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初めまして、私の太陽

「お初にお目にかかります、エミリオ様。私はナターシャと申します。」


「んー」

私の主様は乳母の膝に乗りながら、穢れなき碧眼をぱちぱちとさせて私をご覧になりました。


私の名はナターシャ・タウゼン。

代々王族をお護りするために存在する“闇の一族”の一人。

暗殺、諜報、隠密、情報操作…この世に生を受けて12年、様々な過酷な訓練を終えてようやく“闇”として一人前であると認められました。

そして私に与えられた生涯の主…その人こそ跪く私の前で無邪気に白羽馬(ペガサス)のぬいぐるみで遊んでいらっしゃるこの皇国の第4皇子、エミリオ・フラウ・アルフレッド・セイランド様。御歳5歳。

美貌を誇った今は亡き側妃アイリーン様の御子であり、御母堂から受け継がれた輝くばかりの銀髪碧眼が美しい。


「なーしゃ!!」

にぱっと笑うエミリオ様。


「ナターシャです、エミリオ様」


満開の笑顔で私めに紅葉のごとき小さな御手を伸ばされるエミリオ様。

この御方の無垢な笑顔を拝見して誰がこの御方が数多の暗殺者から御命を狙われていると思うでしょう。


エミリオ様は現在このセイランド城に居られる4人の皇子様方のうちで最も潜在魔力の高い御方なのです。

それ故、他の皇子様方の後見を勤める有力貴族の方々から昼夜問わず御命を狙われているのです。

国王陛下はそれをお嘆きになり、かつての寵妃の御子であるエミリオ様をお護りするように闇の一族の長を頼りにして下さった訳であります。


「エミリオ様は私がお護りいたします…この全てにかけて」


光の世界に出るからには私は闇と決別しなければなりません。偽りの経歴を元に私は新たに生まれ変わるのです。


「ナーシャ!!」

跪き頭を垂れた私に与えられた名前。

「はい、我が主。

…その名、有難く頂戴致します。」


私はナーシャ。

表向きはエミリオ様の遊び相手として、エミリオ様にお仕えすることになったのでした。




*****


「…ナーシャ殿!ナーシャ殿!」

忙しく名前を呼ぶ声がだんだん近づいてくるのに気が付いて、私は思わず深く溜息をついてしまいました。落ち着きがないのは騎士様として如何なものでしょうか…


白亜殿の一室。

私は我が主エミリオ様の側仕えとして、恐れ多くもエミリオ様のお住まいの白亜殿の隅にお部屋を頂いております。



「何事ですか、騎士様」

ノックもせず、慌てて部屋に走り込んできたガタイの良い騎士様に私は視線を向けました。


彼の名はヨーゼフ。

歳は確か17ばかり。

つい最近我が主の護衛付きとなられた方です。金髪碧眼の爽やかな騎士様ですが、とにかく体格が良い方で、初めてお会いした時、殿下にもしものことがあれば盾として遠慮なく使わせていただこうと思ったものです。


「いやいや、落ち着いてとか無理ですから!殿下の御姿がないんです!白亜殿のどこにもいらっしゃらないんですよ!!?」

「ああ…殿下ですか」


彼は殿下を探し回ったのでしょう。すごい髪の毛が乱れてます。金髪が金鬣獣(ライオン)みたいになってます。


「もしや誘拐されたのでは…!?白亜殿を隈なく探しましたが…殿下は一体何処に…!?」

落ち着かなく部屋をウロウロし出した様子に殿下を心から心配するお気持ちがみて取れます。

…うん、今回の護衛は合格、ですね。

思わずにやけてしまいます。


「ご安心下さい。殿下はここに居られますから」

「…ヨーゼフ!」

椅子に腰掛ける私の横からひょっこりとご尊顔を覗かせたエミリオ様はにっこりと微笑まれました。


「はあああ…!!そこに居られましたか!ご無事でよかった…!!」

騎士様はエミリオ様の御姿を見ると安堵されたようにしゃがみ込みました。

…いちいち動作が可愛い方ですね。


そんな騎士様にエミリオ様はとてとてと近づかれ、がばっと抱き着かれました。御歳7歳となられたエミリオ様はとても元気でいらっしゃいます。


「ヨーゼフ、やったね!合格だって!」

「えええエミリオ様…!?ご、合格とは…?」

主に抱き着かれて目を回す騎士様は困ったように私に視線を向けられました。


「その通りですよ。合格です、騎士様」


私はにっこりと騎士様に微笑み、事の顛末を話しました。つまり騎士様を試していたということを。



私がエミリオ様にお仕えして早2年。


我が主を狙う不届き者らを潰しまくってようやく近頃落ち着いてきたのですが、私は公式の場に出ることができませんので、やはり殿下付きの騎士がいた方が良いだろうということになりました。

