51.蜜蝋時計のサラ②
51.蜜蝋時計のサラ②
ロバートが不意に目を覚ますと、それは暗いオフィスビルの一角だった。
「……どこだ、ここ」
眠っていたような気だるさが体を包み込んでいた。記憶が曖昧だ。
「最近こんな事ばかりだったような気がするな……しかし、この場所は」
白蘭館のビルだった。自分に当てられた四階。自分の住みやすいようにアレンジしようとしたところで、確かに魔女と戦った。そして――その体と心は……。
「そうか……死んだのか。久しぶりだ」
日本に来て、始めて敵に命を奪われたのだ。腕を切り落とされることは会ったが、さすがに死ぬと、記憶がはっきりしない。だが、殺された瞬間は確かに覚えている。情熱が即座に冷めたあの出来事は人生であっても衝撃的なものだろう。その衝撃的な事実が、今は胸の中に、確かに存在した。
「今、何時だ……いや、時計なんて持ってきてない」
「何、ひとりごとするほど、寂しい人間だったの? あなた?」
目の前には、赤と黒の、少女がいた。
「は―――ッ! な、お前!」
「騒がないでよ! うるさいわね」
ロバートは生唾を飲んだ。冷静に努めようとするささやかな思いだった。
「――メリーの知り合い。だろう?」
「ええ。火曜日の守護を任された―――あなたに名乗る名前なんてないけど、特別に教えて差し上げましょうか?」
「教えたくないなら、知らなくてもいい」
「何? やさぐれちゃって……可愛くないわね」
少なくとも、彼女はメリーに似ていない。テレスにも同じことが言えた。口が悪いし、服装だけ綺麗で、他は何か殺伐としたものすら背後に感じた。
「あなたの体を直したのは私よ。少し感謝しても良くなくって?」
「……なんだって?」
ロバートは驚いた。この魔女が自分を直しただって?
「お前は、僕を殺そうとしたじゃないか。それで、何で生き返らせたんだ?」
「お母さまは、あなたを殺してもいいとは言わなかった。でも、蘇らせるのを手伝うのも否定しなかった。だから、殺したし、蘇らせた」
「訳が分からないよ」
「私の心が、あんた見たいな下劣な男に分かってたまるものですか」
ロバート、軽く傷ついた。自分では紳士であることを心掛けていたのに。
「まず、私の名前を呼びなさい。お前なんて呼び方、許さないわ」
ぐい、とロバートに近づく。身長は思ったより小さい。
威圧と、先の戦闘で植え付けられた存在感とは違った発見が、頭を打ったように電撃的に走った。赤色と黒色のコントラストがロバートの胸を再び撃ちぬくと、剣を向けられたような鋭い視線と共に言った。
「私は、蜜蝋時計を内蔵された火曜日の分身。サラマンダーのサラ」
「そして、私が――――」
「あっ! 誰だ!」
サラの後ろに、今度は赤と黒ではなく、その真逆、涼しさすら感じるような青と白の少女がメリーのよく座る椅子にちょっこり座っていた。




