9(二月八日――午前二時二分~午前二時九分)
9(二月八日――午前二時二分~午前二時九分)
「(くそがッ、しつこい連中だな! いいかげん諦めやがれ!)」
「(声ッ! もう少し声抑えてください武田さん……! SATの人達に気づかれますって……!)」
武田と笠峰は、偶然見つけた巨大なダストボックスの中に身を隠していた。いくら冬で気温が低いといっても、この密室空間の異臭はごまかしようがない。鼻がひん曲がりそうな強烈な腐臭が充満していやがる。
ダストボックスの外からは、複数の軍用ブーツの足音が聞こえてくる。
もう一度、SATの隊員に見つかれば、今度こそ殺られる。普段から裏の事件を解決するために奔走している特殊部隊に一介の警官が敵う訳がないのだ。こちらには自分と笠峰の二人がいるので、もしも二対一の状況に持ってくる事ができれば勝機はあるが、それは現実性のない話だった。常に複数で行動しているSATに、それを期待する事はできない。
やがて足音が遠ざかっていくと、武田はダストボックスの蓋をゆっくりと慎重に持ち上げて、周囲の状況を確認した。連中らしい人影は見当たらない。
笠峰と共にダストボックスから這い出る。その時だった。
武田の頭上から、ダンッ! という硬いものが砕けるような音が響いてきたのだ。
SATが残っていたのかと思ったが違う。頭上を見上げてみれば、そこには見知った人間が佇んでいた。
「――千条神羅ッ!?」
思わず武田は声をあげた。
それは自分が追い求めていた、因縁の相手そのものだった。『セフィロト』と呼称される、この世のものではない力を振るう別次元の存在。あの夜、何十人もの人間の命を奪い、何の罪悪感も感じずに立ち去って行った男。
千条神羅はビルの屋上に立っていた。そして武田は、彼が小さな女の子を抱えている事に気がついた。女の子の方も見知った顔だった。先刻、学生服を着た少年が引き連れていた『エデンの使徒』だ。どうやら彼女は意識がないらしく、力なくうなだれながら千条神羅に身を預けている。
――やっぱり、何かしらの接点があったんじゃねえか。
武田は内心で吐き捨てる。
千条神羅の方は、地上にいる武田達の存在には気づいていないようで、腕の中の少女を愛おしそうに見つめていた。やがて彼は少女を抱え直すと、強力な脚力で屋上から屋上へ飛び移りながら、立ち去っていく。
「笠峰! 追うぞ!」武田はまくしたてた。「とうとう見つけたんだ! 絶対に逃がさねえ! 何がなんでもとっ捕まえるぞッ!!」
「はいッ!」
二人は走り出す。
その先に待っていたのは、そこもまた自分のよく知る場所であった――。




