばっているだけで、恐らく工場の大部分を占めるように設置されていた機械類のほとんどが撤去されたんだろう。
僕達は近くにあった大きな木箱の陰に身を潜める。
大きいとは言ったが二人で隠れるには若干小さくて、木箱のスペースからはみ出ないようにギュウギュウに詰めなければならない。
のだけれど、想像する以上にギュウギュウギュウギュウ詰める必要性はない。
「藍河先輩……詰めすぎですよ」
「これくらい密着してる方が安心だろ」
「て、手に胸が当たってますって!」
「揉ませてんのよ」
「衝撃の真実!?」
「て言うか、私の胸に手をやってるのは君の意思だろ!」
「それは誤解です! 藍河先輩の胸から発されるバキューム力に手が吸われるんですよ! 驚きの吸引力ってやつですね!」
「んなもんあるか!」
カチャッとガラスの破片を踏んだ音がした。
恐らく、紫お姉さんがこの廃工場へ足を踏み入れたということだ。この廃工場には中々ヘビィな物体が多く、サイコキネシスで操られると厄介で正面突破は難しい。それなら気付かれずに出よう、となっても一つしかない入口兼出口には紫お姉さんが居るだろうから、正直八方塞がりである。塞がってるのは一方だけだが。
「先輩、しーっ! 静かに!」
精一杯小さく留めた声を出す。
「奴が来たか」
「様子を見てみます」
僕は木箱からひょっこりと顔だけ出す。
紫お姉さんが入口の近くでキョロキョロと周りを見回していた。
恐らく、脱出口があの入ってきた入口しかないことはお見通しといったところなんだろうな。
「とにかく、様子見るのか、私のおっぱいを揉むのかどちらかだけにしてくれ」
僕は藍河先輩の胸から手を離し、紫お姉さんの動向を監視する。
「待って! なんで揉んでくれないんだ! まるで私に女としての魅力がないみたいじゃないか!」
藍河先輩はすごく昂った様子で僕の肩をガッと掴む。
「ちょっと先輩、今はそんな場合じゃ──」
そんな藍河先輩をなだめようとしたとき。
バキャン!! と、廃工場の屋根が突き破られたような音が耳に入る。
「先輩!」
「分かってる!」
僕ら二人はひょっこりと木箱から顔を出した。
そこから見えた光景とは……、
「あー、またあなたぁ?」
「むっ、ド変態露出野郎!」
紫お姉さんと対話していたのは、突き破って落っこちた屋根の一部を足蹴にしながらパタパタと服の汚れをはらっている────陽菜ちゃんだった。




