1:生徒会長の愛は受け止められないよ!
「でも私は、そんな君のことが大好きだぞ!」
「そうですか、僕は先輩のことが大嫌いですよ」
放課後の学校──私立平凡高校の生徒会室にて、そんなやり取りが行われていたわけだ。
今まで数え切れないくらいに、藍河先輩からのアプローチを受けてきたが、僕としてはこう何度も好きだ好きだと言われると冗談としか思えなくなってくるんだよなぁ。
「桜庭君は頑固だな、そんなに私と恋人になるのが嫌なのか?」
「嫌いな人と好き好んで恋人になる人って居ますかね? どんな変態ですか、それは」
「確かに嫌いな奴と恋人になるというのは拷問に近いかもしれないな」
「僕は先輩のことが嫌いだと何度も言ってるのに、どうしてそんなに僕にこだわっているんですか?」
不躾ながら、本心からの疑問です、先輩。
「それはもちろん、私が君のことをとても愛しく想っているからだ」
僕の本心からの疑問に対する解答は、藍河先輩の本心からの答えであるということはわかった。
「正直、藍河先輩が何故僕のことを好きになってくれたのか、今でも理解できません。毎回毎回嫌いだと拒否されているのに、それでも好きで居てくれる理由がわかりませんよ……」
「…………」
「それに、藍河先輩ってとても可愛いじゃないですか。頭もいいし、人当たりいいし、今年から生徒会長だし、人望と人気があるし、才色兼備の天才生徒会長ですよね。そんな生徒会長相手には僕みたいな男は不釣り合いだし、やろうと思えば僕と同じような男を見つけて、その人と付き合うことだってできるんじゃないんですか? 悪いこと言いましたけど」
僕がうつむきながら伝えた言葉は、まるで自分を卑下するような言い方だったし、藍河先輩のことも馬鹿にしているような言い方だったろう。でも、そんな台詞に嫌な顔一つせずに、藍河先輩は凛として答える。
「けれど君は君一人しか居ないだろう」
僕は思わず顔を上げた。
「確かに私は、自分でもちょっと顔が良くてちょっとスタイルもいいと自覚しているし、可愛さを演出すれば、君と同じような容姿で君と同じような性格をしている男と好き合って付き合えるかもしれないな」
けれどな──と語気を強めながら、座っていた椅子から立ち上がる。
「私は君が好きなんだ。決して君のような容姿で君のような性格をした人間が好きだというわけでも、タイプだというわけでもない! だってそれは容姿と性格が同じというだけで君ではないだろう? ……私は今この世界に生きている、目の前で私と見つめあっている、たった一人だけの──桜庭君のことが好きなんだ」
ああ、そう強く言われると、そう正面から愛情表現をされると、どうすればいいのかわからなくなってしまう。
僕は席を立った。
「先輩、入学式が終わったばかりで悪いんですけど、明日は始業式ですし早く準備に取りかかりましょう。……後、見つめあってなんかいませんよ」
「……そうだな! 前年度の三年生が居なくなった今、私達二人しか生徒会は居ないわけだし、早めに準備しないと間に合わないからな。……後、私達は相思相愛の姉と弟のように見つめあっていたぞ」
「禁断の関係すぎる」
話をぶったぎった僕に対して機嫌が悪くなることもなく、不満を漏らすこともなく、仕事へ取りかかろうとする藍河先輩。
「返事はいつでも待ってる!」
と思ったら、そんなことを藍河先輩が言う。
「いつも『嫌い』だと返事をしているつもりですけどね」
「あれを返事だとは……私は認めんよ」
「……行きましょうか。先生が呼んでいましたよ」
「はっはっは、君は話をよく逸らすよな。そりゃもう酷すぎるくらいだ、私じゃなけりゃ自殺しててもおかしくない」
酷すぎる──と、悪く言われたようだったが、そんな雰囲気は微塵にも感じられなかった。あくまで他愛のない一つの会話として。
「でも私は、そんな君のことが大好きだぞ!」
「そうですか、僕は先輩のことが大嫌いですよ」