第1話「創世のカタルシス」 Cパート
フォームチェンジが完了したと同時にカレイドスコープを一回捻る。
『コールウェポン! サーベル!』
赤い粒子が手元に集まり、日本刀のような形成して、それを握りしめ、横に薙ぐ。
すると周りの炎は暴風が通り過ぎたかのように鎮火し、目の前の景色が開けた。
「先手必勝!」
掛け声とともに早く駆けて敵陣に突っ込む。がむしゃらに剣を振るい、怪物どもを切り裂いていく。
「熱いな……」
動いている所為でもなく心の奥から熱さが生まれてくる。心の奥を打つような感覚が襲う。
『アクティブ! ジャイアント!』
電子音声が鳴り、横一閃に剣を振るうと剣は燃え上がり刀身が巨大化する。
自分の身長の二倍以上の長さだから大体三メートル近くの大きさだ。巨大化する前と重さは変わらず扱いやすい。
「たあああああ!!」
大剣を一振りするだけで何十体の怪物が宙に舞い爆散していく。その間に次から次へと切り込んで怪物たちを圧倒していく。
怪物たちは豪剣の餌食にならぬよう距離を取り始めた。
「残念、前に進めなくなったらそこで終わりだよ」
慎重になり始めた怪物たちを嘲笑うように台詞を言ってやった。少し前まで自分が怖気づく立場だったのに逆転するとは世の中分からないものである。
カレイドスコープを二回捻る。
『ファイナルバリエーション! セイバー!』
大型の剣の刀身は炎を纏う。剣を両手で持ち、回し斬りを繰り出す。
範囲は大体十数メートルといったところか。周りを囲んでいた怪物たちは胴体から体を真っ二つにされ、黒い炎を上げながら爆散していった。
「……すさまじい威力だ」
まるで他人事のように呟く。自分がやっているとは信じがたい状況。じきに実感するだろうな。
その時考えてしまうだろう
どうして俺が戦わなければならないのか……
なぜ俺だったのだろうと……
感傷に浸る暇なく次のバーをカレイドスコープに装填した。
『フォームミラージュ! ソリッド!』
白い粒子が自分を包む。
(今度は白か……ほんとにカラフルだこと)
黒、緑、赤と来て、次は白だ。色を楽しむ余裕は無いが、どうして色分けしているのだろう?
そんなことを考えながらフォームチェンジした。
遠くから傍観していた土田が近づいてきた。
「土田さん、敵の数は?」
「戦い始めて大体六割ぐらいは減ってるんじゃないかな? ただあと十分もすれば遠くからの怪物たちが群がってくる」
「タイムリミットは多く見積もって十分ですか?」
「そうなるね、その間に、ここにいる奴らを蹴散らせて、ゲートを開ける」
「了解」
今自分がすべきことを確認してカレイドスコープを捻る。
『コールウェポン! ドリル!』
電子音声が流れると同時に白い粒子が右腕を包む。形を成して銀色に光る。
「男の子のロマンが詰まった武器だな」
まあロボットが装備しているとなおカッコイイんだが……
「ドリルだけっていうのもなあ……まあいい、やってみますか!」
それほど単体の近接戦闘向きな武器でまだ大量にいる怪物をいっぺんに殲滅できるか半信半疑である。
そんな思いを抱き敵陣へ走る。
『アクティブ! アクセル!』
「へ!?」
いきなりボイスが流れ、素っ頓狂な声を上げる。
目の前の動くものすべてがスローモーションに動く。
「どうなってる?」
目の前で起こっている事態に困惑しながらも、ゆっくり向かってくる怪物たちを迎撃する。
一定時間経つとスローモーション現象は解除される。
「なんだったんだ、今の?」
しかも普通の動きをしただけなのに疲れがどっと体に押し掛かる。
「今君は高速移動をしたんだ」
土田は刀で敵を切り裂きながらそう話しかけてきた。
「高速移動?」
「ああ、一定時間自身のスピードを百倍以上出すことができる。まあデメリットとして体への負荷が大きく掛かる、連続使用はなるべく控えるように」
「恐ろしい能力だな」
土田から能力の説明を受けて唖然としてしまう。ドリルだけが武器というのも納得できる。
「だったらとっと決着付けましょうか!」
『ファイナルバリエーション! ソリッド!』
カレイドスコープを二回捻り、大技を繰り出すために構えを取る。敵を見据え一気に突き抜ける。
一定時間動き続け立ち止まる。
端から見れば白い閃光が縦横無尽に怪人たちを貫いているように見えるだろう。
周りの怪物たちは俺の動きを見切れず体に大穴を開けて一瞬のうちに爆散した。
「はあ、はあ、はあ……」
息切れを起こす。縦横無尽に敵陣を駆け巡って超高速攻撃したのだ。
いくらカレイドスコープの力の恩恵があるにしても、走り回っていたから持久走並みの体力を消費したようだった。元からそれほど鍛えてないため、自分の体力の無さに情けなくなる……
膝を着き、呼吸を整える。
「体力が無いんじゃないか?」
