43.黒翼天使クロウちゃん
43.黒翼天使クロウちゃん
その姿が見える。黒い衣に包まれた人影だ。
「――離せ離せ! このアホ!」
「……?」
ロバートがよく目を凝らすと、その黒い衣を剥ぎ取った。すると、今度ははっきりと視界の中にその姿が飛び込んできた。真っ黒な髪の毛をして、なぜかウサギの耳のカチューシャをつけていた、変な女の姿だった。
「な、なんだお前!」
ロバートは思わず声が大きくなる。黒衣の所為で大きく見えた影も、今は小さい日本人の姿だった。上目遣いでこちらを睨みつけるのは、確かにそんなやつだった。
静かに透視を解いた。
「速く離して! 痛いって!」
「その前に目的を言ってもらおう。なぜ僕たちの命を狙ってきたのか……さあ」
ロバートが睨みを利かせると、びくりと体を震わせたのが分かった。
「別に殺そうとは、思っていたけど、すぐにやめたじゃない……ひどいわ」
「ロバット。女の人を殴っては駄目」
「そうよ。ロバート。あなたの器の小ささをわざわざ日本人にまで広める必要は無いわ」
ロバートは仕方なく手を話した。
「そこのあなたは分かっているようね。よかった。それに、二人とも日本語上手」
ロバートの場合はメリーのお陰だ。メリーの付けた義手から日本語の情報が上手く流れこんでくる。言葉遣いも脳が正しく理解すれば、さほど難はない。メリーはどの国に言ってもその国の言葉を喋れると昔言っていたから、日本語もその中に入るのだろう。
退魔以外の勉強があまり得意でなかったロバートには便利な力だった。
「まあ、あんまり怒らないで頂戴。これは『黒翼天使クロウちゃん』っていう、都市伝説なの。術者とは別に、私は存在する、まあ、監視役って所なのよ」
意味が分からない。
「まあ、そこのあなた。ただならぬ気配のあなたよ」
うさ耳の女性がメリーを指した。
「絵本たんが言うには、あなた、恐ろしい『宙色の怪物』なのでしょう? 知っているわよ。ここに何しに来たの? 返答次第では、ここから排除しなくてはいけないわ。そんなの嫌でしょう? 私は嫌よ。もうすぐで計画が遂行できるのだから」
「私は何もしないわよ。ただ、あなた達が何かすれば、私たちはあなた達を排除するまで。敵意はないと受け取って欲しい」
まるで原住民のたむろする集落にやってきたような慎重さがメリーにあった。
それを理解したのか、クロウちゃんは頷いた。そして、ロバートのほうへ視線をやった。
「あなた達、名前はなんて言うの? せっかく来たのだから歓迎するわ。特にあなた。でっかいわね~。雨道サンより大きい」
勝手に話始める妙齢の女性は、ウサギの耳を揺らした。
「……僕はロバート。本当に君に敵意が無いのか、まだ疑っているんだが……」
「ロバット。彼女に敵意はない。いい人」
「そうよ、ロバート」
「何言っているんだい? メリーさん。本当にこんなやつ――」
クロウちゃんが包丁を手に握っていた。
「何やっているんだ、あんた!」
ロバートが必死に包丁を取り上げようとするが、万力のような力で包丁は握られたまま、外すことができない。
「ロバちゃんが私を疑うなら、この場で死ぬわ!」
涙を両目に貯めて、決心したような顔で包丁を振り回す。
「この首を包丁で刎ねて、私は散る!」
「やめるんだ! 意味の分からないことをするもんじゃないぞ!」
「情熱のワルツ」
「全く、あなた達、食べてしまいたいわ」
こんな調子がしばらく続いて……ロバートはくたくたに疲れてしまった。




