1.第六堕神
「夢と現のアリス」から来てくださった方、
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1.第六堕神
小さい船が一つ、ふわりと浮くように海の上にあった。
海は緑色に淀み、雲は積乱雲の如く黒色で、モクモクと辺りを包みこんでいる。
周りはとても暗い。暗さで例えるならば、ここは闇。無音無明の真の闇。
粘つくような陰と、汚泥に満ちた海。世界の原始とはこうあったと言わんばかりの景観が広がっていた。雲の裂け目から僅かな階梯が生まれては消え、雷鳴の閃光と同時に大地を震撼させる紫電の轟音。 天高く聳える富士の山が火炎を噴出し、赤色の腕が地面を撹拌させていく。落ち着くことなど一切なく、ただ世界が進行と退行を繰り返して揺れている。そこに文明の能力は皆無に等しい。
しかし、大地の人間たちはその環境に住むことを選んだ。三千年の時を旧グリニッジ時刻が換算している今現在。その時は人間たちを狂気に陥れるには長すぎる時間だった。進行と退行を繰り返す生命はやがて固定化された人間の肉体を変えた。同時に、生存能力のおごそかになった人間に未知としか言いようのない力が宿る。
魔法。という不思議な力。それは個人に宿るものであり、この場所全体を総括して宿るものである。しかし、それは〈怪物〉たちの力と相似した力であった。
それは、3060年目の真実の話。
六体目の〈堕神〉によって閉鎖された、文明大国日本の姿である。




