7.怪物
7.怪物
今や異界と化した世界。しかしその中でも上位に属する宙色の怪物《暗黒のアブホース》。第六の堕神によって登場したその怪物は、原形質の肉体で日本を包み込んだ。以降五百年にわたって誰もこの国を訪れる者は居なかった。
アブホースは人間の器官を通して『病原体』を用いて仲間を増やしていく。この場所の空気を吸えばアブホースの種子を体内に宿すことになる。潜伏期間中にはその影響はないだろう。だが、一度発症すれば人知を超えた異物になりうる。
このやり口はアブホースより前に堕神した《変容のショゴス》という菌性の怪物と酷似する能力を持つが、アブホースは人間に対しては絶対の効力を持っている。空気感染以外にも体の表面に接触しただけでもアブホースの種子を受け取ることになるだろう。それは『ショゴス』やその他の宙色の怪物の持つ能力の一つだ。あれは人間という霊長類に用意された三すくみのようなものだ。グーではパーに勝てないように、人間では〈宙色の怪物〉と呼ばれる異世界の化獣には、勝つことはできないのだ。
そんな怪物の体内である日本に来た二人は、もうおわかりの通り人間ではない。だからと言って彼らは〈怪物〉でもない。
世界には彼らのような被害者もいる。〈病原体〉の種類によっては人間を殺さずに生かす能力も備わっていることが分かっている。〈堕神点〉はその一種である。
選ばれた人間は不死となり、また怪物の能力を保持することになる。望んだことだろうが、望まなかったことだろうが関係ない。全ては異端の神が決めることなのである。こうして二人は怪物じみた力を手に入れることになった次第である。
〈堕神点〉に選ばれた人間はその時になるまで生き長らえる。そして最後にはその人間を食らって、『堕神』のシステムが完成する。
それは凶悪な存在〈宙色の怪物〉と呼ばれる、〈怪物〉の王だけが許される特権。
既に一度死んだ《黒山羊》や、《名もなき王》が、再びこの世界を蹂躙するとなれば、人間達は震撼するだろう。特に、二人には所以の深い怪物である。
しかし、彼らのお陰で、二人は“チョキ”という特殊な位置に居る。〈怪物〉の力を持ちながら、人間の心を持つ彼らは〈怪物〉をその“力”で殺すことができるのだ。
――二人は、故に〈怪物〉を殺す。そして、自らに宿す〈怪物〉を殺すために、その手段を求める。それは巨大な怪物に絶対的な死を突きつけるためでもあり、自らに掛けられた“呪い”を解くためでもある。
いつの間にか二人は出会い、そうして此処に来ることを決心した。そこに幾つかの物語があるが、それは今関係無いので、その後に語られることになるだろう。
――もし、良き結末であれば、その物語も伝説として語られる日が来るのだろう……。