「うっさい、鍛えなくたって普通の生活はできます」
「これから普通の生活は遅れないというのに」
「くっ……」
(これから体力トレーニングも兼ねなきゃならんのか)
土田の言葉に内心愚痴を吐く。
「まあ、鍛えるも鍛えないも君次第だ。あと二割といったところか……やれるか?」
「やるかやらないかじゃない、やらないとならないんだ」
膝がガタガタと震えるが、お構いなしに立ち上がり、新たにバーを取り出し、カレイドスコープに入れる。
『フォームミラージュ! ゴースト!』
青い粒子が体を包み一瞬でフォームチェンジを果たす。
「おりゃああああッ!」
自分の疲れを紛らわすように敵に突っ込みパンチを叩き込む。パンチを受けた怪物は盛大に吹っ飛び背後に構えてた怪物たちも巻き込まれ、ボーリングのピンのように後方に飛び爆散した。
(怪力系の能力か……これまた体の負担が大きそう)
能力を理解しながら、敵を蹴散らす。ある程度間合いを開けると、武器を呼び出した。
『コールウェポン! クロウ!』
右腕に爪のような三本の鋭利な刃が装備される。
「もういっちょ!」
続けてカレイドスコープを二回捻る。
『ファイナルバリエーション! ゴースト!』
電子音声が響き、背後の外装が動き、展開すると広範囲で怪物たちの動きが止まる。
怪物たちは動かなくなった体を動かそうとするがびくともせずガタガタと震え、呻き声を上げる。
(まるで金縛りにあったみたい、ああだからゴーストってネーミングか)
怪人たちが集団で金縛りにあっているように見え、ネーミングの意味が合点いった。
そのまま右腕に装備されたクロウを振りかざし周りの敵を切り裂く。身動きの取れない怪物たちはクロウの餌食になった。
この攻撃ですべての怪物は殲滅された。
「はあ~、終わった」
ようやく戦いが終わり肩を落とし一息つく。ふと土田を見るが彼は遠くを見つめ黙っている。
「どうしたんです?」
「どうやら奴さんの方が予想より早かったみたいだ」
砕けた言い方をしながらも緊張感を滲ませ話してくる。まだ安息には着けそうにないようだ。周りを見渡すと遠くから先ほどより大勢の怪物がゆっくりした歩調で行軍してくる。
まさに悪魔の軍団という言葉ぴったりの光景だ。自然と肩が強張る。
「奴らに構っていれば永遠にここから抜け出せそうにないっすね」
「ああ、だから足止めをするしか方法はないだろう。使っていないバーでフォームチェンジしてくれ」
土田は考えがあるらしく、俺はそれに従い、最後のバーをカレイドスコープに入れる。
『フォームミラージュ! ソロモン!』
黄色の粒子が舞い体を包み外装が再び変化する。
「ところでドイツ語は習っているかい?」
唐突に土田さんが俺に聞いてきた。
「英語で苦戦してるっていうのにドイツ語も覚えようなんて考えはありません」
きっぱり否定する。
「そうか、だったらこれからドイツ語を重点的に覚えることだな」
(次々へと課題ばかり課して、うちのクラスの担任より性質が悪いぞ、この人……)
顔を顰めて、嫌々という表情を作る。マスクをかぶっているので相手には見えないが。
「勉強しないとその力を使いこなせないぞ」
「今君が変身したフォームは魔法の能力を持っている。呪文を唱えて戦う。そしてその呪文はドイツ語だ」
「えーーー! なんで英語じゃない?」
「それだと趣が無いだろう。もう少しエレガントさを求めた結果だ。」
「戦いに趣を求めるな」
(くっそう、本当に扱いづらいぞ、これ……)
最初はスゴイ物だと思ったが、使ってみるとどこか使いづらい。
(使いこなすにはそれ相応の技量が必要ですか……)
「俺じゃ真価を発揮出来そうにないですね」
「さあ、どうだろうね、そう決めつけるのは簡単だ、だがまだ君は進化できる。そう私は信じてるよ」
真顔で言い切る土田さん。カッコイイこと言ってマジイケメンだ。
「真価と進化をかけてみたけどどうかね?」
前言撤回。この人アカン……
「ドイツ語を指導してくれる美女を寄越しやがれ」
彼のダジャレを無視してこちらも反撃する。
「それは自分で探してくれ。俺に教えられるのは一つだけ。『マオアー・リヒト』」
「マオアー・リヒト?」
そう俺が呟いた瞬間ドーム状の光の壁が出来上がる。
悪魔の軍団如き怪物たちは足止めを食らい必死に光の壁を突き破ろうとする。
「せいぜい1分ちょっとかな?」
光の壁の持続を指してるみたいだ。ということは早急にゲートを抜けなきゃならない。
戦いの連続でゲートに目を移す暇が無かったが、間近で見るとでかいな。
芸術品で作製されたもんでも門でもこんなでかいのはないだろう。二十メートル以上はありそうだ。
しかも門の彫刻が禍々しい。人の形に彫られそのどれもが悲しい表情や嘆きを浮かべている。
だけどこれってどう開ければいい?
