第2話「穢れた奇跡」Cパート
「やられた」
まんまと日下部の思惑通りに事が進む。彼女達が一致団結したところに黒幕の俺の登場。
ここに来ることすら予測して罠を張っていたか。見事に彼女の術中に嵌ってしまった。
「あなたは……」
「どうして」
リオとヒカリがそれぞれ驚いた表情を見せ、他の三人の少女達は誰だこいつという視線を向ける。
「ふふ。この子がシンジュラーこと一ノ瀬颯太君。君達の倒すべき敵よ、さあ殺して頂戴!」
少女たちの反応が面白いのか日下部は笑みを浮かべ、彼女達を促す。
「騙していたのね、私たちを……!」
リオは驚いた表情を引込め俺を睨む。どうやら店に来たことが罠だと思い込んでいる様子だ。
「おいおい、話を……」
聞く耳持たず、リオはすぐさま姿を変えて魔法少女へと変身する。
別に俺が店に引き込んだわけでもないのに彼女は勝手に勘違いしてる。誤解を解くように言っても油に火を注ぐような状態だ。
どうしようか考える。
「あの男が……」
「よーし、やるぞー」
「参ります」
アリサ、トモヨ、カエデもリオに続き、覚悟を決めて魔法少女へ変身する。
「あ、ああ……」
ただヒカリだけが戸惑いを見せて、変身しようとしない。
それだけの衝撃なのだろう。少し弱い精神に戦う者としていかがなものかと思ってしまう。俺の場合は家族を殺されていろいろあったからまだ精神的にはましかもしれない。
いや遠の昔に壊れてしまったのかもしれないな。
どうして彼女は魔法少女になったんだろうな……
少し彼女について興味が湧いた。
「それでも俺は俺の使命を果たすよ、鏡装!」
自分の世界の修復を胸に秘めて万華鏡を取り出し変身する。
『ミラージュイン! レディー! アクティブ! シンジュラー』
黒き鎧に身を包み、迫りくる魔法少女たちの攻撃を防ぐ。
狙いを日下部に定めてミラーストライカーを手に取り、銃弾を放つ。
「そうはさせない!」
しかし銃弾の行く手をカエデが魔方陣で防ぎ、反射し銃弾が自分に着弾する。
「ぐっ!」
火花が散りアーマーに当たった衝撃が全身を襲う。
それでも怯まず、相手の追撃をかわし、カレイドスコープに白のバーを装填。
『フォームミラージュ! ソリッド!』
白き鎧に姿を変えて、魔法少女たちの攻撃をなんなくかわす。
『アクティブ! アクセル!』
自身のスピードを極限まで上げて超高速で包囲網をすり抜けた。
「消えた!」
「どこにいったの?」
「何っ!」
魔法少女たちは一瞬で消えた俺に驚くがその間に彼女たちに迫り、首を狙い気絶させようと手刀を繰り出す。
しかし頭上から光の筋が何十本と舞い落ちて、いくつかが自分にヒットする。
「な、何だよ……」
攻撃を受けて、超加速の能力が消えて辺りを見回せば、他の魔法少女たちとは別の死角となる場所でリオが空へ弓を向けていた。
今の攻撃は彼女の仕業だ。
(このアマ、ほんと邪魔ばかりしかしない!)
内心暴言混じりの愚痴を吐きながら相手を睨む。
相手は躊躇いなく、第二波を放つ。
一本の放たれた弓矢が上空で数十本に分散して、弧を描きながら高速で地面に落ちていく。
一本一本が、雷が落ちるように速く、これでは超高速でさえ避けられる自信はない。
「くそっ!」
再び幾筋の光が自分を襲う。
俺を起点として周囲は火花が散り、爆発を起こした。
「……これでおしまいね」
無表情に矢が直撃して爆炎の中で倒れたであろう相手に無慈悲な言葉を投げかけるリオ。
「……まだだ」
「えっ?」
『フォームミラージュ! ゴースト!』
爆炎が立ち込める中、リオの言葉を否定すると同時に電子音声が響く。
煙が舞う場所から姿を見せた。
青き鎧に姿を変えて彼女の前に立ち塞がる。
「……化物!」
少女はあれだけの攻撃を受けて平然としている俺に怖れを成してるようです。
そのまま弓矢をこっちに向けて放ってくる。
「酷い言われようだな、こっちは一杯一杯だっつうのに」
防御もせず、弓矢を受けるが、強固な鎧に傷一つ付かない。
相手の攻撃を受けながらも落ち着き、この状況に順応してしまっている自分が怖い。
だんだんと戦いに、この力に慣れてきている証拠か、それとも自分の心がどこかおかしくなってしまったのか。
どちらだとしてもやることはただひとつだ。
「たああああ!」
「はっ!」
「えいっ!」
リオの攻撃に続き他の三人の魔法少女たちも攻撃に加わり、一斉に剣を、槍を、そしてハンマーを繰り出す。
弓矢も追撃を止めず、何本も放つ。
大きな衝撃音と衝撃波が周りを揺るがす。
まとめて攻撃を受けたが固い装甲を砕くこともできず、体に負担がない。
周りの魔法少女たちはそれぞれの武器を俺の体に当てながら唖然として固まっている。
『コールウェポン! クロウ!』
彼女たちが固まっている隙にクロウ型の武器を装着して体に当たっているそれぞれの武器を弾く。
武器を弾かれ後方に飛ばされる魔法少女たち。
何とか立ち上がり、武器を構えているもののさらなる攻撃は来ない。
その顔は不安と恐怖で彩られていた。何も通じない相手に完璧に戸惑っている様子。
これまでに俺みたいな相手をしたことがないようだ。きっと俺より上には上がいるだろうに。
