12:廃工場
後ろから迫りくる猛攻を、藍河先輩の指示を受け紙一重で躱しひたすら走り続ける。
やがて辺りで器物破壊音が聞こえなくなった。
「はぁはぁ……っ、逃げ切れましたかね?」
息を整えながら藍河先輩に尋ねてみる。
「さぁな」
答えはそんな一言だけであった。
それにしても息一つ切らしていないのには感服である。
僕のような足手まといが居なければ、藍河先輩みたいな完璧超人はとっくの昔に宇宙人と魔法少女を倒しているだろう。
いや、倒しちゃいけないんだけれどね。
「仮に逃げ切れたのだとしたら、せっかく廃工場まで来た意味がないな……。ここからゲーム的ドラマティックな大逆転でも見せてやろうかと思ったのに」
ゲーム大好きな藍河先輩はたまにゲーム脳になることがあるが、こんな命が懸かってるときにそんなこと考えなくても……。
「と言っても、振り切ったって確証があるわけじゃないんです。しばらくここに身を隠しておきましょ」
「うむ、そうしよう」
眼前にそびえ立つ……とまではいかないのだけれど、小規模な廃工場の鉄製の扉を力を込めてこじ開ける。
ギギギギゴギャギャグギョギョギョ
不気味な軋みと共に錆びた扉が…………二センチほど開いた。
「ふぅ……固っ……、先輩、これ全然開きませんよ────」
ドン! と、僕は突然藍河先輩に突き飛ばされ思わず尻餅を着いた。
何をされたかは分かったが、何を意味していたのかが分からなかった。
「いてて……急になんなんですか藍か────」
ドギャ! と、台詞を言い切る前に僕のさっきまで立っていた場所に、軽自動車が一台めちゃくちゃな回転をしながら飛んできて、二センチ開いた鉄扉もろとも廃工場内へと突っ込んでいった。
色んな物が壊れたり崩れたりするような音が聞こえたが、軽自動車の巻き込まれたのだろう。
事故? な訳がない。
普通の交通事故なら、アクション映画でも滅多に見れない激しいスピンをしながら車が突っ込んで来るはずがない!
だとしたら……。
陽菜ちゃん? もしくは……、
「──やっと見つけたわよぉ……」
紫お姉さんしか以外にあるまい。
「封印の書を返してもらおうかしらねぇ?」
くっ、こうなったら籠城戦だ!
「藍河先輩! 中に!」
僕と藍河先輩は、軽自動車によって切り開かれた廃工場への入口から内部へと足を踏み込んだ。




