序章ノ参
公園の隅で寝袋に丸まっていた少女は夜も明けきらないうちに活動していた。
正確には人が寝静まり、静寂に満たされたときから活動を開始している。
「うわあ・・・。気持ち悪いデザイン・・・」
微かな月光を頼りに、独り言を言いながら何やら作業をしている。
「持って来なきゃよかったかなあ。いろいろ言いくるめて帰ってもらうんだったよー」
少女の傍らには、どこから持ってきたのか器具の山が詰まれており、その手には――これもどこから持ってきたのか――お世辞にもカッコいいとは言えない赤と黒を基調に意匠された大きな鎌があった。
趣味の悪いそれを危なげに振り回し、
「重いし目立つし・・・」
何かを確かめるようにもう一度だけ振りおろす。
「オーダーメイドなのかなー?なんだか重さ抜きにしても扱いづらいや。それに・・・」
粗悪品を扱うように鎌を放り投げ、
「私には似合わないしさ!」
そんなことを言うのだった。
「あとで奥の方に“圧縮”しておこーっと」
愚痴りながら、それでも気に入らないそれの元へ戻り、よく分からない器具の山の横へ座る。
「さーて、いちおー、性能の確認だけでもやっとかないとねー。えーと、機動性はさっきので十分かな。あとは耐久性とー、物理威力とー・・・」
うーん、と唸りながら、器具を片手に作業を始めようとして、
「わわっ!」
慌てて身を隠す。
「ありゃー、まだ暗いのにこの街の人は起きるのはやいなー。これじゃメンテすらできないよ・・・」
数は少ないが、ちらほらと公園で寝ていた人たちが起き始めていた。
幸い大鎌を振り回していたところは見られていないようだったが、さすがに少女が一人、大きな鎌をいじっていたら怪しさ抜群である。
そう思い、少女は
「圧縮 -compression-」
そう呟くと、何の手品か手元の鎌と乱雑な器具の山は姿を消していた。
「チェックとかメンテはまたあとだなー」
そう言い、先ほどまでのつまらない顔を笑顔に変えて、
「日が沈むまで、冒険でもするかー」
白み始めた街へと歩き出すのだった。