72.空白
72.空白
「……………」メリーは何も言わない。
「私達が生まれたのは、白蘭館の前身となった『対怪物兵器研究所』です。五百年よりも更に前の年になります。私達姉妹は、偉大な魔法使いの遺伝子に、怪物の遺伝子を組み込まれ、誕生しました。当時は、私も生まれたままの赤ん坊でした。しかし、歳を重ねるごとにその特異性は目を覚まします――それが、『電波』と呼ばれる力です。
『電波』は魔術とは違った形質のものです。しかし、人間の力とは明らかに違うものでもあります。それは――怪物の力。言葉を発する必要の無い言語。意思疎通能力。時には私の魔術『衷心のソレイユ』のような危険な物に形を変えます。
『電波』は、特定の怪物にしか効果を発せません。私の電波を聞けるのは風歌だけでした。……成人しても一向に役に立たない能力……私達の力は、欠陥品という扱いを受け、研究所から捨てられました。半分怪物なので、殺してしまおうという案もありました。でも、ここに私が生きているように、それは取り辞めになりました。もう、予想はつくでしょう……『暗黒のアブホース』が日本を覆い尽くしたのです。
――殺そうとしても、私達は不死でしたから、殺せないのですが――。
アブホースの力は強大でした。研究員は皆、昆虫へ姿を変えました。その中には、私達に優しくしてくれた三人の……仲間も居ました。私達が、魔法使いの力を使って、人助けができないか、それを熱心に聞いてくれた、気のいい仲間達でした。
生き残ったのは、二人だけです。アブホースの怪物化は、怪物には効きません。
私達は、仲間達の意思を受け継ぎ、白蘭館を作りました。最初は、私達が学んだ、人を癒す魔法を全国の人々の助けにしようと、ずっと企てていた計画です。魔術協会といっても、たった五人のメンバーでは、現実的ではありせんよね。
それでも、私達はアブホースと戦う決意をしなくてはいけなかった。三人の意思を継ぐ、その思いもありました。少ないものですが、研究員達が私達に言った“世界を救う“という、安価な言葉に存在意義を求めていたのも、確かです。
……メリー様。さっき、あなたが言った通りです。
――怪物と怪物は惹かれ合う――。私達は、怪物である以上、自分以外の怪物の存在を認めない。特に、私達に植え付けられた『変容のショゴス』は『暗黒のアブホース』と非常に仲が悪い……おかしな話ですが、私はアブホースの眷属を見ると、本能として、“殺さなくてはいけない”という念に駆られるのです。
あなたなら、分かってくれますよね………メリー様……」
「でも、あなたは私を“半分”分かっていない」




