17(二月七日――午後七時四二分~午後八時)
17(二月七日――午後七時四二分~午後八時)
ラーメン屋から笠峰と揃って出てくると、武田は大きく肩を落とした。
「くそッたれが……一日中奔走して、結局手がかりナシかよ……」
本当に恐ろしく長い一日だった。朝一で警視総監にケンカを売って追われる身となり、明らかに何かの手がかりになりそうな怪しい男を追跡するもあっさりと振り切られ、くたびれた老体に追い撃ちするように、武装した女子高生に襲撃された。
オマケに左肩は銃弾で掘削されたときた。こんだけ身体張って収穫ゼロってのは、いくらなんでも酷過ぎねえか? 腹が満腹になろうが、この虚無感は拭い去れそうにない。
「まあ、まだ一日目ですし……明日からまたがんばりましょう、武田さん」苦笑いをこちらに向けながら、笠峰がそんな事を言う。
「そーだなー……」気の抜けた生返事。武田はぼんやりと空を見上げて、降り注ぐ雪を顔面で受け止めながら。「また地道にがんばっていくしかねえか……」
視線を正面に戻す。そして視界に飛び込んできた一人の男の姿を確認した直後、武田は怪訝そうに眼を細めた。
男はベージュのダッフルコートを着ていた。緩くウェーブのかかった黒髪を、左右に揺らし、ふらふらと歩いていた。それ自体は特別、気にするような事ではない。武田の視線が引きつけられたのは、『そこ』じゃない。
青年の纏うダッフルコート。その腹の部分が赤黒く変色していた。今にも昏倒しそうなほどに青白くなった顔には、深い深い憎悪の色があった。
そして。
男の口がゆっくりと開閉され、言葉が紡ぎ出されていた。口は、こう言っていた。
『絶対に「エデンの使徒」を……彼女も、僕の邪魔をしたあの高校生も……そして「千条神羅」も……。絶対に僕が……殺してやるんだ』と。
「笠峰……」武田は静かに、傍らの部下に声をかける。「今からちょいと派手にやる。しっかりついて来いッ!」
笠峰の返事を待たず、地面を蹴る。一気に男との距離を詰めた武田は周囲の人間に感づかれないよう、手早くコートの男の襟首を掴み、路地裏まで引きずり込んだ。そのまま男の背中を、コンクリートの壁に勢い良く叩きつける。
「ごッ……はあッ……!?」ただでさえ瀕死だった男が、さらに生命力を削り取られたかのような悲痛な悲鳴をあげた。
武田は男には取り合わず、男の着ていたコートを剥ぐ。予想していた通り、そこからは大量の武器が転がり出てくる。膨らんでいた内ポケットを探ると、自分のよく知ったデザインの警察手帳が出てきた。開いてみると手帳には、『警備部警備第一課』と記されていた。この男の名前は須磨というらしい。つまり、この男は――
「ちょっと、武田さん! いきなり何してるんですか!?」取り乱した声色で笠峰が走り寄ってくる。「その人、今にも死にそうになって――って何だこれ!?」
「決まってんだろ」武田は断定するように吐き捨てる。「コイツ、警備部警備第一課所属って事は――つまりSATの隊員だ!」
この男が――昨晩、対物ライフルによって交差点を狙撃し、何人もの人間の命を奪った外道の仲間。警視総監からの命令によって、事件解決のために『五〇〇人』の犠牲を許可された部隊の一員。
そして、千条神羅についての情報を握っている数少ない人間の一人。
「なら、遠慮はいらねえな」武田が笑う。
ようやく、目的のものが手に入るんだという達成感に満ちた笑みだった。
懐から回転式拳銃を抜く。それを容赦なく男――須磨のこめかみに押しつける。
「ひいいッ!?」と突然の状況に理解が追いついていないであろう須磨が、子供のような怯えた声をあげる。
「悪いな。こっちも切羽詰まってんだよ」言いつつ、回転式拳銃の銃口を有無を言わせずに、めり込ませていく。「千条神羅についての情報を洗いざらい喋ってもらおうか。黙秘はナシだ。どうあっても口を割ってもらう。たとえ――お前を拷問する事になってもなあ?」




