表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
番だからって無理して愛さなくていいです  作者: 千堂みくま@9/17芋令嬢comic2巻発売
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/10

2の4 カイン、王城にて(カイン視点)

加護持ちの職場がある建物を出たカインは、ひとりで王城へと転移した。

カツカツと足音を鳴らしながら大股で廊下を歩いていると、そこかしこからヒソヒソと声が聞こえてくる。


「呪われた王子……」


「もう番は得たのだろう。まだ陛下に頼み事があるのか?」


「あの髪と瞳、いつ見ても気味が悪い」


要職に就いている貴族達だ。

彼らはカインを目にする度に、聞こえよがしに陰口を言う。

幼少の頃からこんな状態なので、聞こえない振りをするのにもすっかり慣れてしまった。


(気味が悪い、か……。そう言われても仕方がないかもな。俺のせいで母は死んだのだから)


王城に自分の居場所はないと悟ったカインは、わずか八歳で王城を出て、闘神の加護持ちが代々《だいだい》治める土地へと移った。

彼にはもう家族を苦しめたくないという決意があった。

国王の執務室に着くと、ドアの前に立っただけで向こうから開いた。


「やっと顔を見せてくれたな」


弟が来るのを今か今かと待ち構えていたのだろう。

国王――カインの兄、セドリックはにこやかに弟を迎えた。

さあ座れと促されてソファに座ると、お茶の用意が整ったテーブルが視界に映った。


「セラが教えてくれてな。もうすぐここにお前が来るだろうと」


そう言われて部屋を見渡せば、執務机の上でクッキーをついばむ空色の鳥と視線が合った。


「余計な事をするな、セラ。ノアを守るように言っただろう」


カインが叱りつけても鳥は知らん顔で、窓をコツコツと嘴でつつく。

セドリックが窓を開けてやると、その隙間から飛んで行ってしまった。


「そう怒るな、セラはお前の事が心配なんだ。でもその顔だと、番とうまくやっているようだな? 表情が柔らかくなった。いい傾向だ」


セドリックはカインの真向かいに座った。

真正面から兄の顔を見て、しみじみとカインは思った――「全然似ていない」と。

セドリックは父譲りの金髪、そして母譲りの紫の瞳を持つ。


父は金髪碧眼で、母は銀の髪に紫の瞳だったから、カインだけが両親のどちらにも似ていない。

その理由はカイン自身も分かってはいるが、自分はまるで王家に侵入した異分子のようだと思う。

カインは暗い考えを脳裏から追い出し、セドリックに話しかけた。


「孤児院の件ですが、無理を言って申し訳ありませんでした」


「あれぐらい、無理なんかじゃないさ。孤児達が立派な大人に育てば、国の財産となる。そのように言ったら、反対する貴族は誰もいなかった」


「ありがとうございます。やはり兄上は、人を動かす力をお持ちだ」


「褒めても何も出ないぞ……と言いたいところだが、お前は昔から何も欲しがらないからなぁ。初めてじゃないか? お前が私に頼みごとをしたのは」


そう言って紅茶を一口飲むと、砕けた口調で言った。


「で、どうなんだ? 番は可愛いんだろう? 私に頼みごとをするくらい、惚れてる訳だな?」


「……そういう話をするのなら、もう失礼します」


カインが立ち上がろうとすると、セドリックは慌てて「ちょっと待て」と言った。


「冗談だ。……まったく、冗談ぐらい言わせろ」


「兄上には感謝しています。婚約に関する通達の件も……もう充分です」


カインの番が現れるというお告げがあっても、カインはセドリックに何も頼んだりはしなかった。

セドリックが弟の負担を減らすために、独断で通達を出したのだ。


しかし内情を知らない貴族達は、カインが兄に頼んだのだろうと思っている。


(これ以上何かを兄上に頼めば、さすがに貴族達は黙っていないだろう。兄上の国王としての立場が危うくなる)


カインが立ち上がると、セドリックは低い声で言った。


「先ほど、ミレーナ嬢がここに来た」


カインが思わず兄の方を振り返ると、彼は心配そうに弟を見つめていた。


「あの番はカイン殿下には相応しくないと訴えてな……。ミレーナはお前の領地に行けると決まった時、大喜びではしゃいでいた。……多少、厄介な事になるかもしれない」


カインは一礼し、淡々と言った。


「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。後はこちらで対処します」


部屋を出る寸前、ドアの隙間から不安そうな兄の顔が見えた。

それでもカインは扉を閉めて歩き出した。


(子どもの頃から、誰も選ばないつもりで距離を置いてきたのにな……。そう簡単に諦めてはくれないか)


ミレーナがカインの妃になりたいと望んでいるのは気づいていた。

彼女の努力も知っている。

それでもカインは、ミレーナを選ぶ訳にはいかなかった――いずれ番が現れると、知っていた(・・・・・)からだ。


後ろから「カイン兄上」と呼ぶ声がして、カインは足をとめた。

ようやく七歳になったヨシュアがぱたぱたと駆けてくる。


セドリックとカインは五つしか離れていないが、ヨシュアだけ極端に年が離れているのは、ある理由からだった。


「お久しぶりです! 僕は七歳になりました!」


「……おめでとう、ヨシュア。誕生日に来れなくてすまなかったな」


頭を撫でてやると、小さなヨシュアは「えへへ」と笑った。


「兄上は魔獣退治で忙しいのですから、仕方ないです。僕は我慢できます!」


こちらを見上げるヨシュアの瞳は澄んでいて、カインは目を逸らしたくなった。


俺はお前から母親を奪ったのに、どうしてそんな目ができるんだ。

お前は俺を恨んでもいいのに。


前王妃はカインを産んでから、部屋に籠りがちになった。

カイン王子は不義の子ではないかと、貴族達が噂したからだ。


――わたくしは陛下を裏切ってなどいない。それを証明してみせるわ!


そう言って産み落としたのがヨシュアで、彼女は産後すぐに亡くなった。

高齢で出産したせいで、体を壊したのだ。

死ぬ直前、銀の髪と青い瞳を持つ男児を見て、安堵した顔で呟いたらしい……「間違いなく、陛下とわたくしの子だわ」と。


母の思いを想像する度に、カインの胸は締め付けられる。申し訳なくて、何度でも謝りたくなる。


(それでも俺は、王家に生まれなくてはならなかった。……今度こそノアを救うために)


闘神の加護持ちは、必ずヴァルト王家に生まれる。

加護持ちのほとんどが十歳以降に加護の痣が出るが、カインはわずか五歳で痣を得た。

貴族達がカインを「呪われた王子」と恐れるのも、無理はない話なのだ。


(ノアと二人で、ひっそりと生きていこう。もう誰も苦しめないように)


カインはヨシュアの手を取って、ゆっくりと歩き出した。

兄と弟の幸せを壊したくない、ただその思いが胸にあった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