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02 消えたら探すに決まってます

 

 自分の人生初のトリップがまさかのペット巻き込まれだったことに(あたしとしたことが)しばし呆然としたものの。

 いやいや、一緒に散歩に出てた時じゃなかったら、大事な家族がかっさらわれていたかもしれないと思い直す。


 身贔屓は承知で言うが、ふぅちゃん(風花号(かざはなごう)風花(ふうか)→ふぅちゃん)は可愛い。頭のてっぺんから足の先まで、体毛はどこをとっても真っ白の中毛ふわふわで、日本犬の特徴であるクルンと巻いた尻尾はこれまたふっさふさ。丸っこい顔にやや丸みを帯びた三角の耳(←この耳裏の毛が特に柔らかいって知ってます?)。黒に近い濃い茶の目はいつもウルウルで、その目でじっと見つめられて「遊んで?」なんて訴えられたら逆らえないんだからっ!! (和犬好きな方には理解していただけるハズ!)


 両親が相次いで病死して、年の離れた兄と姉もそれぞれ仕事の関係で遠くに居を構え疎遠になった後、縁あって生後2ヶ月で我が家に来たふぅちゃんは、今の私にとって唯一の家族と言える存在だった。そんな彼女が急にいなくなってしまったら。


 もちろん探すに決まってる。抜け出してどこかで迷子になってるんじゃないかと、声を嗄らして名前を呼んで。「謝礼します」って迷い犬のポスター作ってあちこち貼って。野犬に間違われて連れて行かれたんじゃないかって動物保護センターに問い合わせて。

 自分が体験したんじゃなけりゃあまさか異世界トリップだなんて思いもしないだろうから、心配して探して探して。でもきっと見つからなくて。

 …………仕事が手に着かなくなってクビになって路頭に迷うことになったらどーしてくれんのよ! 今日日きょうびペット養っていくのはそれなりに経済的基盤が要るんだからね!!


 ・・・・・・・・・


 いやいやいかんいかん。二呼吸ばかりの間に不吉な想像しちゃったわ。

 意識を現実(でいいんだよね?)に戻せば、イケメンの狼陛下(仮称)に手を差しのべられたふぅちゃんは、警戒心を露わに立ち、しかし怖いのかさりげなく体の脇をあたしに押し付けてきている。

 落ち着かせようと右手で背を撫でると、赤い首輪につながったリードの鎖部分がジャラリと音を立てた。(ちなみにリードの先の持ち手・皮の輪っか部分に右手を通して散歩していたのである。←これが引っ張られて痛かった。)


「なんとおいたわしい・・・」

「姫を鎖に繋ぐとは・・・」


 そう大きくない音だったのだが、獣耳はよく聞こえるのか、鎖の音に皆さんご反応。空気にトゲトゲしいものが混じる。狼陛下を筆頭に、それまで空気状態だったあたしに、一斉に“敵意”のこもった視線が向けられた。


 いやぁ、さすがにこれはキツイわ~。


 ホールドアップしようかしら~、と思ったあたしよりも先に反応したのはふぅちゃん。あたしに向けられた敵意に対し、周囲の皆さんを敵認定したもよう。あたしの膝を跨ぐように前に出ると、体をあたしに押し付けながらも唸り声を上げる。――まるで庇うように。


 ……こんな時に不謹慎かもしれないけど、この健気さ可愛いっ! 愛おしさがこみ上げて後ろから襲おう――背中から抱きつこう――かと思ったじゃないの!!

 思わず顔がニマニマとなる私とは対照的に、救い出そうとした(んだろうね、たぶん)相手に威嚇されて動揺する獣耳さんズ。

 不謹慎で申し訳ないケド、いや~、なんか優越感? ほお~ら、アナタたちが仲良くしたいふぅちゃんはあたしにラブなのよん♪ みたいな?

 うん、我ながらやっぱりイイ性格してます。 


「このままでは埒があかぬ。“聖水”を持ってまいれ!」

 そう叫んだのは、狼陛下の後ろにいた背の低い丸耳のおいちゃん。……えー、タヌキさんかな?

 あいかわらず警戒態勢のふぅちゃんをドウドウと宥め(←撫で)ながら、とりあえず様子見です。……あたしへの敵意はともかく、ふぅちゃんを傷つけるようなコトはしなさそうなんで。


 ものの5分と経たずに、下っ端っぽい人がガラス瓶のような物を持ってきた。中には何か液体が入っているのが見て取れる。

 瓶(仮)を受け取った狼陛下(仮称)は、フタをキュポン(←あらイイ音)と開けると、

「姫、失礼いたします」

言うなり中身をふぅちゃんに振りまいた。――距離があるのに見事な狙いだね。

 当然、ふぅちゃんはビックリしていっそうあたしに体を押し付ける。

「あらあら、ふぅちゃん大丈夫――っう?」


 量は多くなかったものの(小瓶だったし)、っぽいモノをかけられてフルフルと頭や耳をふるわせて振り払っていたふぅちゃんが、急にうっすらと光りだした。全身を淡い光りが包み、それが少しずつ強くなっていくのを、あたしは心の中で「ふぅちゃんが、ふぅちゃんが光ったー!」とアルプスの少女の名ゼリフ風に叫びながら見ていた。


 …………やがて、その光が消えると。

 あたしの膝を跨ぐように四つん這い状態の、女の子がそこに居た。

 こーれーはー。

 どー考えてもー。

 え~、皆さま(←いや、やっぱり誰にってわけじゃないんだけど)、うちのワンコが(ひと)()になったようです。




 犬が好きです。

 日本犬好きです。柴や日本スピッツも良いですが、やっぱり秋田です♪


 抱きつきがいのある大きいコが好みです。

 洋犬ならシェパードとかアラスカンマミュートとか。


 

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