「ゲートを開くにはどうすれば?」
土田の方向に目を向ける。
「ああ、大丈夫だ」
そう言って指パッチンをする。あれってどうやって鳴らすのかいまだわからない。
博識じゃない自分にがっかりしながらも、門の方を向くと地響きを立てながら巨大な扉が開いていく。
中身はというと、
「真っ暗ですね」
ブラックホールに飲み込まれるような暗さ。先行きが不安になる。
「颯太君」
「何です?」
土田さんの方を向き直ると彼は俺の胸の中心に手を置く。何をする気だ?
「一つだけ言っておく。ある程度の衣食住は用意してあるが、足りなくなったら自分で稼いでくれ」
笑顔でサラリと言ってのける。
とんでもない爆弾発言をしてきたぞ!?
「お、おいっ!」
反論しようとした矢先、胸に置いた手で押し出される。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
闇の先は落とし穴でした。
遥か上に見える一筋の光を見つめながら、不安しか残らない暗闇に落ちていき意識を手放した。
「……は!?」
目が覚める。
良かった生きてる。
暗闇のダイビングを無事に生還できた。
「……ってここはどこ?」
見知らぬ部屋のベッドで寝かされていたみたいだ。
「夢オチ? ……じゃないか」
夢だと思ったが視線をテーブルに移すとそこに置かれたカレイドスコープと六本のミラージュバーを確認した。
「疲れは取れてるみたいだし、起きるとするか……」
起き上がり部屋を探索することにした。
「ここは喫茶店か?」
結論から言うと自分がいた家は無人の喫茶店でした。家主は見当たらない。つまりここを俺の生活拠点にしろという土田さんの計らいだと推測した。
確かに料理はできるが、店を出すほどの腕前じゃないのだが……
「というか料理できることまで知っていたのか? あの兄ちゃん」
冷蔵庫の中を覗き、食材を確認しながら呟く。レジの方も多少のお金が入ってた。
「まあ、しばらく、営業しなくても暮らせそうだが、世界を巡るのにどれくらいの期間が掛かるか分からないからなあ~」
メニューを見ながらぶつぶつ呟いてしまう。ケーキなんて面倒なのは作りたくないのだが……
一通り家を探索して、外に出ることにした。
「一つ気になることが、ここ日本だよな?」
異世界に来たというのに、食材は見慣れたものだし、レジのお金も日本円だった。
「俺のいた世界の日本とは違う世界の日本か?」
平行世界なんてあるんだなーと呑気に考えてしまった。ふと自分の喫茶店の看板を見る。
「『異邦人』か……あながち間違っちゃいないな」
他者から見れば俺は余所の世界の人間だ。例えここが同じ日本だとしても……
「俺は独りか」
物思いに耽り空を見上げる。
「……ん?」
空を見上げていたら飛ぶ物体が……人?
「空を飛んでる? しかも女の子?」
驚いて見つめてしまう。どうやら本格的に俺のいた世界とは異なるようだ。
「一体この世界は何なんだ」
そう呟き遠くへ飛んでいく少女を見つめ続けた。
To be continued……
次回予告
少年は戦うことに苦悩する。
少女たちは戦うことに覚悟を決める。
彼らが交わるとき新たな希望が生まれるのか?
第2話「穢れた奇跡」
異邦人の本当の戦いが始まる。