17.白き沈黙の神〈ウェンディゴ〉①
17.白き沈黙の神〈ウェンディゴ〉①
怪物共の声が残響する。街の中を駆け巡るその声は、辺り一帯を覆うもので、いかにこの場所に怪物の仲間が集ったというのかを知ることができた。
その数は圧倒的。怪物の姿それぞれは違えども、アブホースの中で生まれ、〈デス・ウォーカー〉に追従する下級の悪魔達であることには違いない。今まで隠れ潜んでいた怪物が一斉にこの場所を嗅ぎつけ、集まったのだ。
およそ二万以上の軍勢。その中央に座するのは〈デス・ウォーカー〉……いや、既に以前の力以上をもつこの怪物は〈デス・ウォーカー〉と呼ぶのは相応しくない。
中規模怪物の中でも〈デス・ウォーカー〉は巨体である。数年前から確認される怪物達の中でも、〈デス・ウォーカー〉はその長身と巨体から異彩を放つ魔物として知られていた。
〈堕神〉によって現れる超個体……ランクS、またはランクA級の『ネクロノミコンの予言』によって予知された、人知を超えた破壊者……〈デス・ウォーカー〉はその中でA級のモンスター、ヨーロッパから中東一帯に堕神した《名も亡き王》こと《天界のハストゥール》の眷属――すでに《天界のハストゥール》は破壊されているが、そのハストゥールの眷属中でも〈デス・ウォーカー〉は、最も人を殺した怪物とも言われる。
しかし、《天界のハストゥール》の仲間はそれだけではない。いかに〈デス・ウォーカー〉が人を殺してきた経緯があろうと、ハストゥールの眷属の中で最も強いとは限らない。人と遭遇しなかっただけで、実際に時代の裏で人間を八つ裂きにした怪物が居ないとも言い切れないではないか。
「ならばこの怪物は、〈白き沈黙の神〉(ウェンディゴ)と、そう呼んだほうがいいわね」
《天界のハストゥール》が人間を改良して作る〈怪物〉を〈ウェンディゴ〉と呼ぶのであれば、それは正しいかもしれない。この〈白き沈黙の神〉はロバートの堕神点の記憶から復元された〈デス・ウォーカー〉にアブホースの肉体変化の能力がうまい具合で重なりあい、個体自体の強化につながったといえる。
〈怪物〉が〈怪物〉を作り替える。ハストゥールとは関係のないアブホースが〈デス・ウォーカー〉を変化させた。
いかにこの場所がアブホースの体内であるのだとしても、脅威の能力である。
「……これは、日本から外に出すわけにはいかないわね」
それこそ、ショゴスのように世界中の生き物を〈怪物〉に変容してしまうことも可能だ。それも、質の悪い中規模クラスの〈怪物〉であれば、もはや世界に生き残るすべは無いだろう。
「――さて、ロバート。どうするというのかしら」
動かないロバート。空中に縫い合わされたように動かない彼は、〈ウェンディゴ〉の術中にはまっているといっていい。それは紛れもない《天界》の眷属が行使する技能。
――『氷雪時計』――
方向の相殺だけでなく、全身を取り巻く方向と力のやり取りを殺してしまう異能。ロバートは空中に縫い合わされているだけで、全身のあらゆる“方向”を殺されている。
血液の流れ、心臓の心拍という方向に相殺が加われば――死は明らかである。
ロバートはすでに、あの場所で死んでいる。
一瞬で一人、人間を殺したのだ。〈ウェンディゴ〉という怪物は!
ざっ……怪物が一歩、にじり寄る。




