命の重さ
第三章【命の天秤】
「アシリル、何でここに?」
「何でじゃないわよ!この馬鹿!あんた、私
がこの前言ったこと忘れたの!?」
突然現れたアシリルにも驚いたが、もっと驚い
たのはアシリルの怒りようだ。こいつといた時
間はそれほど長くはないが、それでもアシリル
がこんなに怒りをあらわにしたのは初めてだ。
「この前言ったこと?」
「『不用意な行動はとるな』って言ったで
しょ?」
「そういやそんなこと言ってたな。でも、そ
れとこの子と何の関係があるんだ?」
「その子は人間じゃないわ、既に死んでいるけ
ど自らの死を受け入れていないの」
「それって……」
俺はアシリルの言葉を聞き、自分をここまで
連れてきた少女を見て青ざめた。
「いわゆる地縛霊、ここにあなたを連れてきた
のは多分、あなたを仲間にしたかったから
じゃないかしら?」
「仲…間……」
その言葉が何故か俺の心に響いた。この少女は
今までずっと一人ぼっちで誰でもいいから遊び
相手が欲しかった、だから俺をここまで連れて
きたのか……。
少女はまるで捨てられた子犬のようなつぶらな
瞳で俺を見ている。
「だめよ!情けをかければあなたも彼女のよう
にここから離れられなくなる」
「なあ、この子これからどうなるんだ?」
「前に私があなたに協力してほしいって言った
こと覚えてる?」
「忘れられるわけねぇだろうが!」
「あなたに協力してほしいことっていうのは
ね……」
アシリルの表情が急に暗くなった。そして、次
に俺は自分の耳を疑う言葉を耳にした。
「あなたにはあの子を消して欲しいの」
俺の思考はしばらく停止していた。
「あ~、悪いちょっと聞こえなかった、もう一
回言ってくれ」
そうさ、そんなことがあるはずない。いくらこ
いつが悪魔でも、そんな残酷なこと人間の俺に
頼むはずが……。
「あなたにあの子を消して欲しいと言ったの」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!どうして俺
がそんなことを?」
「あなた、言ったわよね?協力するって。別
に嫌ならいいのよ、他の人に頼むから。ただ
し、あなたはここに置いていくけれど」
「くっ!」
これじゃあ自分の命とこの子の魂を天秤にかけ
てるのと同じじゃねぇか!
「どうするの?やるの?やらないの?」
くそ!この外道め!まさに悪魔だな。
「わかった、やるよ。だけどな俺には何の力も
無いんだぞ」
そう、俺はどこにでもいるただの一般人。霊を
消す力なんてあるはずもない。
「だから私があんたに力を与えるのよ」
そういうとアシリルは俺の前に手を差し伸べ
てきた。すると、その手が光りだし、俺の体を
包みだした。
「な!何だよ!?これ」
「動かないで!すぐに終わるわ」
しばらくすると、俺の体を包んでいた光は収ま
り初め、手のところであるものを形作り始め
た。
「これは!」
短剣、その見た目はどこにでもある普通の物
だ。
「さあ、それでその子を消すのよ」
「………」
「どうしたの?まさか、まだかわいそうだと
か思ってるんじゃないでしょうね?」
「……なあアシリル、他に方法は無いのか?」
「あなた、まだそんなこと」
「お前はなんとも思わないのか!?この子は何
も知らないまま消えていくんだぞ!?」
「………」
アシリルから返答は無い。しばらくの間、沈黙
が続いた。しかし次の瞬間、パリン!とガラス
がわれるような音が響いたかと思うと少女の体
が霧のように消えてしまった。
「おい!どういうことだ!?あの子はどこに
行ったんだ?」