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Like A Broken Mirror  作者: 勾田翔
惨殺
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◆(二月八日――時刻不定)


   ◆(二月八日――時刻不定)


「ここ……は……?」

 眼を覚ますと、そこには一面の廃墟が広がっていた。どこかの建物の室内みたいで、黒く焦げた壁や、ボロボロになった家具が散乱してる。カビみたいな臭いが鼻についた。

 意識がはっきりしてくると、自分の身体が動かせなくなっている事に気づく。

 私の身体は椅子に座らされ、全身をロープみたいなもので縛られていた。

「気がついたか?」部屋の奥から声が聞こえてくる。そっちの方に目線をやると、壁に背を預けて佇む彼の姿があった。「荒っぽくなってゴメンな……ちょっとだけ眠ってもらってたんだ……」

 そう言って彼は、ジャケットのポケットから小さな瓶を取り出した。瓶の中には透明な液体が満たされてる。多分、連れてこられる最中に、それを使って眠らせられたんだと思う。途中から記憶があやふやになっていた。

「ここは、どこ……!?」

「覚えてないかい? ……まあ、とはいっても俺達が閉じ込められていた『施設』は、この『下』だからな。研究者共の居住地区なんて知らないか」

 慌てて周囲をもう一度注意深く見回す。部屋そのものに見覚えはないけど、意識してその光景を見てしまった今、過去の記憶が鮮明に思い出される。

 木材や薬品、そして人の焼ける臭い。

 耳を塞ぎたくなるほどの断末魔。

 愉悦に満ちた表情で、研究員や警備員、その家族を殺害していく友達。

 ここは、間違いなくあの場所だ。

「君を探してやって来たのが、過去に逃げ出したこの街ってのは、ちょっと皮肉なモンだよなあ。そうそう、七年ぶりに戻ってきてすぐだったな、ここで殺し屋のオッサンと戦ったんだよ。メチャクチャ強かったんだぜ? 俺の力への対処法をすぐに思いついてよ、一度は殺される寸前にまで追い詰められたんだ」

 まあでも、と彼はつけ足して続ける。

「結局、そのオッサンも俺には敵わなかった。眼と腕潰して、そこから『生命力』吸収してやったら、すぐに動かなくなっちまった。それでも生きてたってのには驚いたけどな」

「これから……あなたは、どうする気なの?」

「決まってる」彼は迷いなく言った。「ずっと俺が君を探し求めてたのは、君の安全を確保したかったからなんだ」

「安……全……?」私は訊き返す。

「そうだ。君が、なかなか力を使おうとしなかったから、本当に探し出すのに困ったよ。俺達『エデンの使徒』は、他の使徒の力を感知できるとは言っても……力を使わなければ、探す事はできないからね」

「私は、もうこの力を使いたくなかったの……これのせいで、たくさんの人が不幸になるから……! この力を見せただけで、皆が私を突き放しちゃうから……ッ!」

 あの人や、お姉ちゃんみたいな人なんてほとんどいない。自分の理解のできないものを見た瞬間、人は変わってしまう。仲良くやれるかもしれないって思っても、結局、最後は一緒だった。

 だから、私はこの力が嫌い。この力をできる限り、隠して生きていこうって思った。

 でも……それでも受け入れてくれた人達なんて、全然いなかったけど。

「どうして、この力の方を嫌うんだ?」彼は不思議そうに言う。「悪いのは、俺達じゃないだろ? 本当の悪党は、ほんの少し人と違うだけで俺達を蔑んだクソ野郎共だ。……俺は、ある日気づいたんだよ。復讐しなきゃいけないって。俺達を暗い地下の実験場に閉じ込めて……人の尊厳なんて考えもせずに、俺や君を実験材料にする研究者。少しでも俺達が気に入らない行動を取れば、すぐに撃ってきやがった警備員。実験のあとに、薬漬けになって動けなくなった俺達を、動物園にでも来たかのように、楽しみながら鑑賞するその家族共! 全部が憎いんだよ! だから殺した! 『皆』だって俺と同じ考えを持ってたから、俺に続いた! 皆殺しにして、檻から逃げ出した!」

 彼は叫ぶ。どうしようもない怒りを滲ませながら。

「あの時の俺は馬鹿だった。どんだけこっちが受け入れてもらおうと頑張ろうが、奴らは簡単に裏切りやがるんだ! 殺し屋のオッサンの自論なんて、デタラメなんだ! あのオッサンがどんな経験をしてきたかは知らねえが、少なくとも俺はそれに当てはまらねえ! どうしてか!? この力を見た奴らが、俺達を化け物扱いするからだ!」

「そんな事ない……! 私の力を見ても……あの人は変わらず接してくれた! 皆が皆、あなたの思い描いてるような人じゃない!」

「どうせ、いつかは裏切られる」彼は吐き捨てた。「人間なんてそんなモンだろう? 上っ面だけなら、いくらでも取り繕える。自分にとって相手が都合悪くなった時、『今まで』なんか関係なく切り捨てやがるんだ」

「違う……! あの人は、そんな人じゃない……!」だんだんと目頭が熱くなってくる。私の膝にぽたぽたと、透明な雫が落ちてきて水玉模様のシミができる。

「俺はさ、もうこの世界に希望なんて持てねえ。だから真っ平らにしてやるんだ。どんな奴だろうと関係ない。『俺達』以外の者は全員まとめて駆除してやる。きっと他の『皆』も賛同してくれるはずだ。俺が暴れ始めれば、自然と『皆』は集まってくるだろう。何十人もの『エデンの使徒』がいれば、人間共なんか一週間と保たねえだろうな」

 彼は私に向って手を差し出すと、「その前段階として、君を保護しに来たんだ」と言った。「君を戦いに巻き込みたくはないからな。だからずっと君を探し求めてた」

 彼は微笑む。

 ――ああ、もう……ダメだ。

 彼は変わってしまった。昔の優しかった彼は、もういないんだ。

「人間共を滅ぼして、『俺達』だけの世界を創ろう」

 彼は両手を広げて歩み寄ってくる。私は悟った。失われた時間は戻ってこない。きっと、彼ともう一度笑い合える日なんてやってこない。彼は勘違いをしたまま、世界に対して復讐をして、たくさんの人の笑顔を奪って、自分だけが笑う。

 そして私は、そんな彼を止める事ができない。

「………」私は、彼に見えないように、口の中だけで舌を歯で挟み込んだ。

 このまま、私を受け入れてくれた人達を、裏切るような事をしなければいけないのなら――私は、ここで自分の命を、


 絶つ事はできなかった。

 ひび割れたガラス戸を突き破られ、直後に真っ赤な炎が湧き上がったから。

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