その事実を受け止められなければ強くなれないだろうさ。
(そしてそれを受け止められる技量がある者が強くなれるだろうね)
まあ俺にはそんな向上心は持ち合わせていない。今できることをする。それがモットーです。
「あらあら、本当に厄介ね、あの万華鏡といい、あの少年といい……そう思わない? ヒカリちゃん」
戦いを眺めながらそう呟く日下部。
「……」
視線を戦場へみつめたまま黙って戦いを傍観するヒカリ。その表情は固く焦燥が混じっている。
「はあ~。……寡黙な性格も時と場合によっては疎まれるものよ。あなたは変身しなくていいの? このままだとあの子たち死んじゃうかもしれない」
「どうすればいいのでしょう?」
「う~ん、そうね。私と契約してみない?」
唐突な発言にヒカリの視線は日下部に向く。
「私と契約してあなたは絶大な力を手にして彼を止める。ええきっと死なせず救うことも出来るわ。そうすれば世界は救われる」
何とも希望のある手段だ。それでもヒカリは不安を募らせる。
「契約には何事にも代償が必要でしょう?」
「ええ、そうね。代償はあなたが人ではなくなる者になることかしら」
日下部はさも造作の事でもないように平然と代償を告げる。
「……そんな」
「だってそうでしょう? リオちゃんが言ったあの化け物を止めるには絶大な力が必要なの。人間をやめなければならない程のね。それでもこの世界を守りたいという覚悟があなたにある?」
覚悟を問われ、ヒカリは数秒沈黙したのち、顔を上げ決意に満ちた瞳を彼女に見せる。
「……元よりちっぽけな命です、私の命なんて。だけど魔法少女になって自分の命の意味を知った。私を必要としてくれていると喜びました。今回も私を必要としてくれるのなら私は……」
話の成り行きをヒカリの足元で聞いていたリリイは不穏な会話の雲行きに異を唱える。
「待ちなさい、ヒカリ! この女を信用するには……」
「ごめんなさい、少し黙っててね」
日下部はリリイの頭上に手をかざすとリリイは言葉の途中で意識を失いその場に転がる。
「じゃあ、契約しましょう。究極の魔法少女となるためにね」
そう言って日下部は左手を胸の前に持ってくると黒い玉が出現した。
「受け取りなさい」
ヒカリは頷き、黒き玉に手を差し伸べる。
次の瞬間、黒い靄が彼女を包む。日下部はそれを見て小さく微笑む。
「さあ、奇跡の始まりよ」
「あっ、あああああああああああああああああ!」
黒い靄からヒカリの絶叫が響いた。
俺のチートすぎる能力に動揺して牽制している魔法少女たちを眺めていると、突然叫び声が聞こえた。
「今度はなんだよ!」
そう言い、叫び声がした方を見つめると黒い靄がどこからともなく噴き出している。
「何が起こってる?」
あそこには確か日下部とヒカリがいたはず。ということは、日下部が何かやらかしたのだろう。
全く今度は何をしでかすつもりだ。
「ひ、ヒカリ……ヒカリ!」
リオは叫び声を聞き、先ほどまで無表情だったのとは打って変わって取り乱した様子で戦いを放棄して黒い靄へ近づこうとする。
「ヒカリ! ……うっ、うぅ!」
しかし走っている途中で膝を付き苦しみもがき始める。
「な、何なの……うっ!」
「く、くるしいよ……」
「力が抜けていく……」
周りの魔法少女たちもリオと同じように苦しみだす。彼女たちの周りから淡い光が浮かび、黒い靄へ吸収されていく。
周りを見渡せば他の場所からも淡い光が宙を舞い黒い靄へ伸びていく。
やがて彼女たちの変身は解けてしまう。
「魔力を吸収してる?」
変身が解けたことが推測するに魔力が底をついたと考え、あの淡い光は魔力だと結論付ける。
「何をやらかすつもりだよ、奴さん……」
黒い靄を攻撃したいがあの中にはヒカリがいる。彼女を傷つけてしまう恐れがある。
それは避けたい。だが無闇にあの黒い靄に突っ込むのは危険な気がする。
一体どうすればいい?
『これは、これは違う!』
黒い靄から再び声がすると黒いドーム状の何かが形成させ始める。
「今の声は?」
ヒカリの声が聞こえた気がしたが言葉はそれに留まり、ドームは徐々に広がり、こちらへ向かってくる。
「……退くしかないか」
瞬時に分析し対応できる天才でもない自分は真っ先に後退を選択した。
このドームがどこまで広がるか分からないがとにかく今はここを離れることにする。
「あとはこの子たちをどうするかだが……」
自分を敵視して容赦なく襲った相手達。報復としてここに置き去りにしてやってもいいが、彼女たちは人間だ。
彼女たちにもしものことがあれば悲しむ者もいるだろう。家族を失った俺のように。
「ひ、ヒカリ……」
リオは地面に伏した状態でもヒカリの身を案じている。苦悶の表情で涙を流す姿が自分の世界で悲しむ今は亡き妹の綾奈と姿が被った。
「……くっ!」
そうこう考えているうちに黒のドームが範囲を広げ目の前まで迫ってくる。
考えている暇はない。
俺は一つの選択を下した。
次回予告
闇に取り込まれた魔法少女。
他がために命を懸ける戦士。
その先に待つのは希望か絶望か?
差し伸べられた手を掴む時、真実は姿を現す。
次回「君の願いが叶う頃」
君の犠牲の上に成り立つ世界で誰かが泣いている。