ですが…選出された騎士様方の無能なこと。一応この皇国の騎士団からの推薦を受けているはずなのですが。

実力を見るために闇の一族を仕向けた際、まんまと殿下のお側に近づけさせた時には怒りとあまりの無能さに、私がその場で騎士の証である剣を文字通り半分にしましたね。


「…というわけで、私が直々に騎士様がエミリオ様をお護りするのに相応しいかどうか試させて頂きました。私はエミリオ様の遊び相手であるのと同時に護衛でもありますから」

ほら、こんなものも持ってますと侍女服の間から取り出した短剣をさっと騎士様の前に差し出します。


「ナーシャ殿こえええ!」

「…何かおっしゃいました?」

「いいいいえ、何も!」


騎士様はエミリオ様に抱き着かれたまま焦ったように首をぶんぶん横に振りました。


「とにかく、ヨーゼフ殿。

貴方は我が主を力の限りお護りして下さるとお見受けしました。公式の場では私のような身分の低い者はエミリオ様のお側に侍ることが叶いません…」

「ナーシャ殿…」


私はタウゼンの名を捨て、我が主のお側に上がるために下級貴族の養子となりましたが、いつもお側に侍ることはできないのです。


そっと目を伏せる私に騎士様は遠慮がちに声をかけて下さいます。


「ナーシャ殿のお気持ち、しかと受け止めました。…お任せ下さい。エミリオ様を、いえ、我が主エミリオ・フラウ・アルフレッド・セイランド様をこの剣に誓って、我が命に替えましてもお護りいたします…!」

騎士の誓い。

それは騎士にとって絶対の誓約であります。

「やったぁ!

ヨーゼフ!よろしくね!」

「はい、殿下。よろしくお願いします」

はしゃいだ声で喜ぶエミリオ様に微笑みながら跪く騎士様を見ながら、私は先程までの萎れた態度を一変させてにやりと笑いました。


「それでは騎士様、

エミリオ様を完璧にお護りするために“特訓”ですね」

「とっくんー!とっくんー!」


ヨーゼフも一緒に“特訓”するんだね!と嬉しそうに飛び上がっているエミリオ様を横目に私はあらかじめ用意していた紙の束を騎士様に手渡した。


首を傾げていた騎士様はその紙に目を通されるにつれて目を剥いて驚愕の表情を浮かべられました。

「"白亜殿鬼ごっこ〜但し捕まったら白亜殿100周☆""白亜殿ロッククライミング"…!!?えええええ!!?」


魔術使っていいなら簡単だし楽しいよー!と喜ぶエミリオ様の傍らで、騎士様は私を凝視しながら叫びました。

「まままさかこれは殿下もされているのですか!?…こんな訓練、騎士団でもしませんよ!?」

「勿論です。私や騎士様はエミリオ様をお護りする護衛ですけれど、エミリオ様が御一人になってしまう状況も少なからずあります。御命を狙われるエミリオ様自身にも危機感を持っていただかなくては。…ご心配いただかなくても大丈夫ですよ。これでも私はエミリオ様をお護りするため様々な鍛錬を積んで参りました。騎士様の足りない所を私がしっかりと鍛え直して差し上げますから」


まずは落ち着きのない所ですね、とにっこりと笑うと騎士様は怯えたように目を泳がせました。…本当に可愛い方。



こうして私たちは互いに切磋琢磨しながら、エミリオ様が隣国エゼルライドにある学院に通うために引っ越されるまで、白亜殿で楽しい日々を過ごすことになりました。つづく。



「せっかく楽しいのに!ヨーゼフはもっと楽しまなきゃ駄目だよ!あはは!」


「た、楽しくなんかないですって!!俺は…俺は、魔力があんまりないんです…!!補助魔術とか使えないんですって!!」


「では、その筋肉でなんとかして下さい騎士様(にっこり」






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